EU:欧州委、種子GM汚染上限設定へ、共存は可能なのか

農業情報研究所(WAPIC)

03.9.30

 欧州委員会が、通常・有機農業の種子のGM汚染の上限を定めようとしている(Questions and Answers about GMOs in seeds,03.9.29)。

 その背景または動機は、GM農業と通常・有機農業の「共存」の確保である。そのためには、通常・有機農業からの生産物のGM汚染を、GM表示義務を免れる0.9%以内に抑える措置が講じられねばならない。この汚染は、生産・収穫・貯蔵・輸送・加工・流通の全過程で起こり得るが、生産段階以前の種子の汚染もある。種子汚染が0.9%を超えていれば、生産以降の過程で汚染ゼロに抑えても、共存は成り立たないことになる。種子汚染の限界設定は、共存確保のための不可欠の措置であるわけだ。

 問題は上限を具体的にどう定めるかである。欧州委員会は、2001年3月17日の植物科学委員会(SCP)の意見(Opinion concerning the adventitious presence of GM seeds in conventional seeds)に基づき、この上限を次のように定めることを考えている。上限設定の対象作物は、当面、EUで現在までにGM品種が承認された作物に限られる。

 ルタバガ(スウェーデンカブ):0.3%

 ビート、トウモロコシ、ポテト、ワタ、チコリ、トマト:0.5%

 大豆:0.7%

 これらの上限は、最終製品のGM汚染を0.9%以内に抑えることを念頭に、植物繁殖システムや偶然の種子汚染の蓋然性などを考慮に入れて決められたという。

 種子汚染ゼロの可能性は最初から排除された。交雑は自然現象であり、GM汚染に限らず、種子の純粋性を保つことは不可能であるとされた。EUでは、今のところGM作物の商用栽培はほとんどないが(スペインのみ)、EUは通常作物種子をGM作物が栽培されている国からの輸入に大きく依存している。トウモロコシ種子、大豆種子、ワタ種子、油料種子ナタネ種子の輸入依存度は、それぞれ33%、80%、66%、10%になる。最近の研究でも、通常種子中の「偶然」または「技術的に不可避」のGMOの存在が不可避であることを示したという。

 しかし、そうであれば、GM農業と通常・有機農業の共存は、極めて困難であるか、不可能な場合もあり得ると考えざるを得ない。SCPの意見は、GM表示義務免除の上限を当時の欧州委員会の方針に従い1%とすることを念頭に出されたものであり、3%、5%の汚染上限も、現在の「理想的な」種子生産の下でのみ達成できるもので、将来、表示義務の境界の1%の再考も必要になるかもしれないとしていた。GM作物が大規模栽培されるようになれば、「自然現象」による種子汚染の機会は当然増える。そのうえ、生産段階以降の全過程での汚染の機会も増える。仮に種子汚染の上限が上記のように定められたとすれば、生産以後の全段階での汚染は0.6%(ルタバガ)、0.4%(ビート等)、0.2%(大豆)以内に抑えねばならない。後の二者では、この汚染を種子汚染よりも低く抑えねばならないことになる。どうしたらそれが可能になるのか。

 フィシュラー欧州委員は、昨日(29日)開かれた閣僚理事会にGMOと通常・有機農業との共存に関するガイドラインについての委員会勧告を提出した。これは法律ではないから、必ずしも理事会の合意を要するものではないが、EU各国の共存措置の円滑な実施を求めて、敢えて議論に付したものだ。だが、ガイドライン提出に際してのフィシュラー委員の説明は従来の立場を繰り返すもので、新味はない。要点は次のとおりだ。

 ・GMOの健康・環境リスクはGMOの承認に際して十分に評価されているから、共存ガイドラインは食品安全や環境リスクの問題に取り組むものではない。それは、共存の条件を設定することで、通常・有機農業を望む農業者に望みどおりの農業を確保させるものである。

 ・共存措置の有効性と費用効率性を決定する要因は多様で、国・地域や農業慣行によって特定的なものである。また、作物によっても交雑の可能性や頻度が異なる。従って、欧州委員会のガイドラインが一般的方向付けは提供するが、EU各国が国の状況とニーズに応じてこれを実施する。

 ・地域の農業者間の協力と情報・経験の交換が重要である。例えば、自主的ベースでのGM無し生産区域有機生産区域の設定は支持できる。また、責任(損害が発生した場合の補償責任)問題は、国レベルで対応することができる。

 しかし、これで「共存」が確保できるのか。フランスでは、国立農学研究所(INRA)と農業経営者連盟(FNSEA)が非GM部門を維持するために何が必要か調べるためにトウモロコシに関する共同研究を行なったが、汚染を1%までに抑えるにはGM作物と非GM作物の距離を100m離すか、開花期を4日ずらす必要があった。また、15haGM区画による非GM区画の風による汚染率の評価では、平均2mの風速のボースでは隣接区画の汚染率は0.7%であったが、平均風速6mのローヌの谷では100ha以上の隣接地域での汚染率が1%となった。その上に、種子汚染と生産段階以後での汚染が加わることになる。INRAは、0.9%に抑えることは可能だが、費用の拘束があり、農業者間の協調が不可欠と言う。EU各国は大変な難題を負わされることになる。少なくとも有機農業は、有機農業者と消費者がGMゼロ(実際上は検出限界の0.1%未満)に固執する限り、種子汚染だけによっても存続不能になる。

 9月11日、フランスの全国有機農業連盟(FNAB)は、欧州委員会に対し、種子の汚染上限を現在の検出限界である0.1%にすることを要求、さらGM関連部門の完全な分離を可能にする全事業者の義務的認証、GM関連部門事業者による0.1%以上の汚染の際の有機農業と加工業者への損害賠償を求める決議を送りつけた。地球の友・ヨーロッパは、9月19日、例えばナタネのような作物について、提案された種子汚染のレベルは、農業者がそれと知らずにへクタ−ル当たり1万のGM種子を撒くことを許すもので、「スーパー雑草」発生などの環境リスクばかりか、消費者がGM食品を強要される汚染にもつながると、EU閣僚に欧州委員会のプランの阻止を要請した。

 この問題は、今後、国レベル・広域地域レベルでのGM禁止区域の設定の可能性の問題とならび、閣僚理事会における今後の最大の論争点となるであろう。このような区域の設定は、GM農業を排除するものだから、あくまでもGM農業と通常・有機農業の「共存」をめざすフィシュラー委員は絶対に認めないと言明している。北オーストラリアのGM禁止の要請は拒否された(⇒欧州委員会、北オーストリアのGMO禁止要請を拒否,03.9.3)。フィシュラー委員は、29日の閣僚理事会で、「共存論争が新たなGMO承認のさらなる遅延の口実とされてはならない」と強調した。しかし、英国がGM作物導入の決定の延期を余儀なくされそうな状況にあるように、EU各国ー特にオーストリアやルクセンブルグー政府は、これをすんなり受け入れられるような状況にはない。

 なお、提案されている種子汚染上限は、EU各国の担当官で構成される「農業・園芸・林業用種子及び繁殖物質」に関する常設委員会の投票にかけられ、その後60日間、WTO加盟国のコメントを求め、最終的には欧州委員会の採決に付される。

農業情報研究所(WAPIC)

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