米国農務省、遺伝子組み換え(GM)作物規制見直しへ

農業情報研究所

04.1.28

 米国農務省(USDA)は1月22日、一定の遺伝子操作(GE)生物の輸入・州間移動・環境放出に関するバイオテクノロジー規制を見直す意向を明かにした(News release:USDA Announces First Steps To Update Biotechnology Regulations)。バイオテクノロジーの発展に応じて規制も改める必要があるからだという。

 この見直しのために、USDAの動物植物保健検査局(APHIS)がそのバイオテクノロジー規制とあり得る規制の変化を評価するための「環境影響ステーツメント」を用意する。このステーツメントで考慮される主要な変化は、現在は規制の対象となっていない一定の植物や昆虫へのUSDAの規制権限拡張やGE作物のフィールド実験に許可を与えるシステムのオーバーホールである。

 現在、APHISは植物病害虫(注1)のリスクがあり得るGE生物の導入(輸入・州間移動・環境放出)を規制しているが、今後は、とくに有害雑草(注2)のリスクがあり得るGE生物や生物的防除GE生物(注3)などのGE植物、その他のGE生物の導入に関係する規制も行うことを考える。新たな許可システムは、GE生物を潜在的リスクに基づく多様な階層に分類、各階層ごとに規制の程度を変化させるものとする。ベナマン農務長官は、「我々の規制システムは厳格であるとともに柔軟で、健全な科学的原理とリスクの軽減に基づくものでなければならない」と言っている。

 (注1)原生動物、人間以外の動物、寄生植物、バクテリア、真菌、ウィルスとウィロイド、感染性その他の病源体。
 (注2)作物、家畜、家禽、灌漑、航行、自然資源、公衆衛生、環境に直接・間接に損害を与える恐れのある植物と植物製品。
 (注3)植物病害虫や有害雑草を防除するために使われる天敵や競争生物。

 米国では、APHIS以外の連邦諸機関もGM生物の規制にかかわっている。たとえば、一定の生物的防除生物に関しては環境保護庁(EPA)が権限を持っている。APHISは、それが提案する規制の変化はAPHISの規制に関係するのみで、他の規制機関の行動を制限する意図はないとしながら、これら機関の将来の行動の前奏ともなると言う。バイオテクノロジーの変化により、縦割り行政では的確な規制がますます困難になることが意識されているようだ。この発表は、新技術は、GM生物が食品供給を害し、既存の生物種を危機に陥れることがないように保証せねばならないと結論した20日発表のUSDA委嘱研究報告(GM生物を閉じ込める100%有効な方法はない―全米科学アカデミー報告,04.1.21)を受けてのものだ。

 APHISが提案する「環境影響ステーツメント」の研究テーマは次のようなものである(Environmental Impact Statement; Introduction of Genetically Engineered Organisms,1.22

1.規制対象を植物病害虫のリスクを呈し得るGE植物を超えて、有害雑草のリスクを呈し得るGE植物と、生物的防除生物として利用される可能性のあるGE生物にまで広げる。これらの生物の規制要件の策定が必要かどうか。どのような環境配慮をすべきか。

2.規制は、特定のリスクに基づくフィールド実験向けの製品タイプを定める。これらのタイプには、(a)病害虫・環境リスクが低いタイプ、(b)未知の表現型機能の塩基配列を含み、また新たな植物合体防除剤にかかわる有害雑草リスク、未知の植物病害虫または有害雑草リスクがあるタイプ、(c)食品用または飼料用ではない薬品または工業製品生産作物が含まれる。このような線引きにさらなる輪郭を与えるのにどんな環境要因が考慮されるべきか。リスクに基づく分類の確立に利用されるべき基準はどのようなものか。一定の低リスクの種類には許可要件の免除を考えべきかどうか。もしそうならば、どんな基準が適用されるべきか。

3.一定のGE生物の商品化を許すことで将来の決定のための規制の柔軟性を提供する一方で、一部のケースでは、マイナーな未解決のリスクに基づく生物の規制を継続する。その他の規制される商品は、現在のシステムによるのと同様に扱わうことができ、すべての規制的制限が除去される。これら諸種の決定を区別するのにどんな環境要因を考慮すべきか。

4.薬剤・工業製品成分を生産する作物の環境影響審査及び許可条件の改変を考慮すべきかどうか。薬剤及び工業品成分を生産するために使用される非食用作物の審査プロセス・許可条件・その他の条件は食用作物のそれらと異なるものとすべきかどうか。食品安全性評価の結果がこれら作物タイプの審査・許可条件・その他の要件にどのように影響を与えるべきか。完成した食品安全性審査がない場合には、それがこれら植物のタイプの要件にどのように影響を与えるべきか。

5.”有害雑草”には植物だけではなく、植物製品も含む。APHISはその権限に基づき、生残不能な植物物質の規制も考える。生残不能な物質の規制は妥当かどうか。もしそうならば、どんなケースで規制するべきか。

6.生産者が開放系放出の承認プロセスよりも政府監視下の封鎖系での薬品・工業品成分の開発と抽出を選ぶ場合、非食用・非飼料用植物の商業的生産に関してAPHIS・州・生産者がかかわる新たなメカニズムの設立を考える。このメカニズムの特徴はいかなるものであるべきか。このメカニズムは非食用・非飼料用植物の商用生産にどの程度使用すべきか。このメカニズムの開発にどんな環境配慮がなされるべきか。

7.現在の規制は、必要な規制プロセスを完了していないGE植物物質が商用の作物・食品・飼料・種子の中に偶然に存在―時々の、低レベルの存在―している場合の規程を欠いている。このようなGE物質の偶然の存在に対処する別の構成要素を修正規制システムの内部に設けるべきかどうか。低レベルの存在は規制を免除されるべきかどうか。もしそうならば、低レベルの存在が許される条件は何か。そのような条件の策定にはどんな環境配慮がなされるべきか。

8.原産国で承認を受け、米国で普及させることを意図していない輸入のための一定の低リスクのGE商品の簡便審査または審査免除を定めるべきかどうか。そのような許容の決定にはどんな環境配慮がなされるべきか。

9.現在、GEシロイヌナズナ1番染色体は、十分に理解され、専ら研究に利用されるために、州間移動の制限を免除されている。他の類似のGE植物の規制はこの規制に合わせるべきかどうか。州間移動制限の免除はリスクに基づく特定の基準に合致するこれら製品にのみ適用すべきかどうか。これらの基準はいかなるものであるべきか。この免除のためにはどのような種や形質を考えるべきか。どんな環境要因を考えるべきか。

10.リスクが低レベルであることによる規制要件の緩和は他のどんな分野で考えられるか。

11.GE生物の輸送のための容器について、その要件を規範的なものからパフォーマンスに基づくものに変えるとすれば、どんな環境配慮がなされるべきか。

 APHISは、このように規制変更を提案、そのために考慮すべき様々な問題についてコメントを受け付ける。今年3月23日までに受け付けるコメントは、すべて「環境影響ステーツメント」の作成のために考慮するとしている。

 関連ニュースに掲げたマスコミ報道によると、バイテク産業団体(BIO)は、「人々が新たなテクノロジーに安心感をもつのを助ける最善の方法の一つは、強力で、堅固な規制が存在すると知ることだ」と、規制が科学に基づくこと条件にUSDAの発表を歓迎している。環境・消費者団体も、待望していたニュースだと好意的な反応を見せている。ただし、食品安全センター法務理事のJ.メンデルソン氏は、一定の生物が審査を免除されることになれば、改革は規制強化につながらないと心配している。いすれにせよ、規制見直しには長い時間がかかり、改革案が採択されるまでには数年を要すると予想されている。

 関連ニュース
 Rules on Biotech Crops to Be Revised:USDA Will Examine Environmental Impact of Genetic Engineering,Washington Post,1.23
 Rethinking Regulation of Engineered Crops,The New York Times,1.23

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