オーストラリア:カノーラ大規模実験承認へ、GM汚染の責任を誰が取るのか

農業情報研究所

04.3.24

 オーストラリア・ニュー・サウス・ウエールズ州(NSW)の遺伝子組み換え(GM)諮問委員会がGMカノーラの大規模栽培実験にゴーサインを出すという(Meeting sows seeds of big GM trial,ABC Online,3.18)。モンサント、バイエル両社が申請しているオーストラリアでは最初のタイプのGMカノーラの実験で、栽培面積は3,500haにもなる。

 自然保護委員会を代表する委員のJo Immingは、責任と汚染の問題への取り組みがないと怒り、この決定の裁決前に席を立った。彼女によると、近隣農場が汚染された場合の法的責任の問題を取り上げようとしたが、会合はこれについての議論を封じてしまった。委員の大多数は、「コモン・ロー」に従わねばならないと考えているという。

 これを受け、NSWのマクドナルド農相は、議会で、農民が汚染の可能性に対する法的保護を与えられるまでは、NSWで一切のGM食用作物の栽培は認めないと語った。しかし、彼は、連邦政府とカナダ・米国・ニュージーランドの政府はコモン・ローで農民を十分に保護できると認めてきたと言い、政府あるいは開発企業が汚染が起きた場合の法的責任を負うのかどうかについて何も語らなかった(Farmers promised legal protection over GM,smh.com,3.19)。

 「憂慮する農民ネットワーク」は、農民が責任を負わされないように保証すると言いながら、コモン・ローで責任問題を扱うと言う農相声明は矛盾していると言う批判を発した(NSW Minister promises farmers are protected from liability issues,3.20)。生産者と購入者の契約協定の下では、「非GM」またが「GMフリー」の保証に誤りがあると公正取引法に基づいて証明された場合には、農民が責任を負うとされており、コモン・ローでは農民が責任を負うことになるからである。実験による汚染からくる生産者の損害の責任は、生産者自らが負わねばならないことになる。このような理不尽を避けるためには、GM農業と非GM農業の「共存」を確保する措置と汚染が生じた場合の責任を明確に定める特別法規が必要というのがJo Immingやネットワークの主張である。

 同じネットワークの「非GM農民」は次のように分析する(1% contamination is not OK,04.1.22)。

 完成品に含まれるGMDNAが1%未満ならば、この製品に非GMと表示することは許されている。だが、この表示のための基準と市場の現実は異なる。市場は、「非GM」または「GMフリー」の表示は、GM汚染がゼロである受け止めるのが現実であり、事実、有機市場のみならず、多くの購入者は、そのような非GM品を要求している。「非GM(non-GM)」に関する法的見解は、「公正取引法は、消費者製品に関連してなされる間違った、誤解を招く、虚偽の表示を禁止している。”non”の定義は”no”または”free-of”と類似だ」と言い、オーストラリア競争・消費者委員会も、「GMフリー」作物はGM作物のいかなる痕跡も含んではならないと言う。

 にもかかわらず、遺伝子技術穀物委員会(GTGC)は、「カノーラ」を「承認されたGM事象(events)を含むかもしれないか、含まないかもしれない」、「非GMカノーラ」を「GMの偶然の存在は市場の基準以内」、「GMフリー・カノーラ」を「GMの偶然の存在が’ゼロ’の市場基準」と定義している。これは法的定義と市場の受止め方を完全に無視しているわけだ。

 GTGCの定義による「カノーラ」、「非GMカノーラ」、「GMフリー・カノーラ」の「共存」措置(すなわちGMカノーラによる汚染を基準以内に抑える汚染防止措置)が取られたとしても、「偶然の汚染」(事故による汚染、技術的に不可避な汚染、汚染が起きると分かり・科学的の証明されており、十分な予防措置が取られていないならば偶然とはみなされない)が起きれば、非GM、GMフリー農家は損害をこうむり、「偶然の汚染」でないと立証しないかぎり、損害を自ら背負うことにならざるを得ない。それどころか、カナダのシュマイザー氏のように、バイテク企業の特許権侵害で、逆に訴えられる事態さえ生じかねないわけだ。

 それにもかかわらず、特別立法でこの問題に取り組んでいるのは、主要国ではオーストリアとドイツだけだ。オーストリア法では、偶然の汚染に際してはGMO放出企業が健康・財産・環境のすべての損害に責任を負い、原状回復をせねばならず、十分な責任保険をかける義務も課される。ドイツ法は、バイテクで創出された生物の特性により引き起こされる財産または人間の健康への損害に責任を課す。

 EUは、共存措置の一環として、各国に適切な国内法の検討を要請したばかり、米国、カナダ等は、上記のとおりだ。カルタヘナ議定書がこの問題で国際的基準を採択するのは当分先のことだろう。

 それにしても、オーストラリアやEUが「共存」問題に取り組んでいるのは、日本や米国に比べればまだましだ。日本は、5%基準の表示規則を設けながら、そして多数のGM作物の一般圃場栽培を承認して何時でもそれが始められる状態にありながら、近隣作物の汚染を5%以下に抑えるための「共存」措置さえ設けていない。したがって、「責任」問題など意識にも昇らない。2月に農林水産省所管の独立行政法人のための「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針」でようやく汚染防止措置が定められたが、責任問題は汚染など起こりえないと完全に無視された。しかし、汚染が100%起こらないというのは、科学的常識に反する。人間がすることには、常に過誤も伴う。米国でも多くの実験で、規制違反が発覚している。まして、この指針の対象とならない研究開発施設、一般栽培では何が起きるか分からない。この状態では、農家や消費者には実験も含めたGM作物栽培の全面禁止以外に選択肢がないではないか。この状態は、農業バイテクの唱導者にとっても決して望ましいものではないはずだ。

農業情報研究所

グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境