Bt毒「避難地」の非GM作物が汚染、害虫の抵抗性発達抑制戦略が疑問に

農業情報研究所

04.5.12

 モンサント社が遺伝子組み換え(GM)小麦開発の中断を発表したことで、一部反GM団体は大喜びのようだ。だが、こんなことで喜んでばかりもいられない。除草剤耐性・害虫抵抗性の大豆、トウモロコシ、カノーラ、ワタなどの既開発GM作物の栽培の拡大は止まっていないし、新たな諸種GM作物の開発も進んでいる。GM小麦開発の中断は、逆に別種のGM作物の開発と拡大への圧力を強めるだろう。自ら開発に熱心な中国やインドでの栽培拡大が進むだろうし、開発企業の東南アジア、中南米、アフリカ諸国へのGM作物売り込み攻勢も一層強まるだろう。

 GM作物にやみくもに反対するつもりはないが、とりわけGM作物の環境影響については分かっていないことが多すぎる。短期的には経済的・環境的利益も考えられるかもしれないが、GM作物採用とそれに伴う農業方法の改変が、農業・食糧生産や環境の持続可能性にどんな影響を与えるかについては、確かな展望はまったくできていないのが現状であろう。農業・食糧生産や環境への破滅的影響の恐れは決して消えておらず、とりわけ途上国でこのような事態が起きかねないことを恐れるのである。

 GM小麦開発中断の知らせにこんな感慨を抱いているまさにそのときに、またまたGM作物の環境影響の懸念を裏付ける新研究が発表された。花粉移動により、GMトウモロコシの害虫を殺すBt毒生産遺伝子が「避難地」の非GM作物を汚染しているというのである。

 GMBt作物に常時曝される害虫は、次第に抵抗性を発達させる。Bt作物が本来の目的を達成するためには、この抵抗性発達を抑えることが不可欠となる。さもなければ他の殺虫剤使用が必要になり、このような作物を栽培する意味はなくなる。そこで考案されたのが、Bt作物のできるだけ近くに害虫の「避難地」としての非GM作物を栽培し、この避難地のBt毒に曝されていない害虫とGM作物栽培地の害虫を交雑させることで抵抗性発達を妨げるという戦略である。現在Bt作物を栽培する米国やその他の国では、一定のガイドラインに従って、このような「避難地」を設けているのが普通である。

 ところが、米国のこのようなガイドラインの策定に関係したアリゾナ大学のブルース・タバシュニク教授等の研究チームが、花粉移動により「避難地」の非GM作物自体が汚染されていることを発見した。現場から採取された非GMトウモロコシのサンプルの免疫学的検定により、穀粒のBt毒遺伝子濃度を調査したところ、平均濃度は45%になり、GM作物から遠ざかるほど濃度は低かった。現在のガイドラインでは、避難地害虫との交雑の頻度を増すために、GM作物のできるだけ近くに避難地を設けることになっている。だが、これでは避難地の害虫自体が抵抗性を発達させ、現在の「避難地」戦略が無効となってしまう。現在のガイドラインは、教授自身、見直す必要があるという。研究は10日、全米科学アカデミーのProceedings誌に発表された(Charles F. Chilcutt and Bruce E.Tabashnik,Contamination of refuges by Bacillus thuringiensis toxin genes from transgenic maize, Published online before print May 10, 2004)。

 害虫のBt毒抵抗性発達については、今までにも報告がなかったわけではない。だが、これを守れば大丈夫とされてきたガイドライン自体の見直しの必要性が確たる根拠をもって指摘されたのは初めてと思う。しかし、避難地を遠ざければ、今度は交雑が起き難くなり、抵抗性発達抑制という目的自体が達成できなくなるかもしれない。ガイドラインでけでなく、「避難地」戦略自体の見直しも必要になるかもしれない。その場合、別のどんな戦略があり得るのだろうか。GM作物栽培の環境影響は分からないことばかりだということを示す一例となるだろう。

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