米国国際開発庁、ナイジェリアのバイテク・プロジェクトを始動

農業情報研究所

04.5.17

 米国国際開発庁(USAID)、ナイジェリア政府、国際熱帯農業研究所が、農業改良に向けてバイオテクノロジーを活用するための基盤を築く210万ドル(約2億3千万円)のプロジェクトを始動させた。米国のナイジェリア総領事とナイジェリア農業・バイオテクノロジープロジェクト(NABP)によると、選別されたナイジェリアの大学と研究所のネットワークを樹立、3年計画で、ナイジェリア科学者と研究所のバイオテクノロジー能力の改善、国民の啓蒙、バイオセーフティー政策の改善に取り組むという。研究機関は、ナイジェリアと西アフリカの小農民の食糧安全保障への脅威を減らすために、害虫抵抗性のササゲを開発し、またモザイク病抵抗性のキャッサバのフィールド実験に取り組む(USAID Launches $2.1m for Nigeria Agricultural Biotechnology Project,Vanguard (Lagos),5.14)。

 ササゲは最も手頃な植物蛋白源の一つである。キャッサバはヤムと並ぶナイジェリアの主要農産物の一つであり、年3千500万トンを生産する世界有数の生産国である。食糧安全保障のために重要であるだけでなく、重要な国際貿易商品に育つ可能性もある。干ばつに悩む南部アフリカ諸国は、高価で希少になった飼料用穀物の代替品としてナイジェリアのキャッサバを使う可能性を探索している。60年代末の大規模な石油資源発見以来、農業に依存してきたナイジェリアの開発はすっかり石油輸出収入に依存するようになった。農業は軽視され、それは石油収入が劇的に減少するようになってからもなお続いた。オイルマネーは都市に集中、少数者のみを利する非生産的プロジェクトに注ぎ込まれた。結果は、失業、飢餓、貧困、病気、果ては武装強盗や汚職などの社会不安だ。経済の多角化は、ナイジェリアの喫緊の課題となっている。オバサンジョ大統領は、ナイジェリアの富の増加につながり得るあらゆる資源が無視され、軽視されることがないように保証する戦略の一環として、ナイジェリア・キャッサバの潜在市場の実現に動いている(Nigeria's Golden Cassva,Vanguard (Lagos),5.6)。新たなバイテク・プロジェクトは、これを後押しする最も有力な手段と見られているわけだ。

 このようなプロジェクトが国民的合意を得ているわけではない。バイオテクノロジーと遺伝子組み換え(GM)製品を共同で促進するというメモランダムへの今月初めのナイジェリアと米国による調印に際し、環境保護グループのナイジェリア地球の友は、遺伝子組み換え(GM)は、「否定的な環境的・経済・文化的・倫理的・政治的・健康上の影響を及ぼし得る」と警告した(Group Warns On Genetically Modified Crops,This Day (Lagos),5.6)。有力紙の一つであるDaily Champion (Lagos)11日付の社説(Issues in Biotechnology)も、サブサハラ・アフリカの死因の50%が栄養不良に行き着き、アフリカの子供の2千500万から3千万が栄養不良状態にあり、来るべき20年の穀物の生産と需要のギャップが現在の900万トンから2千700万トンに跳ね上がろうというときに、飢餓と影響不良との戦いに勝つ技術と売り込まれるバイテクの研究とその採用の可能性に目が向くのは不可避だが、これはナイジェリアとアフリカ諸国の文化・食生活・社会経済的背景の中に位置付けられねばならないと警告した。GMをめぐっては、健康問題を重大化させ、環境を損傷し、植物遺伝子を汚染する可能性が指摘されてきたし、人間が神になり代わるのかといった倫理的懸念、規制メカニズムの妥当性への懸念、さらには遺伝子特許によるバイテク企業の経済支配の恐れも広く浸透していると言い、政府に対し、GM製品導入前に、これらの問題に完全に対峙する用意を整えねばならないし、それ以前に、現在の農業方法に注意を向け、肥料や種子にもこと欠く農民に手頃な農業生産資材を提供しなければならないと要請していた。

 だが、こうした警告は、ナイジェリア政府や米国政府、研究者・研究機関の眼中にはないようだ。先進国での戦線が膠着状態に入るなか、途上国を最前線とするGM世界戦争はますます激しさを増すだろう。

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