国際バイテク普及団体、近々の中国GMライス承認、アジア諸国波及を予想 

農業情報研究所(WAPIC)

05.3.2

 農業バイテクの国際普及団体で、バイテク利用が世界の飢餓削減を助けると喧伝している”農業バイテク応用習得国際サービス”(ISAAA)の会長で創設者のクリーブ・ジェームズが2月28日、中国は2年以内に遺伝子組み換え(GM)ライスに門戸を開き、アジア全体の食料にGM作物が流れ込むための道を開くと話している。ロイター通信がブリュッセル発の情報として伝えた(China Seen Opening Door Soon to Biotech Rice,Reuters,2.28)。また、遅れて、新華社も類似の情報を伝えている(Biotech rice to get nod for commercial production,Xinhua.net,3.2)。

 ロイターによると、クリーブ・ジェームズは、「米は近々、恐らく2年以内に中国で承認されそうだ」、「中国が承認すれば、米が王様であるインド、パキスタン、フィリピンなどアシア米生産国全体に広がる」と語る。

 彼によると、作物バイテクへの中国の年々の投資の20%ほど(新華社情報では11500万ドル)が米に向けられており、この分野では米国に次ぐ世界第二の投資国になっている。「中国では、年に最低2億ドルが投資されている確かな証拠があり、これを5億ドルに増やすつもりだ。それも作物バイテクだけでだ。中国は既に非常に重要なプレーヤーになっている」。さらに、家畜飼料に使われるトウモロコシへの需要が97年から2020年の間に80%も増えると予想されたから、GMトウモロコシ開発も重点目標となってきた、将来はGM小麦の開発もそうなるだろうと予想する。

 他方、北京発の新華社の報道によると、同じISAAAのランディー・ホーティー(Randy Hautea)は、すべてのシグナルは中国が年内にGMライスの商業栽培を始める可能性を示していると言う。彼によると、中国は過去数年、GMライスの広大なフィールド実験を行っており、年内に商業栽培許可が予想される。

 湖北省と福建省の二つのGM品種のフィールド実験では、収量が4%から8%増加、農薬使用量も80%減り、1ha当たり純所得が80-90ドル(8400-9500円)増えることが示された。彼は、低級米の輸入を余儀なくされた昨年の米供給逼迫がGMライス米を果敢に追求する要因になりそうだ、中国の米生産の変動は、大部分は悪天候がもたらしたものだが、害虫抵抗性品種は生産の安定に役立つと考える。開発中のGMライスは中国を含むアジアの主要問題である穿孔害虫に抵抗性を持つもので、中国ではこの害虫が国の約3000haの米作付地の75%に広がていると言う。

 彼もまた、中国が承認すれば、他のアジア米生産国もこれに続くと見る。インドの農業バイテク特別委員会は、イネのような主要作物の遺伝的多様性の第一級または第二級の中心なす国内の諸地域は、「農業生物多様性の聖域」として、子孫のために保存すべきだと勧告している(インド特別委員会、農業バイテク利用で勧告,04.6.3)。しかし、インドも含むアジアの主要米生産国の農業当局は、環境団体の強い反対にもかかわらず、GM作物導入の誘惑に駆られている。中国が承認することになれば、これらの国も一気に承認に走る可能性は確かにある。

 ただし、害虫抵抗性のGMライスが本当に、また長期にわたり生産の安定に役立つかどうかに関しては、なお多くの疑問がある。中国は既に世界最大の害虫抵抗性GMワタ(害虫を殺すBt毒を産出するBtワタ)栽培国となっているが、害虫のBt抵抗性発達、害虫の天敵減少、他の害虫の増加などから農民は農薬の継続使用を余儀なくされ、昆虫群の不安定化による一定の害虫の爆発的発生の可能性が増大しているという報告も既にある(中国:国の研究所レポート、遺伝子組み換え棉(Bt棉)は環境に悪影響,02.6.6)。そればかりではない。栽培種がこのようなイネ一色となれば、気候変動に伴う干ばつ・水不足や病害虫の頻発など、ますます高まり、多様化するであろう環境ストレスに耐えて安定的生産を確保することは却って難しくなるかも知れない。

 一種の害虫への抵抗性を増すことが今肝要な米生産安定策とは思われない。多様なストレスに耐える多様な品種・遺伝資源の保存、栽培品種の多様化こそが肝要と考える。GMライスをめぐる中国の動向は、中国だけでなく、アジア、さらには世界の農業・食料生産の将来を左右する。今や、それに最大限の注意を向ける必要がある。