メキシコ、GMOバイオセキュリティー法採択 ラテンアメリカ諸国の模範?

農業情報研究所(WAPIC)

05.3.3

 Tierraméricaのリポート(*)によると、2月半ば、メキシコが遺伝子組み換え体(GMO)の生物安全保障(バイオセキュリティー)に関する法律を最終的に承認した。この法律は、農業におけるGMO利用に関連するあらゆる側面を包含し、生物兵器製造のためにバイオテクノロジーを使うことを防止する条項を導入する初めての国法という。許可なくしてGMOを作出あるいは売買するか、それを生物兵器製造のために利用する者は誰でも12万7600ドル(約1340万円)の罰金を科される。

 しかし、環境団体は、メキシコの新たな法律には首肯できる側面もあるが、なお欠陥と間違いがあり、この法律はGM種子を生産する多国籍企業を利する「モンサント法」と呼ぶべきだと言う。最大の生物多様性をもつラテンアメリカでは、既に8ヵ国―ブラジル、コロンビア、メキシコ、ベネズエラ、エクアドル、ペルー、ボリビア、コスタリカ―の2260万haの農地でGM作物を栽培されているが、これを律する法制は不揃いなままである。彼らは、この法律が基準となり、これら諸国に均一な法制をもたらすことを恐れている。

 昨年来、エル・サルバドル議会は、ブラジル、グアテマラ、パラグアイと同様、バイオセキュリティーに関する包括法を審議してきたが、エル・サルバドルの非政府組織・Unidad Ecológicaの指導者は、「メキシコの法律はバイテク多国籍企業の利益に沿うもので恐るべき法律だが、これら諸国が模範としようとするだろうから、メキシコがこれを通過させたのは恥ずべきことだ」と言う。他方、科学技術に対するアストゥリアス王子賞の受賞者であるメキシコの科学者・Bolívar Zapata1983年に最初のGM植物を創出、バイテクの”父”と言われるLuis Herrera、二人の専門家は、法律の通過はGMOが存在するという現実に適応するもので、法律の内容は他の国の指針として役立つと主張する。

 ラテンアメリカの国々には、GM作物の影響を研究し、栽培を制限し、危害を惹き起こす利用を罰する特別の諸機関を設置する様々な法律が存在する。しかし、環境団体によれば、今日の現実はこれら法律を時代遅れのものにしており、改訂が必要だ。

 アメリカ大陸で米国に次ぐGM作物栽培面積をもつアルゼンチンでは、GM作物は1973年以来の”種子法”で規制されており、これには多数の条項が追加されてきた。

 同じく三番目のGM作物栽培面積をもつブラジルでは、1995年のバイオセキュリティー法が、違法でありながら許容されたGM大豆栽培の結果、挫折に追い込まれた。議会で審議中のバイオセキュリティー法案は、憲法と矛盾し、また環境影響研究を義務づけていないために成立の見通しが立たない(ブラジル、GM大豆栽培・販売を容認する3度目の行政措置,04.10.19;ブラジル大統領、GM作物許可に待った 揺れ動くGM作物政策,04.9.28)。

 GM作物栽培面積が8000haに満たないチリでは、政府の政令が93年以来GMOを規制しており、GM種子はさらなる種子生産とその輸出のためにのみ許可されている。2年前にバイオセキュリティー法案が提出されたが、政治的に不利な環境のなかで棚晒しになっている。グリーンピース・チリの反GMキャンペーンのコーディネーターは、「チリはGMOの野放しの放出を監視し、規制する能力がない」と言う。

 ペルーも似たようなものだ。1999年にバイオテクノロジー利用リスク防止法を制定したが、国連プロジェクトの一環として行われた専門家の評価では、法律は完全には実施されておらず、法自体にも抜け穴がある。

 このような状況のなか、科学者、環境団体、共にメキシコの新法には綿密な注意を払うべきと言うが、それが他の国で複製されるべきかどうかについては食い違う。

 124条からなるこの法律は、バイテク研究の促進を定め、種子の表示も含むGM製品の輸入を規制するメカニズムを創る。また、GMOのあり得る環境への悪影響と対決する意思を確認するが、同時にそれを最大限に利用する意思も確認する。市民の意見表明も要求できる科学者の専門委員会の助言を受けるいくつかの省が参加、GMOの参入を「ケース・バイ・ケース」で許可し、「ステップ・バイ・ステップ」のフォローアップのための枠組みを作る。

 しかし、グリーンピース・メキシコの指揮者は、法律には積極的な側面もあるが、欠陥と間違いもあると評価する。 彼らの意見では、法律はバイテク研究を加速するが、GMOが環境に放出されるときに地方コミュニティーに知らせることを保証する適切な枠組みがなく、不服を申し立てる余地もない。さらに、バイテク開発のための基金は設けるが、GM作物が惹き起こすあり得る悪影響を防止し、あるいはそれに対処するための類似の措置はない。

 二人の科学者は、反対は無知と革新への恐怖の結果にすぎない、GM作物が世界中で栽培され、消費されてきた全年にわたり、それが健康や環境に危害を惹き起こした証拠は全然現われなかったと言う。科学者・技術者の言い分だけを聴き、先住民・小農民の言い分を無視することを強く戒めた北米環境協力協定・環境協力委員会(CEC)の報告の精神はまったく忘れられているようだ(メキシコのGMトウモロコシの影響、NAFTA環境協力委員会報告書,04.12.17

 この法律がメキシコに何をもたらすのか。科学者に右に倣うべきと言われた国々は、法律の中身だけではなく、その結果に対して細心の注意を払う必要がありそうだ。

 (*)Law on the Side of Transgenics?;http://tierramerica.net/english/2005/0226/iarticulo.shtml.