メキシコのGMトウモロコシの影響、NAFTA環境協力委員会報告書

農業情報研究所(WAPIC)

04.12.17

 メキシコにおける遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの影響に関する北米環境協力協定(NAAEC、北米自由貿易協定=NAFTA付属協定)に基づく環境協力委員会(CEC)の報告の刊行が米国政府の圧力で延び延びになっていることを以前に伝えた(NAFTA委員会、メキシコへのGMコーン輸出は慎重に、報告書発表を抑える米政府,04.10.2)。この報告書(Maize and Biodiversity: The Effects of Transgenic Maize in Mexico: Key Findings and Recommendations)が、まさに予想通り、米国大統領選挙が終わった11月8日になって漸く公表された。こちらも多事多忙、いささか遅れてしまったが、その内容を紹介する。

 01年、メキシコ・オアハカの野生原生トウモロコシ群の中にGMトウモロコシが拡散していることが初めて報告された。米国からの移入GMトウモロコシの種子が、それと知らぬ農民によって播かれた結果らしい。以来、これは世界のトモロコシ遺伝資源への重大な脅威だ、伝来のトウモロコシと切り離しては考えられないメキシコ社会・文化への挑戦だと議論が高揚した。こうしたなか、02年4月、オアハカの21の先住民コミュニティーと3つの環境団体が、メキシコの土着種トウモロコシへのGMトウモロコシ遺伝子の移入の影響の分析をCECに訴えた。今回発表された報告書は、この訴えに基づく調査の結果とNAFTAを構成するカナダ、メキシコ、米国の政府への勧告を含む。

 この調査は、上記の問題に遺伝子移動、生物多様性、人間の健康、社会文化の諸側面からアプローチしたものだが、最大の特徴は、科学者・技術者やGM技術の唱導者がほとんど無視しており、その反対者でさえあまり意識することがないように見える社会文化的側面を重視していることだ。

 それによると、メキシコにおけるGMトウモロコシのリスク評価は、メキシコ人にとってのトウモロコシの文化的・象徴的・精神的価値と切り離すことはできない。なお不透明な健康・環境影響は別としても、リスクは”リーズナブルに達成できるかぎり低い”レベルに軽減すべきであり、そのためにはGM品を含むかもしれない輸入トウモロコシの表示も含む措置で、GMトウモロコシ商業栽培のモラトリアムの実効性を確保せよと言う。これらの価値は自由貿易に勝る。

 米国政府は、まさにそれだから科学的根拠を欠くと、この勧告を蹴飛ばしている。科学者・技術者の言うことだけが「科学的」なのであり、科学・技術については何も知らない先住民・小農民(カンペシーノ)の言い分を認めたこと自体が「非科学的」だというわけだ。ともかく、米国政府は聞く耳を持たない。メキシコ政府・議会も同様だ。メキシコは勧告をまったく無視したGM作物法案を採択した(14日)。しかし、この報告の国際的影響は小さくはないだろう。報告は、WTO、FTA、食糧援助を通じてGM作物・食品の無条件受け入れを迫る米国の立場へのお膝元での反乱を意味するからだ。

 以下、調査結果と勧告の要点を記しておく。

T 主要な調査結果

 メキシコにおけるGMトウモロコシの背後事情

 メキシコ農村のカナダ・米国農村との違いは、高レベルの貧困、所得と食料確保のための多数住民の農業依存、先住民人口の多さにある。農村・農業を基盤とする経済から都市中心、製造業とサービスに基づく経済への移行により、メキシコには貧困、移住、重心移動の「農村危機」が生まれている。トウモロコシ土着種の栽培地域先住民の間には、スペイン出身メキシコ人・米国人・有力エリートの支配下で不公平・不公正な扱いを受けた記憶と政治的歴史が生きている。GMトウモロコシの土着品種に対する影響の問題は、改良トウモロコシや土着品種と直接関連のない農村メキシコ人にかかわる歴史的問題や不満と絡み合っている。同様に、遺伝子操作の一層の利用と無規制の貿易を唱導する人々は、カナダ、メキシコ、米国における科学・技術開発、貿易、政治的影響力、工業的農業の様々な側面において、既得の利益を持つ。メキシコの土着種にGM遺伝子が存在することの影響を巡る論争では、これらの問題すべてが絡み合っている。メキシコにおけるGMトウモロコシの賛成者・反対者の見解や利害への広範な問題の影響を認めるために、決定者は注意深くあらねばならない。

 遺伝子移動

 メキシコにおけるトウモロコシ品種及び野生近縁種間の遺伝子移動

 トウモロコシ土着品種間、土着品種と近代的品種の間の遺伝子移動は、実験的・記述的に証明されており、すべてのトウモロオシ、トウモロコシ属亜種(mays)のすべての品種は交配でき、繁殖力をもつ子孫を生産する。トウモロコシとその祖先とされるテオシンテの間の遺伝子移動が起きることも証明されているが、野外で交雑が起きた後、トウモロコシ遺伝子がテオシンテ集団の中にどれほど長く生き残るかは知られていない。メキシコ農民は、しばしば種子を交換し、時に近代的品種を含む様々な起原の種子を播き、近い場所で一緒に栽培するときに起きる交雑授粉を容認し、意図することもしばしばある。遺伝子移動にもかかわらず、農民は様々な土着品種と栽培品種を選抜し、永続させることができる。

 メキシコのおけるGM遺伝子の存在と源泉

 GM遺伝子がメキシコのトウモロコシに拡散しており、現在存在することは疑う余地がない。近代的品種からの他の対立遺伝子と同様、GM遺伝子が一度与えられた地域に導入されれば、地方土着品種に入ると予想される。生きたGMトウモロコシは、特に穀粒輸入を通じてメキシコに入り続けているが、米国から帰国する移住労働者により運ばれる可能性もある。メキシコ土着種に存在するGM遺伝子の主要な源泉は米国で栽培されるトウモロコシ穀粒である可能性が高い。

 米国で現在栽培されるGMトウモロコシの比率からして、米国からのメキシコの輸入トウモロコシの25%から30%がGMトウモロコシである。米国では、収穫後のGMトウモロコシは表示もなければ分離もされず、非GMトウモロコシと混合される。米国で最も普通に栽培される二つのGM品種は、一定の害虫の幼虫に抵抗性をもつBt品種と、一定の除草剤に抵抗性を持つ品種の二つである。GM雄性不稔の少数の品種も自由に栽培できる。工業成分を商業的に栽培するいくつかのトウモロコシ品種も許可制で栽培されている。米国とカナダにおけるGMトウモロコシ栽培は増えつづけるだろう。新たなタイプのGMトウモロコシも開発されつつあり、数年以内に栽培が自由化される可能性が高い。

 Btトウモロコシの一種のスターリンクの米国での栽培は、もはや許されなくなったが、米国の穀物中には、頻度は低いとはいえ、なお発見される。スターリンクのBt遺伝子がメキシコ土着種に存在するかどうかは知られておらず、これに関する科学誌掲載論文は未だない。

 米国では他の形質の非自由栽培・非商用GMトウモロコシ品種が小規模野外実験で栽培されているが、これらの遺伝子がメキシコに拡散している可能性は、商用品種の場合に比べて非常に小さい。ありそうもないが、メキシコでの98年以前の実験からのGM遺伝子がメキシコのトウモロコシに存在するかどうかも知られていない。

 GM遺伝子移入(拡散と永存)のありそうな経路は、政府機関(Diconsa等)を通して農村コミュニティーに運ばれる輸入GM穀粒が、小規模農民により実験的に栽培されたことである。小規模農民がDiconsaの種子を、地方土着品種に隣接して栽培することは知られている。農民は自家採種、種子を交換し、その一部はGM品種であろうから、遺伝子移動のサイクルが繰り返され、GM遺伝子の拡散が一層進む可能性がある。

 土着品種とテオシンテにおけるGM遺伝子の永存性

 遺伝子移動で導入された新たな対立遺伝子が受け取った集団に永存するかしないかは、(1)遺伝子移動が一回かぎりか、繰り返し起きているか、(2)遺伝子移動の率、(3)新たな対立遺伝子が[受け取り集団にとって]不利益か、有益か、それとも中立的かに依存するとともに、受け取り集団の規模にも依存する。これらの原則は通常遺伝子にも、GM遺伝子にも適用される。

 有益か、選択的に中立的なGM遺伝子は土着品種に永存する可能性がある。GM遺伝子の出現頻度は、農民がこれらの形質を好むか、これら遺伝子が植物の繁殖上の利益を与えれば、土着品種のなかで増えると予想される。

 Bt遺伝子は、一定の害虫からの損害から植物を護るとすれば、受け取り集団で選択的に有利になる可能性がある。除草剤耐性遺伝子は、受け取り集団が当該除草剤に曝されないかぎり、選別的に中立的と予想される。これらの予想は、意図された形質以外の他の表現型の変化がないことを仮定している。

 土着品種に広く移入されたGM遺伝子を除去することは非常に困難で、事実上不可能であろう。

 GM遺伝子、あるいは他の作物の遺伝子が、交雑が起きた後にテオシンテの集団中に永久的に存続するかどうかは、確定的には知られていない。

 土着品種とテオシンテの遺伝的多様性へのGM遺伝子の予想される影響

 GM遺伝子の土着品種とテオシンテの遺伝的多様性への影響が、同様に使用される近代的栽培品種の遺伝子よりも大きいとか、小さいとか予想する根拠は存在しない。少数のGM遺伝子の移入が土着種の遺伝的多様性に大きな生物学的影響を与えることはありそうもない。

 近代的農業慣行は、メキシコの土着種に現実の、重大な影響を与えている。近代農業と関連した経済的圧力や米国・メキシコのトウモロコシ貿易の不釣合いと経済は、小規模農民を土着品種の放棄に追い込む可能性がある。トウモロコシの遺伝的蚕食の問題は多くの相互作用を持つ社会経済的要因により引き起こされる。この問題に対するGMトウモロコシの潜在的な直接・間接の影響は不明確である。

 土着種の遺伝的多様性を最適に維持するためには、自生地外での栽培と自生地内での保存の結合が必要である。土着種は進化しているから、自生地外での栽培だけでは不十分、また自生地での(農民による)保全だけでは、必ずしも過去の多様性を捕らえないから、これも不十分である。

 生物多様性

 生物多様性はすべての種、その遺伝的変異性、それが起こるコミュニティーや生態系に適用される用語である。

 メキシコのトウモロコシの多様性は、主として地方の先住民農業コミュニティーにより維持されている。このシステムは、食料と農業生産の基礎をなすトウモロコシ遺伝資源の保存を可能にする。

 メキシコのトウモロコシ土着種は、人間と自然の選抜の結果として、ダイナミックに生み出され、継続的に変化している。それは静態的な、あるいは孤立した実体ではなく、「土着種」という用語はメキシコのトウモロコシの様々な地域品種を指す。

 メキシコのトウモロコシについては、その特異性は、1)すべてトウモロコシ属に属するトウモロコシとテオシンテの種の遺伝的多様性、2)トウモロコシが栽培される畑で規則的に起きる植物と動物の多様な群がり、3)近隣の自然コミュニティーと生態系の多様性に関係している。

 1)メキシコのトウモロコシまたはテオシンテの遺伝子改変の固有のパターンは他の生物または遺伝子・遺伝的要素と異なることを示唆する証拠はない。

 2)GMトウモロコシのメキシコのトウモロコシ畑で起きる植物と動物への悪影響、好影響はどちらも報告されていないが、特別の研究が行われる必要がある。

 3)トウモロコシとテオシンテの生物学的特徴は、遺伝子を改変したかどうかにかかわらず、それらが近隣コミュニティーに拡散することは高度にありそうもないということである。しかし、メキシコのトウモロコシ畑と隣接コミュニティーの間を動く標的及び非標的昆虫に対するGMトウモロコシの影響は知られていない。

 4)実際の農業は、生物多様性の全体的レベルを原初の状態から減少させる。生産的で集中的な農業が、拡散し・より集約的でなく・より生産的でない農業よりも生物多様性に影響を与えるかどうかは未解決の問題。

 過去25年間の科学的調査と分析は、一つの生物からの一つの遺伝子の他の生物への移転の過程は、健康にも、生物多様性または環境にも、短期的・長期的にいかなる内在的脅威も生まないことを明らかにしてきた。従って、新たな遺伝子が改変されたものであろうとなかろうと、一定の生物または品種のリスクまたは便益の決定において検討されるべきは、生物と品種の特徴である。

 健康

 GM作物を生産する過程がそれ自体で動物と人間の健康に有害であるという経験的証拠はない。プラス、マイナスの影響の評価が必要なのは、遺伝子改変植物の産物である。トウモロコシは、メキシコの食事にとって基本的であり、現在承認されており、またメキシコへの導入が提案される将来の改変遺伝子は、この理由のために特別の考慮を必要とする。

 食料作物中に食料・飼料と両立しない薬剤や一定の工業的成分を産出することは、人間の健康に特別のリスクを生む。これは、これは自然受粉で生産される基礎食料であるトウモロコシでは特に懸念される。CECの公開シンポジウムや書面でのコメントにおける公衆の感情の表明は、メキシコ国民も間ではGMトウモロコシの毒性をめぐる懸念のレベルがが相当に高いことを示唆し、それは、特別の研究や公衆への情報と教育を含む政策対応を要請するに十分である。

 社会文化的問題

 メキシコのトウモロコシ・システム

 メキシコのトウモロコシ産業は高度に複雑で、そのシステムには、製粉業者、輸入業者、輸送業者、大小規模のトルティーヤ業者が関係する。メキシコにおけるトウモロコシ供給チェーンには、種子と穀粒の当事者間での広大な混合・プール・交換が含まれる。

 トウモロコシの実験的栽培と育種は多くの土着種トウモロコシの誕生の核にある千年来の伝統である。メキシコの土着種は遺伝的に安定的でも、同質的でもない。それは、それを利用する人々により絶えず変えられる。この過程で、改良/近代品種からの遺伝子が、ときには故意に、あるいは偶然に導入される。

 カンペシーノは大部分は天水依存の5ha以下の土地を耕す小規模保有生産者である。これには私有地所有者とエヒードや先住民共有地を含む共有地の農民が含まれる。彼らがメキシコのトウモロコシ生産者の3分の2を占める。

 工業的加工と動物飼料用のための政府サイロの穀粒は、カンペシーノが意図的・非意図的栽培と実験のためにアクセスできる。

 カンペシーノは種子交換、将来の栽培のための種子保存を自由と考えており、新しい種子の実験を彼らの土着種、文化的アイデンテティー、コミュニティー保存の基本手段とみなしている。

 一般的には、カンペシーノの間には、遺伝的多様性を保存するための内在的または外来的な土着種保存の公式なシステムはない。しかし、先住民コミュニティーには、栽培と育種のための特別なトウモロコシ品種を内在的維持のための公式システムが存在する。

 現在の除草剤耐性及び害虫抵抗性のGMトウモロコシ品種の形質は、メキシコのカンペシーノに有益であると特に示されることはなかったし、彼らの最も切迫した必要に応えるものには見えない。

 トウモロコシの文化的重要性と国民のGMトウモロコシの受け止め方

 トウモロコシは大部分のメキシコ人の重要な文化的・象徴的・精神的価値である。これはカナダと米国にはないことだ。メキシコにおけるGMトウモロコシのリスク評価はこれらの価値と解き難く結び付いている。

 テオシンテは、ある者にとっては生産性を減らす雑草と考えられるが、”トウモロコシの母”と考えられるがために、多くの地域のトウモロコシ畑に維持されている。従って、テオシンテは、トウモロコシ属の様々な野生種や栽培土着品種の遺伝的多様性の源泉である。

 トウモロコシ中の改変遺伝子のいかなる存在も、伝統的農業慣行とトウモロコシの文化的・象徴的・精神的価値への受け容れ難いリスクとみなす多くのオアハカ人、特にカンペシーノが存在する。この有害の概念は、科学的に研究された人間の健康、遺伝的多様性、環境への潜在的あるいは現実的な影響とは無関係である。

 さらに、メキシコ農村の多くに人々にとって、組み換え遺伝子のトウモロコシへの移入は受け容れ難く、”汚染”とみなされる。

 メキシコにおけるGMトウモロコシのリスク・アセスメントとは、先住民の信仰と価値体系を含むメキシコの歴史と文化におけるトウモロコシの中心的役割に解き難く結び付いている。

 GMトウモロコシの小農民にとっての便益を伝え、あるいいは実証する作物開発者やメキシコ政府による努力はほほんどなかったし、不十分であった。今までのところ、現在のGMトウモロコシの形質の移入がカナダ、メキシコ、米国の健康と環境に大きな害を与えるという証拠はない。しかし、これはメキシコの生態系の文脈では研究されてこなかった。

 組み換え遺伝子の流れについて最も声高く、懸念する多くのカンペシーノや共同体指導者は、GMトウモロコシを政治的自律、文化的アイデンテティー、人の安全と生物多様性への直接的脅威と受け止めている。

 公的な制度とプロセス

 農村コミュニティーにおける植物遺伝学とGM技術の基礎についての情報は少ないが、科学・政治界における農村の社会的、文化的関心についての情報も少ない。こうした知識のギャップが、科学的に健全で、社会的に受け入れられる政策の形成を阻んでいる。

 公的に合法で、認可された米国からの穀粒の輸入を通してのメキシコへのGMトウモロコシの導入は、農村コミュニティーに公式に知らされることがなく、あるいはその内部での同意を欠いていた。農村コミュニティーへのGMトウモロコシの導入は、その食料としての輸入、あるいは非公式の種子交換を通じて予期できぬ結果だったのだから、協議の欠如は理解し難い。

 農村コミュニティーに住む多くの人々や多くのNGOは、生物多様性を委ねられた政府や諸機関を信用していない。メキシコの政府規制官は、一部は、いくつかのNGOがGM作物の実験栽培に反対したために、法律を実施することができなかった。GM技術の潜在的結果に関する関係者へのタイムリー、あるいは信頼できる情報は提供されてこなかった。

 GMトウモロコシに関するメキシコの政策環境

 科学研究、規制評価、政策執行の能力には、NAFTA3ヵ国間で大きな違いがある。GMトウモロコシに関するメキシコ政府の公的立場や、GMトウモロコシを規制する省庁の責任も国民には知られていないか、理解されていない。

 メキシコに入り込んだGMトウモロコシは、米国やカナダでのように、メキシコの国家公的機関による環境・健康・社会・経済的リスクのリスク評価を受けなかった。米国とカナダは、国境を超えた組み換え遺伝子の結果の公式リスク評価はしていない。

 現在、メキシコの組み換え遺伝子の体系的監視のメカニズムはない。

 GMトウモロコシ商業栽培のモラトリアム政策は、輸入されたトウモロコシの未承認栽培で蝕まれ、米国からの非表示・不分離で繁殖力をもつGMトウモロコシの輸入が許されれば、その目的は達成不能になる。

 バイオセーフティー議定書の批准により、メキシコは生きた改変生物の国境を超える移動の規制への「予防原則的アプローチ」の適用を約束した。

 メキシコの輸入GMトウモロコシのケースについての通常のリスク分析が行なわれ得るが、メキシコの文脈では、すべてのリスクの科学的評価と管理に予防原則的仮定を組み込み、これらリスクの受け入れ可能性におけるインフォームド・コンセントの重要性を認めるのが適切である。

 メキシコの土着種への改変遺伝子の移入のリスクの最大限の軽減は、メキシコへのGMトウモロコシの形態での生きたGM生物の輸入の全面禁止によって達成されることが明白だ。しかし、米国にとっても、メキシコにとっても、この措置の経済的犠牲と貿易制限性は高度に受け容れ難いように見える。

U 勧告

 遺伝子移動

 どのような改変遺伝子が、どれほどの頻度でメキシコ土着種に、またおそらくは野生テオシンテに入ったかを決定するための追加研究が必要である。

 バイオセーフティー政策、生物多様性保存戦略、メキシコにおける遺伝子操作の将来あり得る適用計画を開発するために、近代的及び伝統的トウモロコシ・システムの文脈における花粉と種子の移動を通して、(組み換え遺伝子を含む)近代的栽培品種からのどのような遺伝子がどの程度入り込み、土着品種とテオシンテと交雑し、移入したかを決定する研究が必要である。理論的・実験的研究は、とくに(組み換え遺伝子も含む)近代的品種からの遺伝子の存在がトウモロコシ土着種とテオシンテの遺伝的多様性に大きな生物学的影響を及ぼすかどうかを検証すべきである。それに加え、研究者は、様々な穀粒取引業者による供給される穀粒からの組み換え遺伝子が土着種における既存組み換え遺伝子の主要な源泉であったし、ありつづけるという仮説を明示的に検証すべきである。

 3ヵ国の規制機関は、特定組み換え遺伝子の拡散を検出し、監視するよりよい方法を開発し、実施すべきである。

 適切な規制政策と生物多様性保存戦略を開発するために、遺伝子移動を通しての受け取り植物の適応性や産出に対する遺伝子スタッキング(組み合え遺伝子を含む新たな遺伝子の複合)の影響を決定する研究が必要である。

 GMトウモロコシからの土着種及びテオシンテへの遺伝子移動の影響の適切な研究とリスク・便益調査が行われ、一層の情報がカンペシーノ農業コミュニティーに利用できるようになるまで、現在のメキシコにおけるGMトウモロコシ商業栽培のモラトリアムが執行されるべきである。

 新たな遺伝子の存続と拡散は遺伝子移動率に大きく依存するから、メキシコ政府は、GMトウモロコシを商業的に栽培する国からの生きたGMトウモロコシ穀粒の輸入を最小限にし、GMトウモロコシの商業栽培のモラトリアムを強化すべきである。例えば、ある国は、入国地点でGM穀粒を製粉することでこの問題に取り組んでいる。

 メキシコ政府は、Diconsaにより配布されるトウモロコシ穀粒はGM物質を含む可能性があり、既存の規制の下で栽培されてはならないことを農民に直接知らせるべきである。この努力には、Diconsaの袋、コンテナ、穀物サイロの明確な表示やこの問題に関する農民の教育が含まれる。

 トウモロコシの組み換え遺伝子の拡散を管理するいかなる政策も、土着種における遺伝子移動の伝統的形態に干渉してはならない。これらは、遺伝的多様性を促進し、食糧安全保障の基盤だからである。

 生物多様性

 メキシコにおけるトウモロコシ及びテオシンテの変化しつつある遺伝的性質は、組み換え遺伝子であるか否かを問わず、監視されねばならない。その遺伝的多様性は、自然及び農業において保存されるべきである。

 メキシコにおけるトウモロコシの耕作と改良の多くの側面は、一層の研究を必要とし、とくに見逃されてきたカンペシーノの役割と必要性に特別の注意が向けられるべきである。メキシコのトウモロコシ畑や他の農業システムトウモロコシに起きている、その多くは有益な植物と動物の集合に対する、また近隣自然コミュニティーの生物多様性に対するGMトウモロコシ栽培の直接的・間接的影響は、緊急に検討され、評価される必要がある。

 健康

 トウモロコシの大量消費が特定品種またはGM品種からの仮説的なプラス・マイナス影響を強めるかもしれない方法の研究が緊急に必要である。

 食料及び飼料と両立しない薬剤及び一定の工業的成分を生産するようにトウモロコシを改変することは禁止されるべきであある。

 社会文化的問題

 NAAEC締約国は”リーズナブルに達成できるかぎり低い”(ALARA)レベルにリスクを軽減する政策を採択すべきである。一定の組み換え遺伝子がメキシコのトウモロコシと土着種に既に存在しており、”ゼロ・リスク”はもはや実行不能な基準であるという事実を踏まえると、現時点ではALARAアプローチがリーズナブルに見える。

 GMトウモロコシ商業栽培の現在のモラトリアムの実効性を確保するために、

 −米国から輸入されるトウモロコシは、GMトウモロコシを含み得ると表示されるか、GMフリーと認証されるしなければならない、

 −GMフリーと認証されないカナダ及び米国からメキシコに輸入されるすべてのトウモロコシは、例外なく加工工場向けでなければならない、

 −GMトウモロコシを含むかもしれない種子の栽培を回避し、米国その他のGMトウモロコシ栽培国からの種子を栽培しないように農民を教育するプログラムが必要、

 −適切ですべてに受け入れられる新たなメキシコのバイオテクノロジー政策の開発に小農民の参加を確保する手続の実施。

 メキシコ政府は、GMトウモロコシの便益とリスクに関するカンペシーノとのコミュニケーション・協議プログラムを始めるべきである。

 伝統的農業方法を続けることを望み、他の遺伝子の移入を防止または最小限にする方法で土着種を保全する育種慣行を採用する農民への直接支払で、メキシコの土着トウモロコシの独特の生物多様性を保護し・保全するカンペシーノを支援すべきである。

 カンペシーノが、育種に利用しようとする自分の種子やその他の材料をGM検査に出し、またカンペシーノ育種者の地域登録と管理システムに基づく土着種子品質保証プログラムが開発されるべきである。これにより、新たな遺伝子の移入を制限するとともに、カンペシーノの種子に現在存在する組み換え遺伝子の発見と除去が可能になる。

 コミュニティー種子銀行、農民の訓練と普及、地方の伝統的知識の登録と成文化、土着種の特徴と独自性の一層の科学研究への支援の提供により、土着種の多様性の内生的保全の公的支援を増強すべきである。

 カナダ、メキシコ、米国における研究と規制政策の一層の協調を通してのバイオセーフティー・リスクの調査と管理の調和を図らねばまらない。

  農業情報研究所

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研究開発動向 

遺伝子組み換え(GM)作物の健康・環境リスクに関する研究・レビュー

ドキュメント(資料)

FAO報告による途上国のGM作物研究・開発動向,05.5.19

メキシコのGMトウモロコシの影響、NAFTA環境協力委員会報告書,04.12.17

FAOが農業バイテク報告、途上国農業に大きな希望、だが万能薬ではない,04.5.1

GM作物共存・責任に関する英国政府バイテク委員会報告,03.11.27

英国王立協会会長、GM作物実験評価に関する意見―近代農業の将来の議論の触媒に,03.11.27

国際科学評議会(ICSU)のGM食品・生物評価報告,03.7.7

知的財産権委員会報告への英国政府の対応,03.6.7

−農民の種子への権利を保護、ActionAidのコメント−
米国・EU間のGMO紛争:世界のニュースと論調集載,03.5.21

EU:遺伝子組み換え体に関する新規則案,02.7.5

援助食糧にスターリンク(NGO緊急リリース要約),02.6.28

レポート

EUのGMO新規承認モラトリアム解除とGMOをめぐる欧州の状況(下記のものを一文書にまとめました)
EU
GMO新規承認モラトリアム解除とGMOをめぐる欧州の状況(下の2・完),04.6.11
EUのGMO新規承認モラトリアム解除とGMOをめぐる欧州の状況(下の1),04.6.7
EUGMO新規承認モラトリアム解除とGMOをめぐる欧州の状況(中),04.6.2
EUのGMO新規承認モラトリアム解除とGMOをめぐる欧州の状況(上),04.5.28

意見・著書記事紹介

GM作物・食品は安全 不安を煽る「食」情報への反攻の狼煙ー週刊ダイヤモンド特集,06.8.1[改訂:8.3]

ハイライト

英国:GM作物農場実験評価報告発表,03.10.18

ブラジルの遺伝子組み換え(GM)大豆承認,03.9.29

英国:GM作物の安全性は不確実、政府委員会報告,03.7.22

英国:GM作物の経済的便益は小ー首相府戦略ユニット,03.7.16

EU:GMO新規則に前進、GM世界戦争は不可避,03.7.3 

 追補(03.7.5):フランス農民同盟・農協連合の声明

米国、GMO規制でEUをWTO提訴、欧州委は断固反論,03.5.14

EU:GM・慣行・有機作物共存に挑戦,03.3.6

GMO紛争、米国がEU提訴を延期したが、その先は?,03.2.10

EU:決断迫られるGMOモラトリアムの解除、先行きは不透明,02.9.13

南部アフリカ:飢餓と遺伝子組み換え食糧援助の狭間で,02.8.29

EU:GM作物と非GM作物の共存は困難,02.5.18

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