ブラジル議会、ES細胞研究とGM作物栽培に関するバイオセキュリティー法案を最終採択

農業情報研究所(WAPIC)

05.3.4

 遺伝子組み換え(GM)作物栽培と胚幹細胞(ES細胞)を利用する研究に関するバイオセーフティー法案をめぐるブラジル議会の長期にわたる論争が遂に終結した。3月2日、既に上院を通過しているこの法案を下院が352対60の大差で承認、法成立までに大統領の署名手続を残すのみとなった。多少の修正はあっても、既にGM大豆栽培・販売を2年にわたり後追い承認してきた大統領が署名に応じるのは間違いないだろう。GM作物栽培を禁じながら違法栽培を取り締まることができず、機能不全に陥っていた95年法体制の下で、国で栽培される大豆の30%までが既にGM大豆となっていると見られる。この法律の成立でどこまで増えるかは予測の限りではないが、この国のGM種子市場を支配するモンサント社、GM派農民を勢いづける一方、連邦農業省の圧力にもかかわらず環境相と連携、GM作物栽培を禁止してきたパラナ州への圧力となることは間違いないだろう。

 政府筋通信網が伝える情報によると(Biosecurity Law is approved by the Chamber,Agencia Brazil,3.3)、下院は、ES細胞利用研究の許可の排除とGM作物栽培の監督方法変更を提案する三つの修正案を否決、上院採択案を維持した。それは、3年以上冷凍保存された胚の研究利用を許す一方、人間のクローニングと治療のためのES細胞クローニングを禁止する。ブラジルの大学はES細胞を利用する研究を実施する権限を持つ。

 他方、GM種子の栽培・販売・研究については、国家バイオセキュリティー技術委員会(CTNBio)がGMO販売許可の責任を負い、いかなるGM種子が国内で生産できるかを決定する。この委員会は、その決定について上訴できるブラジル環境・更新可能資源研究所(Ibama)と国家保健機関(Anvisa)に決定を提出する。また、消費者が識別できるように、GM製品はその旨表示されねばならない。GM種子と自然種子は分離されねばならない。ロドリゲス農相は、この立法の利益は経済的・社会的利益をもたらすだけでなく、この問題に関する明確なルールが確立、誰にも無益な論議・論争・大騒ぎを終わらせるという点で重要だと言う。

 グリーンピースは、市民にGM食品生産反対を呼びかけ、大統領に法案拒否を要求する覚書を発表した(Greenpeace considers passage of Biosecurity bill unconstitutional,Agencia Brazil,3.3)。グリーピースによると、この法案は環境影響評価を提出する義務を削除してしまった。2003年6月の市民も参加した省際グループによる最初のバージョンでは、科学技術省が独自の評価を行った後、環境省が環境影響評価をし・保健省が食品安全性を評価する必要性を明記、各省が販売を許される製品にかかわるリスクを評価する憲法上の権限を持つとされていた。採択されたバージョンでは、環境・保健・農業大臣からGM品種の放出に関する決定権限を取り上げ、GMO放出に関するすべての権限と環境・健康影響に関する研究を提出する必要があるかどうかを決定する能力がCTNBioに集中している。グリーンピースは、この法案は、環境に影響を与える可能性のある活動の事前の研究の必要性を定める連邦憲法第225条に違反すると考えている。消費者・市民の覚醒を求めて反GM運動を続けるだろう。

 たが、法案通過が、グリーンピース、そしてそれと連携してきたマリナ・シルバ環境相を窮地に陥れることは間違いない。ブラジルの決定は他のラテンアメリカ諸国にも決定的影響を与えるだろう。この地域におけるブラジルの影響力は圧倒的だ。図らずも、時を同じくして、パラグアイがモンサントにGM大豆販売に際して特許料徴収を許す協定に合意した。モンサントは、ブラジル、アルゼンチン同様だが、大豆の大輸出国の一つであるパラグアイからも特許料を徴収できないでいた。この地域におけるモンサントの活動も勢いづくだろう。農産物大輸出国のブラジルの決定は、競争力強化の観点から、GM導入をためらってきた世界の国々、とりわけ途上国にも影響を及ぼすかもしれない。

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