ケニア 3年後にGMトウモロコシ大規模栽培と研究者 環境影響評価は実施せず

農業情報研究所

05.5.19

 ケニア・ナイロビのThe Nation 紙(要登録)が、ケニア農民は2008年までにニカメイチュウ(Stemborer)に抵抗性を持つ遺伝子組み換え(GM)Btトウモロコシを利用できるようになると報じている(Farmers May Start Planting GM Maize in Three Years,7.18;http://www.nationmedia.com/dailynation/nmgcontententry.asp?category_id=39&newsid=53395開発者によると、ニカメイチュウは年々のトウモロコシ生産にケニアの輸入量に相当する40万トンの被害をもたらしており、減収を招くだけでなく、投資を無駄にし、食糧安全保障と農民の所得を損なっている。南アフリカ以外のブラック・アフリカで初めて栽培されることになるこの新品種は、この状況を根本的に変えるだろうという。

 この新品種は、1999年以来研究されてきたもので、ロックフェラー財団とシンジェンタ財団の支援を受け、ケニア農業研究所(KARI)と国際トウモロコシ・小麦改良センター(CIMMYT)が、いくつかのBt(殺虫成分を生産する土壌バクテリア)遺伝子を近縁トウモロコシに挿入することによって開発した。実験室と温室で研究され、増殖され、試験されてきたが、今年5月に初めて屋外圃場で栽培された。今後、野外の条件の下で害虫抵抗性が発現するかどうかを試験する。また、ケニアの栽培条件に適応したBtトウモロコシ雑種を生産するための交雑育種の過程の一環として、ケニヤのトウモロコシ品種との混作試験を行う。大規模栽培は、これらの試験が完了する2008年頃になって初めて可能になるという。

 これら試験栽培は、花粉や種子などが試験区域から逃げ出したり、実験対象とならないトウモロコシと交雑しないように、厳重な監視下で行われてきたし、行われるという。ただし、記事によると、環境団体・活動家は、研究者が、このトウモロコシの環境や人々の健康に対する影響を全面的に開示するのを、故意にか、不注意で怠っているのではないかと恐れている。「奇妙なことに、Btトウモロコシの研究者は、法律により義務付けられる環境影響アセスメントを行わなかった」という。

 研究者は、「バイオセーフティー法案が準備中とは知っているが、我々は未だ研究段階にある。法案成立を待っているこの段階では、研究のためには十分な政府のルールと規制に基づいて作業してきた」、「環境影響アセスメントは提出を求められてこなかったから、それは行わなかった」と言っている。さらに、KARIの試験所は承認された研究所であり、輸入・輸出のための常設国家技術委員会により承認されていると、環境研究の必要性を否定しているという。

 KARIのロマーノ・キオメ博士は、栽培開始の式典で、「人間の食料と動物の飼料として完全に安全な物質だけが食物チェーンに入ることを保証するために、研究全体を通して最高度の基準が守られてきた。さらに、このような植物が環境に悪影響を与えないばかりか好影響があるように保証した」と演説したというが、環境影響アセスメントもしないでどうしてこれが保証できるのだろうか。

 この研究を支持する政府とともに、研究者は開発を急ぎすぎていないだろうか。健康・環境リスクはもとより、食糧安全保障や農民経済への影響もどこまで真剣に研究されているのだろうか。このような疑いが残れば、2008年の大規模栽培開始も甘い見通しになるかもしれない。つい最近の世界保健機関の研究報告は、「農学的効果や健康影響に焦点を当てている現在のGM食品評価を、社会的・文化的・倫理的側面にまで拡張せねばならない。それは、便益とともに健康・環境リスク評価を扱い、知的所有権を含む社会経済的要因を評価し、倫理的側面を考慮すべきである。これらすべての分野における国際的調和が、新たな技術の能力の慎重で、安全で、持続可能な開発の前提となる」と述べていた(WHO報告書 GM食品に便益 一層の安全性評価と社会・文化的影響評価が必要,05,6.24)。