地球の友 GMO紛争WTO仮裁定文を公表 中国や途上国の迅速な承認を強要!?

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.3

 ”地球の友”が2月28日、EUの遺伝子組み換え体(GMO)規制を米国・カナダ・アルゼンチンがWTOルール違反として訴えたWTO紛争の仮裁定案のコピーを発表した。

 World Trade Organisation GM dispute - secret report leaked
 http://www.foe.co.uk/campaigns/real_food/news/2006/february/wto_decision.html

 これは当事者だけで知らされたもので全容が分からないことから、WTOがGM食品の安全性について初めて判断を下した、今後の農産物貿易に大きな影響を与える、途上国によるGM作物・食品の導入が促進されようなどという米国政府やバイテク企業の見方を鵜呑みにした報道が目立つ。しかし、筆者は先般、これがまったくのミスリードであることは、国際農業貿易政策研究所(IATP)が公表した裁定案の結論部分を見れば明らかだと書いた(WTO仮裁定 EUのGMO承認手続は合法 安全・有用性を示唆という米国発表は真っ赤な嘘,06.2.14)。地球の友の取りあえずの分析も、これを完全に支持している。

 それは、米国、カナダ、アルゼンチンはヨーロッパがGM食品導入をためらっていることがその農民に損害を与え、貿易障壁になると主張しているが、地球の友の取りあえずの分析は、米国政府とバイテク産業による勝訴の主張にもかかわらず、米国が率いる連合はヨーロッパに対する多くの論拠で勝利に失敗したことを示すと言う。

 しかし、WTOは、EUが承認したGM製品をなお禁止しているいくつかのEU諸国の措置は違法と裁定、禁止を続ける国への解除に向けた圧力が改めて強まるだろうと言っている。これも筆者が既に書いたとおりだ。

 EUの厳格な安全性評価・表示・トレーサビリティーが何の咎めも受けていない以上、GM作物・食品の導入をためらう中国や多くの途上国が米国流の規制緩和で迅速な導入を迫られることもない。例えば中国は、食料安全保障の至上命令の下でコメなどのGM作物の開発に多大な努力を注ぎ、開発を加速してきたが、他方では人々の健康や環境、貿易への悪影響を恐れ、厳格な安全性評価や規制制度も開発してきた(ただし、その執行には大きな問題がある)。それなしでは、開発・普及も進まないという判断からである。

 バイテク企業やその後押しをする団体(ISAAA)は昨年中にも中国がGM米の商用栽培の承認に踏み切ると喧伝してきた。しかし、彼らは、90年代末以来の中国のバイテク研究計画がバイオセーフティーの問題に大きく拡張され、農業部、保健部、環境保護庁などがバイオセキュリティー管理とリスク評価の能力建設、環境・食品安全性研究、GMO検出技術などを含む様々なバイオセキュリティー計画を立ち上げてきたことを知っているのだろうか。バイオセキュリティーを確保するための制度も強化されてきた。

 昨年は、GM作物の商品化に関する決定機関であるGM作物安全性委員会が改組され、それまでこの委員会を支配してきた多くの農業バイテク科学者が更迭されるともに、バイオセーフティーや環境にかかわる科学者が新委員会に加わった。GM作物を開発する研究チームから独立した地方(市や省)のGM作物安全性評価基地や多くのバイオセーフティー研究所を設立する計画もある。

 かくて昨年11月、バイオセーフティー委員会はGMイネの安全性の立証には一層のデータが必要と、バイテク企業・開発者が期待した年内の承認を見送ることになったのである(中国生物安全委員会 GMイネ商業栽培を承認せず 一層の安全性データを求める,05.12.12)。安全性でけでなく、農学的性能も含めた慎重な検討なしの”迅速”な承認は、中国農業の生産性向上に寄与しないばかりか、大きな災厄をもたらすかもしれない。

 Jikin Huang and Oiifang Wang,Agricultural Biotechnology Development and Policy in China,AgBioForu,,5-4:122-133,2002
  China intends to push for GM crop studies,China Daily,05.2.14
  http://www.chinadaily.com.cn/english/doc/2006-02/14/content_519769.htm

 WTO仮裁定は、このような迅速な承認を強要するものでは決してないのである。バイテク企業・開発者、その主張を鵜呑みにするジャーナリスト、地球の友が公表した浩瀚な報告書を精査してからものを言うべきだ。