インド 今月にもGMナス販売承認か 初のGM食用作物承認の動きに高まる懸念

農業情報研究所(WAPIC)

06.7.13

 インドが食用作物としては初めてとなる遺伝子組み換え(GM)ナス(brinjal、インドアフリカナス)の商業栽培を承認することになりそうだ。このナスはモンサント関連会社のマハラシュトラ・ハイブリッド・シーズ社(Mahyco)が開発したもので、ナスの幼梢や果実を食い荒らす重要害虫のナスノメイガを殺す土壌細菌(Bt)由来の外来遺伝子(cry1Ac)を組み込んだハイブリッド種という。

 Mahycoは、このナスの販売の承認を申請した。遺伝子操作承認委員会(GEAC)は今月半ば過ぎにも承認する予定だ。しかし、食用作物としては初の承認であり、農民団体・反GMグループの反対活動も高揚しているという。インドでこれまでに商業栽培が許されたGM作物は非食用のGMワタだけだ。

 多くの途上国政府は、収量や栄養分を増やし、農薬等の投入を減らし、また生物的・非生物的ストレスへの耐性を強化された食用植物を開発するバイテク研究プログラムを立ち上げてきた。しかし、食用GM作物に対する消費者や取引業者の抵抗は大きく、安全規制も不備で、その商業的利用はためらってきた。途上国で栽培されている主要食用GM作物としては、南アフリカのBtホワイト種トウモロコシがあるだけだ(FAO報告による途上国のGM作物研究・開発動向,05.5)。

 大量の食用GM作物開発投資を行い、1997年以来様々なGM食料作物の圃場実験を行ってきた中国でさえ、主要食料作物の商業栽培はなお承認していない。昨年中にもGM稲の商業栽培を認めるだろうと喧伝されたが、これも見送った。インドでも、規制問題や反GMグループの圧力のために、GMイネの試験地を見つけ出すのも次第に難しくなっていると言われる。

 こうしたなかでのこの動きは、インドにとってのみならず、途上国全体にとっても画期的意味をもつことになるかもしれない。

 インド紙の報道によると、遺伝子操作承認委員会(GEAC)は、このナスの大規模実験と種子生産が承認されようと公式発表していた6月30日の会合での承認決定を延期した。この承認には多くのNGOが早くから反対を表明しており、GEACの専門家委員会が7月15日まで受け付ける様々なコメントを検討している。この検討を終えてからの最終決定となるが、これは形式だけのこと、今月の第3週か第4週の会合での最終決定が予定されているという。

 GEAC defers decision on Bt brinjal trials,Hndu Business,7.5
 http://www.thehindubusinessline.com/2006/07/05/stories/2006070503590800.htm

 この報道によると、開発者や研究者は、このナスの採用で農薬使用が大きく減り、農民や消費者に多大な利益があると強調している。Mahycoの研究部長は、農民はこのナスの栽培のために1ha当たり1.4kgの農薬を使用しており、水田で使用される農薬の200gに比べてはるかに多いと言う。農業科学大学の研究者は、Btナスにより農薬消費が80%減らせることが実証されており、農民は農薬支出を大きく減らすことができ、また人間への影響がないことを示す十分な研究もあるから、農薬を減らすことで消費者の安全にも貢献すると言う。

 しかし、今年3月、有機農業推進NGO・持続可能農業センター(CSA)は、アンドラプラデーシュ州で安全指針を侵犯するGM食用作物(イネとナス)の試験が行われている証拠を発見した、これは人間の健康と環境への深刻な脅威だとして、GM食用作物の屋外試験の即時停止を要求している。

 Call to stop Bt food crop trials,Hndu Business,3.6
 http://www.blonnet.com/2006/03/07/stories/2006030702111200.htm

 6月には、科学者・活動家・農民グループがアンドラプラデーシュ州政府にBtナスの栽培を許すなと要請した。このとき、CSAは、2005-2006年に行われたBtナスの試験では、収量を含めたいくつかのパラメーターで最悪の結果が得られたと発表している。CSAは、インドはこのナスの原産地の中心であり、このようなGM作物は種子を汚染、将来の研究を不可能にし、作物そのものを脅威にさらす恐れもあると言う。

 AP Govt urged not to allow Bt brinjal,Hndu Business,6.28
 http://www.blonnet.com/2006/06/28/stories/2006062802461200.htm

 今月10日には、5州の農民団体が連合、首相に対しBtナスの大規模屋外実験の全面禁止を要求した。彼らは、「ナスはインド中の数百万の小農民が栽培している。いかなる政府も、権力にとどまろうと望むならば数百万の農民に責任を負わねばならない。我々は、人々の健康と環境や国の農民の社会・経済的現実に対するその影響の適切な長期的研究なしでGM食料作物を導入する政府の計画を非難する」と言う。

 Manmohan urged to ban field trials of genetically modified food crop,Hindu,7.11
 http://www.hindu.com/2006/07/11/stories/2006071108631000.htm