農水省 GM作物を長期栽培しても環境への特段の影響はない 根拠不確かな結論

農業情報研究所(WAPIC)

06.7.19

 農水省が18日、「平成13年度から平成17年度まで、遺伝子組換えのイネ、ダイズ、トウモロコシ及びナタネの4作物をほ場で栽培した場合における植物相、昆虫相や微生物相への影響を調査」してきたが、「これらの作物を複数年栽培した場合の栽培圃場及びその周辺の生物相への影響は、組換え体区と非組換え体区の間で有意な差はなかった」と発表した。

  遺伝子組換え農作物の長期栽培による環境への影響について,7.18
  http://www.maff.go.jp/www/press/2006/20060718press_6.html

 調査対象となったのは、縞葉枯ウィルス抵抗性イネ、除草剤グリホサート耐性ダイズ(H1317、H16〜17)、除草剤グリホサート耐性ナタネ(H13〜17)、除草剤グリホサート耐性トウモロコシ(H1316)という。

 しかし、調査結果が示されているのは、ナタネ、トウモロコシ、ダイズについてのみである。そして、ナタネについては、GM区と非GM区の1uに出現した植物種数の比較図、トウモロコシについては昆虫(クロキイロアザミウマ)の個体数推移比較図、ダイズについては乾土1g当たりの生菌(細菌、放線菌、糸状菌)数の推移比較図が示されているだけである。また、後作農作物への影響については、資料はまったく示すことなく、、GM区と非GM区における生育と収量に差異は認められなかったとしている。調査方法の詳細も一切示されていない。

 それでもって、「今回の調査結果から、組換え農作物を複数年栽培した場合であっても、@その栽培圃場及びその周辺の生物相への特段の影響は認められない、A栽培圃場に後作として別の作物を栽培した場合でも特段の影響は認められないことを確認した」と結論、「今回の調査結果については、パンフレット等を作成し国民とのコミュニケーション活動の中で活用していく予定」という。

 資料)本文[PDF]

 これだけの調査で何故こんな結論になるのか、解る人がいるのだろうか。

 英国の3年間にわたる除草剤耐性トウモロコシ・ナタネの「農場スケール評価」は、圃場内の雑草と無脊髄動物、圃場周辺の植物と無脊椎動物への影響を調べた。

 英国:GM作物農場実験評価報告発表,03.10.18

 圃場内の雑草への影響に関しては、ナタネの場合には、栽培後の土壌に残された雑草種子はGM圃場の方で減少が大きかった(これは、食料の減少を通じてヒバリのような小鳥にも影響を与える)。トウモロコシでは逆の結果になっている。また、雑草のバイオマスでは、ナタネではGM圃場の方が少なく、トウモロコシではGM圃場の方が大きいという結果も出ている。

 圃場内の無脊椎動物への影響に関しては、英国では、GMトウモロコシ栽培で大部分の種が増加、GMナタネでは大部分の種が減少したという結果となっている。雑草の種を食べるオサムシ科の甲虫は、ナタネではGM区画の方が少なかったが、トウモロコシではGM区画の方が多かった。雑草の上や落葉枝の中で活動する大分類種無脊椎動物については、GMナタネでは蝶の数が減った。枯れたり腐食した雑草の上で餌を取るトビムシ類は、どちらの作物でもGM区画の方が多かった(GM品種では除草剤施用時期が遅く、雑草が枯れるときにはより大きくなって、これらの昆虫により多くの餌を提供するためとされている)。

 英国の実験における圃場周辺の植物への影響に関しては、ナタネでは植物の被覆・開花・結実はGM圃場周辺の耕起地の方が少なかったが(25%、44%、39%)、トウモロコシでは植物の被覆・開花はGM圃場周辺地の方が多かった(それぞれ28%、67%)(これは、これら植物が圃場内で散布される除草剤の影響を受けているためとされた)。圃場周辺の無脊椎動物への影響については、GMナタネの周辺地でカウントされる蝶の数は、利用できる花の量の違いを反映し、24%少なかったとされている(蜂、ナメクジ、蛇、その他の無脊椎動物では違いが見られなかった)。

 日本では、雑草の種数と昆虫1種の個体数を調査しただけだ。これだけの調査で、「組換え農作物を複数年栽培した場合であっても、その栽培圃場及びその周辺の生物相への特段の影響は認められない」と何故言えるのか。少なくとも英国並みの調査をしてから言うべきことだ。

 なお、英国におけるGM作物と非GM作物が雑草や無脊椎動物に与える影響の違いは、作物そのものではなく、除草体系ー施用される除草剤の種類と施用のタイミングーの違いから来るものと理解されている(なかでも、通常のトウモロコシ栽培では動植物相に影響が大きいアトラジンが使われているのに対し、GM作物ではより影響が少ない除草剤・グリホサート・アンモニウムが使われることが上記の結果に反映されている)。

 ところが、日本の調査結果報告は、GM区・非GM区でそれぞれどんな除草体系が用いられたのかについてはまったく触れていない。現実には、GM作物栽培と非GM作物栽培では除草体系は異なるはずであるから、それを考慮した評価がでなければ農家のGM作物栽培には適用できないはずだ。この調査結果をもって、GM作物を栽培しても「特段の環境影響はありません」と「コミュニケーション活動」をすることが許されるのだろうか。