英国:GM作物農場実験評価報告発表

農業情報研究所

03.10.18

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 10月16日、英国における遺伝子組み換え(GM)作物フィールド実験の結果を評価する「農場スケール評価(FSEs)」(メディア・リリース本体及び関連情報)がロイヤル・ソサイエティーによって発表された。報告の基本的内容は、漏出した情報に基づいて既にマスコミが報道していたことと変わらない(英国:ガーディアン報道を王立協会が批難、欧州委にGM禁止容認の雰囲気?,03.10.4;英国:GMナタネ・ビートは環境に有害、実験評価報告が不許可を主張か、03.10.2)。

 評価の対象となった実験は、除草剤耐性のGMビート・トウモロコシ・春油料種子ナタネ(以下、ナタネと略す)の栽培とこれらの非GM品種の栽培が雑草と野生動物(生物多様性)に与える影響を比較したものである。ただし、これは、作物そのものではなく、雑草コントロールの方法の違いがもたらす影響の違いを調査したものだ。各実験フィールドは二分され、一方の半分には雑草コントロールのための慣用の方法に従って管理される通常品種が播かれ、他の半分には除草剤耐性GM作物栽培で使用される除草剤(トウモロコシとナタネではグリフォサート・アンモニウム、ビートではグリフォサート)で雑草をコントロールするGM品種が播かれた。生物多様性の比較は、フィールドとそれを直接取り巻くフィールド周辺で、雑草と、甲虫・蝶・蜂のような無脊椎動物のレベルを調べることによって行なわれた。

 全体で八つの報告が出された。これらには、フィールドにおける雑草を考察するもの二つ、フィールドにおける無脊椎動物への影響を考察するもの二つ、フィールド周辺の雑草と無脊椎動物への影響を考察するもの一つ、雑草と無脊椎動物の全体への対照除草体系の影響を考察するもの一つが含まれる。もう一つは、研究のバックグランドとそのデザインの原理を考察し、最後の報告は、結果が考察される背景情報を読者に提供するために、研究された作物の管理を現在の通常の方法と比較したものである。

 報告は、施用される除草剤の種類と施用のタイミングによって、雑草とこれを餌とする動物への影響が大きくことなることを明かにしている。ビートとナタネでは、GM品種栽培のマイナス影響のほうが大きく、通常はアトラジンを除草剤として使うトウモロコシでは、逆の結果が出た。

 この結果は、GM作物の商用栽培の許可に当たっては、ケース・バイ・ケースの環境影響評価が不可欠であることを、改めて浮き彫りにする。この実験は、環境影響評価の中心的関心事であった遺伝子汚染とその影響(例えば、「スーパー雑草」の誕生やそれがもたらす強力な除草剤の使用の増大の影響など)の評価をするようには設計されていない。これは今後の課題である。

 しかし、今回の結果は、環境影響評価が遺伝子汚染の問題に限られてはならないことも明かにしている。GM作物そのものではなく、GM作物の導入がもたらす栽培慣行の変化の影響も、ケース・バイ・ケースで検証される必要があるということだ。GM作物の商用栽培許可に際しては、今後、開発者にこのような環境影響評価も義務づける必要がある。開発のための時間と費用は大幅に増えることになろう。報告は、開発企業に耐え難い問題を突きつけたことになる。

 メディア・リリースによって主要な影響を要約しておこう。 

フィールド内の雑草への影響

 ビートとナタネでは、雑草コントロールはGMの方が有効で、栽培後に土壌に残された雑草種子(シードバンク)の減少につながった。これは英国の作物畑で何十年もの間起きてきたことだが、GM品種栽培によりこの傾向が加速され得る[これはヒバリのような小鳥の死活的に重要な食料源となる。その数は、60年前からの農業近代化過程で激減している]。トウモロコシでは逆の結果になった。GMトウモロコシに使用される除草剤は、非GMトウモロコシの除草剤よりも雑草コントロールに有効でない。

 ビートとナタネでは、播種後の短期間の雑草密度はGM区画の方が高いが、除草剤の最初の施用後にこれが逆転する。シーズン末までには、集められた雑草の重量(バイオマス)と土壌に落ちた雑草種子(シードレイン)の数は、非GM区画の3分の1から6分の1の範囲になった。シードレインの変化はシードバンクに影響、GM区画の種子密度は20%ほど下がる。

 トウモロコシでは、雑草密度はシーズンを通してGM区画で高く、非GM区画に比べ、バイオマスは82%、シードレインは87%多かった。しかし、シードバンクへの影響には差がなかった。

 英国で最も普通の雑草種12が調査されたが、ビートの6種、トウモロコシの8種、ナタネの5種のバイオマスが大きな影響を受けた。一般的に、バイオマスはビート・ナタネではGMの方が少なく、トウモロコシではGMの方が多い。シードバンクへの重要な影響が雑草4種で発見されたが、ビートとナタネの多くの種(24のうち19)では、GM区画の方が低かった。これらの差違は、時間が重なると、耕地雑草密度の大きな減少につながり得る。トウモロコシでは、GM栽培により増加する可能性がある。

フィールド内の無脊椎動物への影響

 除草方法の違いは、少なくとも一つの作物において、地面で活動することが多い無脊椎動物と大分類種の捕獲量に大きな影響を及ぼした。トウモロコシではGMにより大部分が増加、ビート・ナタネではGMにより大部分が減少した。雑草の種を食べるオサムシ科の甲虫は、ビート・ナタネではGM区画の方が少なかったが、トウモロコシではGM区画の方が多かった。

 雑草の上と落葉枝の中で活動する大分類種無脊椎動物は処理による影響がほとんどなかった。しかし、GMナタネでは蝶の数が減り、GMビートでは蜂、蝶、異翅目の数が減った。

 しかし、枯れたり腐食した雑草の上で餌を取るトビムシ類は、すべての作物でGM区画の方が多かった。これは、GM品種では除草剤施用時期が遅く、雑草が枯れるときにはより大きくなって、これらの昆虫により多くの餌を提供するためである。

 フィールド周辺の植物と無脊椎動物への影響

 周辺区域は、作付されない耕起された土地、それとフィールドの境界をなすフェンスまたはヘッジロー(生垣)との間の草の多い土地、境界そのものの三つ分けられた。ナタネでは、耕起されたGMフィールド周辺地の植物の被覆・開花・結実の方が、それぞれ25%、44%、39%少なかった。ビートでは、GMフィールド周辺地の開花・結実の方が、それぞれ34%、39%少なかった。トウモロコシでは、GM周辺地の被覆・開花の方が、それぞれ28%、67%多かった。これらの結果は、これらの植物が除草剤の影響を受けているために、作付地内の雑草への影響に相応している。この土地より外の土地では、影響はより少なく、除草剤のダメージのレベルは低かった。

 GMナタネの周辺地でカウントされる蝶の数は、利用できる花の量の違いを反映し、24%少なかった。フィールド周辺地で採集された蜂、ナメクジ、蛇、その他の無脊椎動物では違いが見られなかった。

 

 このような報告は、政府による除草剤耐性GMビート・ナタネの商用栽培の禁止につながると予想されている。米国等は、EUのGM作物商用栽培の事実上の「モラトリアム」を衛生植物防疫協定(SPS)違反とWTOに訴えているが、実験結果はこの論拠を覆す有力な証拠ともなる。トウモロコシについても、比較の対象とされた非GMトウモロコシ栽培に使われるアトラジンがEUレベルで禁止されたのだから(ただし、英国でのスウィートコーン栽培には例外的に認められた)、実験は無効であり、再実験が必要とされている(EU、除草剤アトラジン禁止へ、英国のGMトウモロコシ承認にも余波,03.10.13)。その結果によっては、除草剤耐性GMトウモロコシの禁止も正当化される可能性がある。このような報告の発表は、もちろん反GM運動を続けてきた環境団体等、多くの団体が歓迎するところだ。禁止の直接の影響を受けるだけでなく、環境影響評価の拡充も求められかねないバイテク企業には大きな打撃だ。この報告発表の日、モンサントはヨーロッパの穀物・種子事業の閉鎖を発表した。

 GM作物禁止だけでは生物多様性は守れない

 しかし、この報告は除草剤に関する別の問題も提起することに注意する必要がある。環境団体は、報告が除草剤耐性GM作物の禁止につながると喜んでばかりはいられられないはずだ。この報告は、非GM作物栽培の方が生物多様性に有害なケースもあり得ることも、トウモロコシの例で示している。GM作物導入以前から英国が生物多様性を大きく毀損してきたことは、上に示唆されているとおりである。これは農薬使用の増加も含む農業慣行の変化の結果である。

 除草剤耐性GM作物との直接の関連で言えば、除草剤使用が続くかぎり、非GM作物も除草剤耐性を発達させる。GM技術に拠らない除草剤耐性作物も作られている。例えば、現在のオーストラリアの油料種子ナタネの7割以上は、アトラジンも含むトリアジン除草剤に耐性をもつ「TTカノーラ」である。その起原は、トリアジンに対する抵抗性を発達させた野生近縁種(Brassica rapa)との交配によってカナダ・ゲルフ大学の研究者が作り出した品種だ。GM技術によらずともこのような品種が自然に発生し、あるいは作られ、普及する。農民はGM作物同様な雑草コントロールを行なうだろう。雑草、生物多様性への影響は、除草剤耐性GM作物と同様だ。

 除草剤耐性GM作物が禁止されれば、GM技術に拠らない除草剤耐性作物の開発に拍車がかかる。これらの作物についても、GM作物と同様な環境影響評価が必要になる。GM作物禁止だけでは生物多様性は守れない(*)。この報告を機に、このことも肝に銘じる必要がある。

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 'Cosumers just don't want it'.
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 NewScientist.com
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