GM・Btワタ導入で標的外害虫が増加 Btワタ農民に経済的損失ー中国での新研究

農業情報研究所(WAPIC)

06.7.26

 ネイチャー・ニュースによると、コーネル大学の研究者が中国の研究者との共同研究で、殺虫性遺伝子組み換え(GM)Btワタが標的害虫(bollworm)以外の害虫、特にmiridsと呼ばれる害虫の発生を大きく増加させることを発見した。

 この研究は、中国におけるGMワタ導入の7年後に行われたもので、中国ワタ作農民とのインタビューに基づく。これらの害虫は以前はbollwormの防除のために使用されていた 多種の害虫に効き目をもつ農薬で防除されていた。今や、農民は、通常のワタを栽培する農民と同じ量の農薬をこれらの害虫の防除に使っている。

 Bt種子は高価だから、これはBtワタ農民の純所得が通常ワタ農民のそれよりも8%低いことを意味する。Btワタ採用の経済的メリットがないどころか、却って損をするということだ。

 ただ、これは、他の害虫のタイプや数が地域により大きく異なるので、Btワタ採用の影響を予測するのは難しい。米国でも同様な現象が確認されているが、殺虫剤が必要な時期を決定するために注意深い監視が行われており、中国に見られるような有害な影響はなかったように見えるという。

 しかし、この研究は、インドや南アフリカなど、既にBtワタを採用した国々において、標的害虫以外の害虫の増加がBtワタの利益を次第に蝕む恐れを掻き立てるという。

 Transgenic cotton drives insect boom,news@nature,7.25

  考えて見れば、これは当然のことだ。害虫は1種類だけではない。そもそも、単一の害虫だけを殺すBt作物を採用することで農薬使用を大きく減らすことができ、農民経済にも寄与するというBt作物の開発者や唱道者の主張が一般化できるはずがない(逆の主張も一般化できるわけではないが)。この発見はそれを実証したところに価値がある。

 中国はBtワタだけでなく、既にニカメイチュウ(ニカメイガ)とコブノメイガに抵抗性を持つBtイネ3品種の商品化前大規模実験(試験場圃場と農家圃場での実験)を行っていると言われる。これらのBtイネ実験を調査した米国研究者は次のように言う。

 Scott Rozelle et al,Genetically Modified Rice in China:Effects on Farmers-in China and California,Agricultyural and Resource Economics,Sep/Oct 2005(Giannini Foundation of Agricultural Economics)

 「GM稲農家の殺虫剤施用回数は1シーズンに1回以下(0.5回)で、非GM稲農家の3.7回に比べて遥かに少ない。これは防除労働の大幅削減にもつながっている(1ha当たりで、非GM稲農民の9.1日に対し、GM稲農民の1以下)。1ha当たりの殺虫剤使用量・額では、非GM稲農家の方が8倍から10倍多かった。

 GMワタ栽培でも同様に殺虫剤使用が減るが、この場合に多くの非標的害虫の防除のための殺虫剤が使われている。しかし、調査したGM稲栽培圃場の64%で、殺虫剤はまったく使われていなかった。

 さらに、GM稲の収量は非GM品種より多く、収量の増加と投入の削減で、収益性はGM稲農民の方が高い(約15%)。これを拡張適用すると、中国稲作農民の40%がGM稲を採用する場合の中国経済の利得は年に40億ドルになる。GM稲への投資の便益/コスト比率は、もしそれが商品化されば非常に高い。

 農民はこのように高い生産性を得るだけでない。Btワタの影響に関する研究は、農民の健康にも好影響があることを示しているが、これは我々の調査対象農民でも見られた。2002年と2003年に殺虫剤による健康被害を報告したGM稲農民は一人もいない。GM稲と非GM稲の両方を栽培した農民の中では、2002年に7.7%、2003年に10.9%が殺虫剤による健康悪影響を報告したが、GM圃場での作業後に影響を受けたという報告はない。非GM農民の間では、2002年に8.3%、2003年に3%が悪影響を報告した。」

 このような調査結果に基づき、この研究者は、中国政府はためらうことなくこれらBtイネの商業栽培を承認すべきであると言う。それにもかかわらず、中国は予想された昨年末の承認を見送った(中国 GM作物研究は続けるが開発・商品化には慎重 GM米承認の見通しはなお不透明,06.6.19;中国生物安全委員会 GMイネ商業栽培を承認せず 一層の安全性データを求める,05.12.12)。もし承認していれば、何年か後にはBtワタと同様な現象が生じ、中国稲作農民と中国経済に損害をもたらすことになったかもしれない。見送りは賢明な選択であったかもしれない。

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 China's GM cotton profits are short-lived, says study,SciDev,7.26
 China's GM cotton battles a new bug,NewScientist.com,7.25