インド米輸出業界 ヨーロッパのGM米汚染で国内GM米実験反対へ GM技術退潮の恐れ

 農業情報研究所(WAPIC)

06.11.1

  ヨーロッパの輸入米国米の遺伝子組み換え(GM)米汚染事件の波紋がインドにも広がり始めた。これまで、GM作物導入に反対するのは、ほとんど環境団体とこれに同調する農民団体に限られていたが、全インド米輸出協会(AIREA)の代表者が10月31日、これら団体と肩を並べる異例の記者会見で、インドにおけるGM米実験に反対を表明した。今後、インド7州の10のサイトで進行中のマハラシュトラ・ハイブリッド種子社(Mahyco)のBtイネ(害虫抵抗性GMイネ)閉鎖系圃場実験を停止させる運動に合流するという。

 Rice exporters join anti-GM bandwagon,Hindu Business,11.1
 http://www.indiapress.org/gen/news.php/Business_Line/400x60/0

 一輸出企業の代表者は、「我々の反対はイデオロギー的なものではない。純粋に実際的な理由に拠る」と言う。

 このような反対は、ヨーロッパがインドの米、特にバスマティ米の巨大な市場で、ヨーロッパの消費者がGM食品に激しく抵抗していることに関連している。

 バスマティ米のトップ輸出企業の代表者は、「米は自家受粉作物であり、我々の通常のバスマティ米や長粒米がGM米に汚染される可能性がほとんどないということは科学的には確かだろう」が、消費者はあらゆる可能性を考える、「今までのところ、我々が輸出する米はGMフリーであるというのが強味になってきた。消費者の心に僅かな疑惑でも生み出すようなことには非常に用心するべきだ」と語る。

 彼によると、問題は、米国ライスランドフーズのヨーロッパ向け貨物のGM米汚染が発見されたのを契機に重大になった。EUとロシアは米国からの米輸入を全面停止する一方[これは多少不正確だが]、バイエル社は[米国]農民に提訴されている。また、世界最大の米輸入会社・エルボ・プレヴァ社(スペイン)も米国産米の取引を停止、英国のテスコ、マーク&スペンサーなどの小売大手もこれに続いた。彼は、「何故こんなリスクを犯すのか」と言う。

 バイテク企業は、世界の飢餓を救うと約束してから四半世紀を経てもこの約束を果たしていない。果たすための努力も怠ってきた。その上に、自らの不手際で、これが実現する日をさらに遠ざけてしまった。

 国家事業としてGMイネの研究開発を推進、商業栽培の承認も近いと見られた中国の開発研究者も同じ過ちを犯した。承認は何時のことかまったく見通しが立たない状況に追い込まれている。世界最大の米輸出国・タイは、とっくの昔にGM米研究開発を停止しており、最近、改めてGMフリーを保証した(Thailand reaffirms that all rice is GM-free,Bangkok Post,10.31)。そしてインドにおけるこの新たな状況だ。

 GM技術が世界の飢餓を救う時代は永遠に来ないかもしれない。そうこうする間に、自称最先端の育種技術の座は、伝統的な作物・近縁種との交配育種の時間を大幅に短縮し、より安全で効率的 で、かつGM技術ではできない多様な形質(多収、干ばつ耐性等)を持つ作物を作り出すことのできるマーカー支援選抜(MAS)育種に明け渡すことになるだろう。

  Jeremy Rifkin,This crop revolution may succeed where GM failed,The Guardian,10.26
  http://www.guardian.co.uk/science/story/0,,1931466,00.html
 Seed companies boost crops using traits of relatives,Pittsburgh Post-Gazette,10.31
 http://www.post-gazette.com/pg/06304/734411-115.stm

 なお、10月21日に伝えた米国からの輸入長粒米すべてのGMO検査を義務付ける欧州委員会の提案は(EU 米国からの輸入長粒米すべてのGMO検査を義務化,06.10.21)、その後EUの措置として正式に承認されている。

 GM rice: Standing Committee backs Commission Decision on strict counter testing of US rice imports,Midday Express of 2006-10-24