米・欧でクローン動物とその子からの食品は安全の評価 遺伝的多様性喪失の恐れ

農業情報研究所(WAPIC)

08.1.16

  米国食品医薬局(FDA)が1月15日、牛・豚・山羊のクローンからの肉と乳、及び食品として伝統的に消費されている動物種からのクローンは、通常の動物からの食品と同様、食べても安全とするリスク評価結果を発表した。

 ただし、クローンは繁殖のために使われるだろうから、多数が食料チェーンに入ることは予想されない。市場に出す肉や乳の生産には、性生殖で生まれるその子が使われることになろうという。

 FDA Issues Documents on the Safety of Food from Animal Clones,FDA,1.15
 http://www.fda.gov/bbs/topics/NEWS/2008/NEW01776.html

 米農務省(USDA)も、米国には現在600頭のクローン動物がいるだけで、その大部分は繁殖用動物だから、市場に出るクローンはほとんどない、市場が抵抗なく受け入れるようになるまでの間、技術の提供者に対し、クローン動物からの肉や乳を食料チェーンに送ることに関する今までにの自主的モラトリアムを継続するように奨励すると発表した。

 Statement by Bruce Knight, Under Secretary for Marketing and Regulatory Programs on FDA Risk Assessment on Animal Clones,USDA,1.15
   http://www.usda.gov/wps/portal/!ut/p/_s.7_0_A/7_0_1OB?contentidonly=true&contentid=2008/01/0012.xml

   さらに、食肉大手のスミスフィールドも、クローン動物からの肉製品を生産する計画はないとする声明を発表、タイソン社も同様な意向のようだ。

 Smithfield Foods, Inc. Statement Regarding Animal Cloning,1.15
 http://www.smithfieldfoods.com/Investor/New/press_view.asp?ID=444
 Smithfield, Tyson To Remain Clone-Free Following FDA Approval,Cattle Network,1.15
 http://www.cattlenetwork.com/Content.asp?ContentID=190428

 しかし、クローン動物の子からの食品(義務的表示はなし)は市場に溢れることになるかもしれない。多くの人が安全性に関する不安や宗教的・倫理的立場からくる”不快感”(米国消費者 GM食品の受け止め方はなお混沌 動物クローンには過半数が”不快”,06.12.10)を抱き続けることになるだろう。農業と種の存続にかかわる動物の遺伝的多様性の喪失にも拍車がかるだろう(米国FDA クローン動物食品は食べて安全 だが食品安全性を問うだけで十分なのか,07.1.6)。

 先週はEUの欧州食品安全機関(EFSA)も健康な牛と豚からのクローンとその子から得られた肉や乳は安全とする意見草案を発表、公開協議を開始した。

 EFSA launches its draft opinion on animal cloning for public consultation,EFSA,1.11
 http://www.efsa.europa.eu/EFSA/efsa_locale-1178620753812_1178676923092.htm

 ただ、EUでは僅かな企業が研究しているだけで、クローニングは限定されている。家畜改良のための育種は協同組合や国家的団体が行う傾向があり、米国のような競争圧力もほとんどない。それでも、農業者は、もし米国が前進すれば、非クローンの精子や繁殖用動物を得るのが難しくなるかもしれないと恐れているという。

 Brussels to hear report on cloning ethics,FT.com,1.15
  http://www.ft.com/cms/s/0/015c5030-c3b7-11dc-b083-0000779fd2ac.html?nclick_check=1