モンサント等GM種子企業 貧困と飢餓と闘う農業科学技術国際アセスを離脱

農業情報研究所(WAPIC)

08.2.16

 農業バイテク企業がバックアップする遺伝子組み換え(GM)作物普及のためのNPO・国際アグリバイオ事業団(ISAAA)が13日、2007年の世界のGM作物作付面積は前年よ りも12%増えて1億1430万fに達した、特に途上国での拡大が目立つとする報告書を発表した。この高率のGM作物採用率は、「バイテク作物が安定して優良な成績を示し、途上国と先進国の大小両方の農家に大きな経済・環境・健康・社会上の便益を与えてきたという事実を反映する」と、鼻高々だ。

 ISAAA Brief 37-2007: Executive Summary,08.2.13
 http://www.isaaa.org/resources/publications/briefs/37/executivesummary/default.html

 ところがモンサント、シンジェンタ、BASF等、現在のこれらのGM作物種子をほぼ独占的に供給する大手バイテク企業が、農業バイテクなくしては貧困や飢餓の削減はできないとする彼らの主張が認められそうもないのを不服とし、4年前に始まった産業・NGOの代表を含む世界中の専門家が参加する国連後援の「開発のための農業科学・技術国際アセスメント」(IAASTD)のプロセス(世銀:農業科学のリスクと機会を探る国際協議プロセスを始動,02.8.31)から撤退してしまった。

 プロジェクトを率いるボブ・ワトソン元国連気候変動政府間パネル(IPCC)議長は、これら企業の動きには「大変失望した」、(恐らくは4月に出る4年間のアセスメントの報告書の)「最終バージョンに合意する前に彼らが飛び出したのはまったく不幸なことだ。彼らが、我々は客観的でないとか、言い回しにバイアスがあるという証拠を提出できるならば、そのときには論議できる」と嘆く。

 また、このアセスメント・プロジェクトの一員であるグリーンピース・インタナショナルの活動家は、「このアセスメントは遺伝子工学の域を超えるもので、地球の農業と世界の貧困・飢餓の問題の解決策にかかわる。自分のビジネスプランが健全な科学と合わない、専門家は一層バランスの取れた意見を述べたというだけでこのような優良なイニシアティブから引き上げるのはまったく恥ずべきことだ」と、これら企業に再考を要請している。  

 Deserting the hungry?,nature.com,08.1.16
  http://www.nature.com/nature/journal/v451/n7176/full/451223b.html
  Biotech companies desert international agriculture project,The Guardian,08.1.22
  http://www.guardian.co.uk/environment/2008/jan/22/gmcrops.climatechange

 これら企業はなんとも身勝手だというほかなく、この一事からだけでも、これら農業バイテク企業が世界を飢餓や貧困から救い出す役割を果たせるなどとは信じられなくなる。

  昨年11月に発表されたIAASTD報告書草案は、南アフリカ、アルゼンチン、中国、インド、メキシコのGMワタでは金銭的報酬の増加が報告されているが、米国とアルゼンチンの大豆や米国のトウモロコシでは収量の多少の減少が見られると言う。また、殺虫剤使用削減の可能性は見られるが、除草剤使用は増えている。発見された便益が大部分の農業生態系に拡張できるかどうか、あるいは長期的に持続可能かどうかは不明確とも言う。

 そして、GM作物につきものの知的財産権ー特許権ーの使用は、特に途上国では農業投資に"禁止的”コストを生み出し・個別農民や公的研究者による実験的試みを制限する一方、食料安全保障や経済的持続可能性を強化する地方的実践の土台を掘り崩す恐れがあるとも指摘する。

 農業バイテクに関する結論は次のようなものだ。

 現代バイテクは、とりわけ小規模農民や生業的農民に貢献するような形では開発されてこなかった。技術だけでは、またそれ自体では、持続可能性や開発目標を達成できない。例えば、米の新たな育や品種の普及だけでは貧困は削減できない。それは地方的条件に適合されねばならない。従って、政策形成者は、生産性や収量の目標を超えたバイテクの影響を”全体的”に考え、能力建設、社会的公平、地方インフラストラクチャーの広範な社会問題に取り組むことが決定的に重要だ。

 IAASTD:Reports for Plenary:Synthesis Report,p.59-68

 これは”バランス”のとれた当然の結論に見える。ところが、農業バイテク推進者は、2015年までに極度の貧困と飢餓を根絶するという国連ミレミアム目標は、干ばつ耐性GM作物によってのみ達成できると言う。

 Henry I. Miller,The United Nations' Unscientific War on Biotechnology,World Politics Review,08.2.7
 http://www.worldpoliticsreview.com/article.aspx?id=1574

 広範な学際的協力だけが目標達成への道を開くというのに、将来の90億の地球人口を養うためにはGM技術が不可欠だという傲慢なこのような主張が、我々の未来を危うくしているのである。

 参考資料:Marc Dufumier1); Pierre-Henri Gouyon2);Yvon Le Maho3),Les OGM, une solution à la famine ?,Le Monde,08.2.11
    
http://archives.lemonde.fr/opinions/article/2008/02/11/les-ogm-une-solution-a-la-famine_1009929_3232.html
    1)
professeur à AgroParisTech,2)professeur au Muséum national d'histoire naturelle et à l'Ecole polytechnique,3)directeur de recherches au CNRS et membre de l'Académie des sciences.

 (要旨)

 1月31日付の”ル・モンド“紙上で6人の著名分子生物学者が、”植物分子生物学の目覚しい成果”を褒めそやし、将来の90億の人間を養うにはこれらの技術が不可欠だという観念を擁護している。このような立場は、現在の論争の文脈においては、いくつかのコメントを要請する。

 @GMOが我々の世界の食料(栄養)不足問題の魔法の解決策であるかのように言うことには重大な疑義がある。その上、GMOの栽培に関連した確認されたリスクと多くの不確実性がある。

 A世界の飢餓と栄養不良の問題は利用可能な食料の量的不足ではなく、資源の不平等な分配に直接関連している。世界の穀物と蛋白源作物のますます多くの部分が人間の食料でなく、家畜の飼料に向けられるようになっている。世界の飢餓人口の3分の2は、自身が食べるものを生産する手段を持たない農民である。

 B彼らの収入の増加は生産性の向上を前提とするが、農学は、栽培植物の遺伝的能力は極めて限られた生産性向上制限要因でしかないということで一致している。比較的低い金銭的・環境的コストで単位面積あたり収量を増やすことのできる技術はすでに存在する。しかし、”品種改良”よりも、耕作生態系内部における炭素・窒素・その他の多様な鉱物要素の生物学的循環の聡明な利用の方が重要な意味をもっている。

 C現在の途上国へのGMO導入方法の研究は、それが誘発するリスクの存在を明らかにしている。アマゾン森林の境界に至るまでのブラジルにおけるGM大豆モノカルチャーの拡大は、すでに土壌劣化と生物多様性の大きな喪失をもたらしている。GMOに結びついた除草剤の散布は、周囲の食料作物の重大な脅威となっている。将来、干ばつや塩害に耐えることができるジェノタイプが生産されれば、これら遺伝子はまさに有用だが、作物の多様性を保存しながらそれが農民に供給され、彼らの多様な品種の中に統合されるということが条件になる。現在のGMOで見られるように、これが逆になれば、いくつかの工業的品種の大規模モノカルチャーと生態的災厄につながる。

 DGMOは特許製品だから、農民からその種子の所有権を奪う。

 Eさらに、GMOが生産し、あるいは利用する農薬の人間や生態系への毒性に関する不確実性もある。

 Fバイオテクノロジーの農業にとっての有用性は否定しない。その研究の継続も明らかに必要だ。しかし、それは、リスクを減らし、有用性を保証すると言う条件で利用されねばならない。

 「科学者は、彼らが仕事をする実験室は世界のほんの一部へのアクセスを与えるにすぎないこと、関係する多様な学問―ADNから生態系までの生物学、生物学から経済・社会科学にいたるまで―を巻き込む反省が、これら技術の受け入れ可能な利用手続きの出現を可能にするという考え方を認める必要がある」。分子生物学者は、彼らのみが地球の問題を解決できると主張するかぎり、信頼を勝ち取ることはできない。