大多数のEU市民 倫理上の理由で動物クローンを拒否―EU世論調査

農業情報研究所(WAPIC)

08.10.10

  欧州委員会が10月9日、EU市民の大多数が倫理上の理由で動物クローニングに疑念を持ち、大半がクローン動物の食料生産への利用を拒んでいることを明らかにする世論調査に基づく研究結果を発表した。

  Europeans’ attitudes towards animal cloning:Analytical Report
 http://ec.europa.eu/food/food/resources/docs/eurobarometer_cloning_en.pdf
 Summary:http://ec.europa.eu/food/food/resources/docs/eurobarometer_cloning_sum_en.pdf

  クローン動物または動物クローニングをEU市民がどう受け止めているかを問う世論調査は今年7月、無作為に選ばれたEU27ヵ国の2万5000人に対するインタビューを通じて行われた。

 その結果、ほとんどのEU市民(80%)が、遺伝子組み換えではなく、既存の動物の”コピー”を作ることというクローニングの意味を正確に理解していることが分かった。動物クローニングという言葉を聞いたことがないという市民は7%に過ぎなかった。

 そして、大多数の市民が動物クローンに対する倫理上の疑問を抱いている。具体的には、

 動物クローニングの自然に対する長期的影響は分かっていないとする人が84%、

 人間のクローニングにつながる可能性があるとする人が77%、

 倫理的に間違っているとする人が61%、

 家畜集団の遺伝的多様性を損なう恐れがあるとする人が63%にのぼっている。

 ただ、動物に不必要な苦痛を与える恐れがあるという点では意見が割れた。この意見に同意する人は41%、同意しない人は43%だったという。

 インタビューを受けた人の4分の3が倫理上の理由で動物クローニングを拒み、動物クローニングが動物を”生あるもの”ではなく”商品”として扱う危険があると感じている。

 ただし、絶滅が危惧される動物の保全のためには無条件で、あるいは一定の条件付きで動物クローニングが正当化されるという人は67%にのぼった。動物の病気に対する強さを改善するためならば正当化されるという人も57%にのぼる。

 しかし、現在の動物クローニングの中心目的であるクローン動物の食料生産への利用に対する拒絶反応は強い。58%の人が、クローニング技術のこのような利用は決して正当化されないと答えた。一定の状況での食料生産への利用を認める人は28%にとどまり、無条件に正当化されるとする人は10%に過ぎなかった。

 ”動物クローニングは世界の食料問題解決に役立つ”、”栄養上・健康上の便益”、”価格・経済上の便益”、”品質・味・バレイエティの改善”などの予めリストアップされた動物クローンの経済・健康上の便益は、どれも食料生産のためのクローン動物繁殖を正当化しないと答える人も38%に達している。

 そういう便益があるなら正当化されるとする人(62%)のなかでは、世界食料問題の解決のためなら正当化されるとする人が一番多かった(31%、全体の19%)。価格・経済的便益があるならばという人は9%(全体の5.6%)にすぎない。

 食料生産のための動物クローニングが許された場合に誰が利益を受けるかについては、86%の人が食品産業と答え、農業者と消費者が受ける利益については懐疑的である。食品価格引き下げで消費者の利益になると考える人は10人に3人、ヨーロッパの食品産業の競争力強化のために食料生産への動物クローニングの利用が必要とする人も16%にすぎない。

 クローン動物の食品としての安全性に関しては科学者が提供する情報が最も信頼できるとする人が一番多い(25%)。しかし、信頼する情報源が食べても安全と言っても、大多数のEU市民はクローン動物の肉やミルクを購入しそうにない。20%の人が買いそうもないと思い、43%の人が買わないと答えている。

 クローン動物の子に由来する食品が店に出る場合には、83%の人が特別の表示が必要と言っている。 


 今年7月、欧州食品安全機関(EFSA)は、クローン動物の食品安全・動物の健康と福祉・環境への影響に関する最終的な科学的意見を欧州委員会に手渡した(クローン動物のリスク評価 単純な答え、保証はできない―欧州食品安全機関,08.7.25)。科学とニューテクノロジーに関する欧州倫理グループ(EGE)も今年1月、倫理上の懸念を掻き立てる意見*を出している。

 これらの意見と今回の研究を基礎に、欧州委員会が動物クローニングへの政策対応を探ることになる。しかし、動物クローニングをめぐる問題は、もはや食品安全にかかわる技術的問題の枠を超えた。欧州委員会も、「単純に答えることはできない、あるいは保証を与えることはできない」だろう。

 *http://ec.europa.eu/european_group_ethics/activities/docs/opinion23_en.pdf

 日本の食品安全委員会は、既に「環境、倫理、道徳、社会経済等に係る審議は行わない」と決めている。極めて単純に食べても安全と保証するのだろう。 それで、「環境、倫理、道徳、社会経済等に係る審議」は誰が行うのか。リスク管理機関は、そんなものは全部すっ飛ばしてクローン動物製品の販売許可を出すほかなさそうだ。ノーベル賞に浮かれていても、本質的問題は何一つ問えない不幸な国だ。

 体細胞クローン家畜由来食品の食品健康影響評価にあたっての今後の議論の進め方(たたき台)
 http://www.fsc.go.jp/senmon/sinkaihatu/s-clone-wg-dai1/s-clone-wg1-siryou8.pdf