クリントン国務長官 飢餓との闘いでGMが決定的役割 食料増産を助ける米国の主要手段

農業情報研究所(WAPIC)

09.10.17

  ヒラリー・クリントン米国務長官が10月16日、「2007年以来60回もの食糧暴動で世界の安全保障を脅かすようになった飢餓との闘いにおいて、バイオテクノロジーが”決定的役割”を果たす 」と語った。世界食料デーに因むビルサック農務長官との電話会談で、改善された技術(遺伝子組み換え=GM技術のことだ)が、諸国の食料増産を助けるために米国が利用する主要な手段の一つになると話したそうである。

 2050年までに世界食料生産を70%増やさなければ、91億人に増加する世界人口を養えなくなる(FAO:2050: A third more mouths to feed,09.9.23)、年に830億ドルもの途上国農業への投資が必要になる(FAO:On horizon 2050 - billions needed for agriculture,09.10.8)、地球温暖化によって2050年までに栄養不足の子供が2500万人増加するのを防ぐには農業研究・灌漑システム・インフラなどに年70億ドルの投資が必要になる(IFPRI:Climate change: Impact on agriculture and costs of adaptation,09.10.1)など、彼女も引用する最近の国連機関等 の発表を真に受け、これに悪乗りしたものだろう。

 Biotechnology Is Key to Fighting Hunger, Clinton Says (Update1),Bloomberg,10.16
 http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601012&sid=aL9WMGCf4cWU

 食料問題や作物バイオテクノロジーについて、彼女がどれほどの見識を持っているというのだろうか。

 というより、どんな技術を使ったとしても、また土地の制約(これ以上の農地開発は、砂漠化と温暖化を加速させるだけである)と予測される気候変動のなかで、さらにはバイオ燃料用作物・植物の大増産も目論まれるなかで、70%の食料増産などまったくあり得ない話であることは、特別の見識などなくても分かり切ったことである。バイオテクノロジーがそれを可能にすると米国の技術を売り込むのは、特定集団を経済的に利するだけだったブッシュ政府の”イデオロギー”を少しも脱していないことを意味する。

 将来の食料問題を解決するのは、基本的には食料生産ではない。生産だけを見れば、現在の生産だけでも、現在の倍の人口も養うことができる。ストックホルム国際水研究所(SIWI)・国際水管理研究所(IWMI)の研究によれば、食べられる作物の収穫量は1人1日当たり4,600キロカロリー、つまり必要量の倍以上になる。にもかかわらず、収穫後の損失で600キロカロリー、一部を家畜に与えることで(肉などで取り戻される分を差し引いて)1200キロカロリー、流通過程と家庭における損失・廃棄で800キロカロリーが失われ、利用できるのは2,200キロカロリーに半減してしまうという(食料・水問題の解決には食料損失・廃棄の削減が決定的に重要ー新研究,08.5.26)。問題が”生産以後”にあることは明らかだ。

 その上、肥満・肥満病に悩まねばならないほどのカロリー過剰摂取がある。米国における1人1日当たり供給カロリーは、実に3754キロカロリー(2003年、FAOSTAT)にもなる (もう、化け物とでもいうしかない)。クリントン氏、食料増産よりも、お膝元の過剰消費を改めることが食料問題解決の一助になると知るべきである。GM技術による増産支援など、まったく余計なお世話である。

 [こう書いたからといって、とりわけ食料・栄養不足が深刻な途上国小農民の農業生産を持続可能な形で改善する必要性を否定するものではない。ただし、大規模モノカルチャーを不可避にするGM農業は排除されなばならない]