口腔ケアのあり方

今この瞬間にも口の中に猛烈な痛みや不快感を抱えながら
訴える事もできない要介護者が数多くおられ、

一日も早くその苦痛を見つけて取り除かなければなりません。
また、世界にさきがけて高齢化社会を経験している日本は
介護においても世界の手本にされるような介護システムをつくり
新たなMADE IN JAPANとして世界に貢献すべきです。
そのシステムには口腔ケアは不可欠です。

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このページの目次
1、全ての寝たきりの方に口腔ケアを
2、普段磨きのすすめ
3、口腔ケアを食事の続きに行う
4、寝たままの口腔ケア

5、寝たままでの歯磨き例
6、自家製吸引器の作り方
7、病院関係者の皆様へ
8、そう快感や口臭対策に歯磨剤がお勧め

1、全ての寝たきりの方に口腔ケアを

健常者でもきちんと歯磨きができている人はさほど多くはありませんが、
会話等の普段使いによる口の動きや唾液による自浄作用によって口腔内の清潔が保たれています。
ですから、虫歯や歯周病は主に睡眠中に進行します。
口の動きや唾液が少ない要介護者の場合、口腔内の清潔を保つためには、
健常者以上に日ごろの口腔ケアが大切です。
また、口の中の衛生は虫歯や歯周病のみならず全身の健康に深くかかわっています。

ご自身で口の管理が難しい寝たきりの方の場合、経口食でない方も無歯顎の方も

もれなく誰かが口の中を観察して口腔ケアをすべきです。


2、普段磨きのすすめ

口腔ケアと言えばたいそうに聞こえますが、
様々な器具を駆使して行う細やかな口腔ケアは、
必要に応じて定期的に歯科医や歯科衛生士等の専門家に任せて、
医療や介護の現場で、看護師、ヘルパー、家族等が行う口腔ケアは,
身構えず一般的に普段行われる歯磨きを日々毎食後に行えばいいと思います。

3、口腔ケアを食事の続きに行う

一般的にも「食べたら磨く」と言われていますが、食事の後に洗面台まで行って
歯磨きをするのは結構面倒で習慣にするのは難しいことです。
お膳の上に爪楊枝のように歯ブラシがあってその場で歯を磨けると
もっと多くの人が「食べたら磨く」を実行できるでしょう。
食事介護が必要な方は、食事介護の続きに
下膳する前に口腔ケアをしてしまうことをお勧めします。
ブラシを使って普段磨きをするようにさっさと1〜2分で

汚れを落としてゆすいでもらい、デンタルミラーでチェックします。
電動歯ブラシを使うと楽ですし、効果的です。
わざわざでなく食事の流れで行うと、要介護者や介護者の負担も軽くなります。

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4、寝たままの口腔ケア
寝たままの口腔ケアで難しいのは水の扱いです。
楽に効果的に寝たままでの口腔ケアをする場合、
吸引機と注水器はとても有効です。
吸引機と注水器があればその他の口腔ケアも簡単にできます。
吸引機は吸引力の強いものがお勧めです。
吸引機は掃除機と瓶で簡単に作ることができます。

寝たままの口腔ケアの場合腰に負担がかかりますのでサボーターの着用をお勧めします。


5、寝たままでの歯磨き例
@
 用意する物;吸引器と注水器(写真右=のような物で代用できます)
各種歯ブラシ、歯磨材(良く泡の出る物)、タオル、コップ2杯の水(A,B)

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A
顎の下にタオルをあてがい首、顎から耳の後ろ口の周りや口の中を
語りかけながら軽くマッサージをして緊張をほぐします。

 仰向けに寝た状態で顔を横に向けてもらいます。
横を向きにくい場合は背中にクッションなどを入れて少しでも顔を横にしてください。
これによって吸引しきれなかった水が頬の内側に溜まり誤嚥を防いでくれます。
溜まった水は吸引機で吸い取る事が出来ます。
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B
 残渣が多いときは、大きな物はぬぐい取って、細かい物は、吸引器にて吸い取ります。
(吸引器は詰まらせないように、時折、水を吸わせてください)
C
 コップAに歯ブラシを浸し、微量の歯磨剤をつけて、
口チップで受けながら磨き始め、出た泡を随時吸っていきます。
微弱な吸引力でずっと吸いながらブラッシングを行います。
(吸引力があまりに強すぎると口が渇いてしまいます) 
歯磨剤による泡は認知しやすいため吸引が容易で、
水を口腔内に落とさない働きもしてくれます。


D
 歯ブラシが汚れると、コップBにてすすぎます。

E
 手順4,5を繰り返し、磨き終わると、注水器で注水し吸引器で吸引しながら洗い流します。
(残渣はブラシと吸引によって取り除かれますので、すすぎの水はほんの少しで十分です)
体を起こしてゆすいでもらう必要はありません。

注意点
@初めての場合は、モータの音など患者さんが不安にならないように、
どんな器具を使ってどのように歯磨きをするかを説明してください。

例;「歯医者の唾を吸う機械を使って、歯磨きしますからちょっと音がしますよ。」
「今日は歯磨き粉も使ってみましょうか。」
「上の前歯から始めますよ。」
(一度に言わずに、分けて言ったほうが伝わりやすいです。)
(事前に音を鳴らしたり、チップを見せましょう)

A必ず「痛くないですか?」「苦しくないですか?」「気持ちいいですか?」
と逐一声かけや表情を観察して患者さんの状態を確認してください。

(ケア中も鈴を鳴らす、首を振る、アイコンタクト等
中止する合図を決めておけば安心です)

B誤嚥防止の為、必ず唇を開いたまま、
口腔内に水分をためない状態で行って下さい。

C歯ブラシの種類や、歯磨き方法は、
かかりつけの歯科医師/歯科衛生士さんにご相談下さい。

(かかりつけの医院がない場合地元の歯科医師会にご相談ください。
紹介してくださると思います。メールにて相談くださればお答えします。)
 
少しでも楽な工夫
電動昇降式のベットであればできるだけベットを高くする。

ベットの手すりを外さずにタオルなどをクッションとして介して
もたれながらすると腰への負担が軽減できます。
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6、自家製吸引器の作り方
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用意する物
@ガラス瓶
(厚みと大きさがあり、口が広く、
蓋が加工し易いプラスチック製の物=写真は梅酒を作る瓶です)

Aホース2
(一本は掃除機のホースにつなげる太い物A
一本はバキュームチップにつなげる細い物B

BBのホースと掃除機をつなげる写真4の黒い接続部品
(電気店にて購入可能)

Cバキュームチップ
(歯科材料店にて購入可能、お困りなら差し上げます)

D掃除機

MC900352362[1]
製作手順

@   瓶の蓋に、掃除機につなげるためのホースを入れる穴(写真1左の穴)
吸引のホースを入れる穴(写真1右の穴)をそれぞれホースの太さにあわせて空けてやります。
その周りに空気を逃がすための小さな穴を幾つか空けます。写真1

A  それぞれにホースを差し込みます。(左が掃除機側、右が口側です)写真2,3

B   掃除機用ホースに接続部品を接着し、掃除機のホースに差し込みます。写真4

C   バキューム用ホースにバキュームチップをつなげます。写真5

これでバキューム代わりになります。水は瓶に溜まって掃除機の方にはほとんど入っていきません。
(作るのが面倒な方は痰をとるための器具で同じ作りのものが2万円ほどででています。)
3時や9時からの方向での処置が多い介護の場合、
90度のバキュームチップより15度くらいのものが使いやすいです。写真6
[
製作費1500円/製作時間10分]
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写真1image003image005写真2・3

image007写真4image009写真5

ral 012.JPG写真6

掃除機はある程度吸引力があればどんなのでもいいです。


  7、病院関係者の皆さんへ
 日頃、どんなに頑張って治療や管理をしてきた患者さんでも、
大病をして長期入院などをされると悪くなられる方が多いです。
口腔内の衛生は患者さんの快復に深く関わります。
是非リハビリの一環として、口腔ケアを取り入れていただきますようお願いします。
顎間固定をされている場合でも吸引器を使えばブラッシングは可能です。

 
とりわけ、たどり着くところが死である場合の闘病生活は、
本人にも家族にも大変辛いものです。
多忙な状況は理解しているつもりですが、
最後の時を少しでも楽にすごしていただけるよう口腔ケアもよろしくお願いします

訪問診療や口腔ケアの場合(ここが難しい)
 話を適当に切り上げて、さっさと片づけて帰ってくる。
(話好きのDr.DHは気をつけてください。午後診に遅れますよ)

8、口臭対策にも歯磨剤がお勧め
あまり知られていませんがおむつが発達した現在では、
寝たきの方のにおいの主な原因は口臭です。
(介護の方はお世話をするときに感じておられるでしょう)
特に残存歯があると口臭はより強いものとなります。
寝たきりの方の臭いを消す消臭剤が販売されていますが、
やはり元から断たなきゃ駄目!です。これは歯磨剤によってかなり抑えることができます。
「おじいちゃんお口臭〜い」と孫がいやな顔をする入れ歯洗浄剤のCMがありますが、
においというのはWHOの定める社会的健康にとってとても大切な要因です。
たとえ無歯顎(総入れ歯)でも入れ歯の洗浄のみならず
口の中もしっかり清掃して清潔に保たなくてはなりません。
無歯顎のかたの口臭の原因は舌苔中の細菌です。
舌の清掃には舌ブラシ(100円ショップでも売っています)や
堅めで毛先の短い歯ブラシが適しています。
清掃時に水歯磨きを用いると爽快感を味わってもらえますし、
口臭を抑えることができます。

歯科Dr.DHの方へ=日頃歯磨剤を使っている健常者の患者さんが、
医院を訪れてブラッシングをするときは、歯磨剤などは使いませんが、
寝たきりの方は、なかなか歯磨剤を使ったブラッシングが
出来ないことが多いので使ってあげると喜ばれます。

MMj03543850000[1]
    ある高名な衛生士さんが、
何年も訪問にてブラッシングをしてきた患者さんに、
吸引器と歯磨剤を用いてブラッシングを行ったところ
「今日は、歯磨きをしてくれたんやねぇ」と、たいそう喜ばれて、
「私は今まで、なにをしていると思われてたのか」と、ガックリきた・・・・
っておっしゃっていました。
是非トライしてみてください。