農業情報研究所

HOME グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境 ニュースと論調

米国:消費者団体、政府の狂牛病対応を批判

農業情報研究所(WAPIC)

03.5.26

 AFPが伝えるところによると、カナダでの狂牛病(BSE)発見を受け、米国消費者グループの政府の狂牛病対策への批判が高まっている。

 消費者連盟の微生物学者・ミカエル・ハンセンは、米国の狂牛病検査はないに等しいと言う。米国の牛の総頭数は1億頭にのぼるが、2002年に米国で検査されたのは1万9千900頭にすぎない。EUでは、この間に800万頭が検査されている。過去オ12ヵ月に狂牛病が発見された国は、いずれも、最近になって検査を拡充した国であった。彼は、米国のは狂牛病が潜在する可能性が非常に高いのに、政府はそれを発見し、防止するためにほとんど何もしていないと批判している。特に屠殺場に入った病気とわかる牛の検査を行なうように要求している。農務省担当者は、2001年6月から、このようなリスク牛の検査を倍増、5千頭にしたと言っている。しかし、米国では年に3千600万頭が屠殺され、このような牛は19万頭を数えるという。

 また、1997年に禁止した肉骨粉飼料の使用についても、2000年にGAOが飼料生産者の20%が動物の骨や肉を含む製品の表示を怠っており、さらに20%は動物組織が混じるのを防止できないと報告しているとの指摘の出ている。

 公益科学センターは、肉と骨を分離する設備をもつ34の屠殺場の調査で、挽肉の35%から動物の神経組織が発見されたことを挙げ、挽肉製造での脊髄と首骨の使用の禁止を要請している。

 消費者団体は、さらに動物のトレースのシステムも要請してきた。米国牛肉産業と政府担当官は、狂牛病が発生していないのだから、こんなコストの高いシステムは不要と考えているという。

 以上、US consumer groups demend screening for mad cow disease,AFP,5.22

 カナダもトレースのためのシステムは一応もっているが、発見されたケースがどこで生まれ、どこをどう移動し、最終的にどこにいたのか、未だに調査を完成できないでいる。EUの2000年7月発表のリスク評価もこのシステムが完璧でないと指摘していたが、現実がこれを証明してしまった。それがもたらす損失は大きい。今や調査はアルバータの16農場、サスカチェワンの2農場、ブリティッシュ・コロンビアの3農場にも拡大している。アルバータ農業相は、科学的根拠があるかどうかわからないが、消費者の信頼を得るために、千頭の牛を調査したのち、屠殺処分する必要があるかもしれないと明かしている(Up to 1,000 cattle may need to be slaugters,Golobe and Mail,5.24)。

 米国のトレース・システムも不完全なようである。EUの2000年7月のリスク評価は、家畜が州間で移動する場合には許可が必要だが、「個々の家畜のトレース・バックは、家畜が特定の州の内部で(いくつかの牛群を通して)数回移動しないときにはいつでも可能である」、「州内移動はいかなるタイプのデータベースにも記録されておらず、フォローアップは文書(記録)かそれぞれの所有者の記憶に頼ることになる」と欠陥を指摘している。1980年−89年にイギリスとアイルランドから輸入された496頭の牛の6%に相当する32頭はトレースできなかった(1999年5月現在)。日本の食品・外食産業は、カナダの狂牛病発見を受けて、大部分の原料を米国やオーストラリアから輸入しているから影響は軽微としているが、農水省は、さすがに、米国に、既に輸入されたカナダ産製品を日本に輸出しないように要請したという。しかし、米国にそれを識別する能力があるとは思えない。

 問題はそれにとどまらない。EUのリスク評価は、かつてのイギリスとアイルランドからの輸入牛に存在し得た狂牛病病原体が完全に不活性化されることのないレンダリング工程で製造された肉骨粉を通じて(少なくともその使用が禁じられる1997年以前)、米国国内に狂牛病を再生産した可能性を考慮、米国における狂牛病潜在の可能性を完全に排除することはできないとしていた。そのために、米国の貿易障壁だという再三の抗議にもかかわらず、米国からの輸入牛製品には特定経験部位の除去を義務付けている。とりわけ問題なのは、高圧による機械的工程によって「骨と肉を分離する」ことにより製造される安価な機械的回収ミンチ肉である。これについても、米国は、なお規制強化を検討している段階である。肉骨粉使用禁止措置が完全には遵守されていない可能性も再三指摘されてきた。米国政府は狂牛病対策の強化を宣伝しているが、専門家や消費者団体は早期の、一層厳格な規制を要請してきた。しかし、政府や牛肉産業は、狂牛病未発生国であるということを最大の根拠に、抜本的対策を拒んでいる。それどころか、EUの特定危険部位の除去の要求には、貿易障壁と反撃さえしている現状である。

 しかし、狂牛病未発生が余りに少ない検査の結果にすぎないとすれば、この根拠そのものが揺らいでしまう。米国消費者団体の恐れは、大量の米国産牛肉の輸入国である日本の消費者も共有するのが当然のはずである。安全性を重視するならば、せめてEUなみに、米国からの輸入牛肉には特定危険部位の除去を義務付けること、トレーサビリティーを確立することが必要と思われる。新たに発足する食品安全委員会が米国牛肉のリスクをどう評価するのか、それは今後の食品安全確保政策の方向性の試金石になると思われる。 

 関連情報
 カナダで狂牛病(BSE)発生確認,03.5.21
 米国:BSE防止対策の進展状況、検査3倍増,03.01.18
 
米国の牛海綿状脳症(BSE、狂牛病)防御措置とEUによるその評価,01.10.8
 
米国:ハーバードの研究、狂牛病リスクは極少、専門家は批判,01.12.1
 
米国:FDAの伝達性海綿状脳症(TSEs)諮問委員会、牛の脳製品禁止を要請,01.10.27
 
米国:保健省、狂牛病対策強化を発表,01.8.24
 
国:狂牛病侵入防止策を強化,01.8.18
 
米国:反芻動物飼料企業、多数が狂牛病防止ルールに違反,01.7.7
 
国:専門家、米国の狂牛病措置に欠陥を指摘,01.5.8