農業情報研究所

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食人慣習は前史時代からー変異遺伝子がプリオン病から人を保護?

農業情報研究所(WAPIC)

03.4.15

 ロンドン・ユニバーシティー・カレッジのプリオン研究室の研究チームが、変異遺伝子がパプア・ニューギニアのフォア族の一部を食人慣習により伝達されるプリオン病から護っていた証拠を発見した。「ニュー・サイエンティスト」誌の記事(Cannibalism 'rife among prehistoric humans',03.4.10)が伝えている。

 フォア族の間では、クロイツフェルト・ヤコブ病類似のプリオン病である「クールー」による死が1950年代末まで絶えなかった。それは、婦人や子供が死んだ男子縁者の肉を食べる儀式によって伝達するらしいことが明らかにされ、この慣習の停止とともにクールーの発生も止まっている(リチャード・ローズ『死の病源体プリオン』草思社、1998年)。研究チームは改めて部族を訪ね、多くの祭礼に参加しながらクールーを免れた50歳以上の女性30人から血液サンプルを採取、生残者の30人中の23人までが両親からプリオン遺伝子の特殊な接合、ヘテロ接合メチオニン/バリン(MV)を受け継いでいることを発見したという。研究者の一人は、クールーで死んだ大部分の婦人や子供は、おそらく可能な二つのホモ接合(VV、MM)の一つを受け継いだのだろうと言っている。MV接合は世界中の人々で支配的であり、これまでの変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD、BSEが人間に伝達したものと一般に言われている)の犠牲者のすべてはMM接合であった。

 この発見から、研究チームは、食人慣習は、おそらく前史時代から広まっており、この変異遺伝子は食人者をプリオン病から護るために生まれたと結論したのだという。ただ、記事は、病原性プリオンは種を超える可能性があり、もしそうならば、プリオン病をもつ動物を食べることが保護遺伝子の発達につながったかもしれないという別の科学者の見方も伝えている。