吉川マジックの舞台裏 米国BSE汚染度の計算は根拠不明な仮定の積み重ね

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.15

 先日、プリオン専門調査会の吉川座長が12日の会合で、米国の狂牛病(BSE)感染牛の数は年間で日本の5−6倍高いとする「たたき台」を提出したという報道について伝えた(プリオン調査会座長、米BSE頭数を試算、輸入再開に布石?食品安全委は再開後充足率試,05.9.13)。計算の根拠は分からなかったが、今日、食品安全委員会のwebページにこのペーパーが掲載され、吉川マジックの子供だましのような仕掛けが明らかになった (http://www.fsc.go.jp/senmon/prion/p-dai30/prion30-siryou2.pdf)。これについての専門家の論議はこれからで、まともならば散々に「たたかれる」だろうから詳しくは言わない。ただ、これがほとんど根拠のない仮定の上に導かれたものであることだけを指摘しておく。

 侵入リスクの日米比較

 生体牛・肉骨粉の輸入による侵入リスクの評価で、英国以外の欧州の汚染率を英国の100分の1としたこと、それはまだしも、大量に輸入したカナダの汚染率は「極めて低い」(無視)としたこと。これにより、侵入リスクは日本の1.5−10倍以下とされた。カナダからの90年代の輸入牛が年間100万頭にも達することを考えれば、そのリスクを無視することは決定的な間違いにつながる恐れがある。

 暴露・増幅リスクの日米比較

 特定危険部位(SRM)が除去されていないので、1頭の感染牛のすべての感染価(8000−10000ID50、50%の確率で8000−10000頭を感染させることができる)がレンダリングに入るが、「通常のレンダリングでは感染価は約100分の1に減少すると考えられる」として、1頭の肉骨粉の感染価を100ID50としたこと。

 EUの食品安全機関は、米国のレンダリング工程は、「大気圧の下で(つまり加圧することなく)加工しているから、BSE感染性が工程に入れば、これを大きく減らすとは考えられない」としている(米国の地理的BSEリスクの評価に関する作業グループ報告(欧州食品安全庁),04.9.4)。とすれば、1頭の肉骨粉の感染価は、最大限8000−10000ID50となる。

 さらに交差汚染が起きる確率を何の根拠もなく10%と仮定、交差汚染によって牛に戻る感染価は感染牛1頭当たり10ID50とした。しかし、レンダリングで感染価が減っていないとすれば、これは100ID50となる。

 ペーパーは、年間100頭の陽性牛が処理された場合には、100回レンダリングに回り、交差汚染が10回起きることになるから、総感染量は100ID50(10ID50X10回)になる、従って、この場合には感染規模は増えも減りもしない「定常状態」になるという。だが、レンダリングで感染価が減っていないとすれば、交差汚染が起きる確率が10%と仮定したとしても、 見逃された1頭の感染牛が処理されただけでも、新たに100頭の感染牛を50%の確率で生み出すことになる。リスクは猛烈な速さで増幅する。 増幅を抑えるためには、交差汚染の確率を1%未満に抑えねばならない。これはSRMの完全除去なしでは不可能だろう。

 サーベイランスによる検証

 米国のまったく頼りにならない検査結果に基づいて、年間感染頭数はわが国では1−2頭、米国では32頭とする。しかし、これでは米国の汚染度は日本の15−32倍になってしまい、上記の議論と矛盾をきたす。そこで、「限られたデータであり、陽性頭数が少ないために」米国の頭数が大きく評価される危険性があるとして米国の感染頭数を割引き、日本の5−6倍と考えられるとする。15−32倍を5−6倍にする根拠はまったく示されていない。 

 これで牛肉・内臓のリスクは日米とも同等に微小などとされてはたまらない。この結論は、どんな留保をつけようと、必ず一人歩きする。それは、日本に関するリスク評価で実証済みだ。