フランス市民会議、下水汚泥処理で勧告へ―農地散布を優先

農業情報研究所(WAPIC)

03.11.25

 下水汚泥の発生量は増加するばかりだが最終処分場が受け入れられる量には限りがある。さりとて水系への投棄は論外だ。わが国でもその再利用の拡大が喫緊の課題となっているが、フランスでも来年6月に迫った政府による水法改正案の提出を控え、この問題に関する論議が熱を帯びてきた。11月22-23日には15人の代表による「市民会議」が組織され、浄水場から出る家庭排水汚泥(わが国では下水汚泥は産業廃棄物に分類されている)の処理のために採用すべき措置が検討された。市民会議の勧告文書は12月16日にエコロジー・持続可能開発省に提出され、政府の行動計画策定に寄与することになる。この会議は、1998年の遺伝子組み換え体(GMO)に関する会議、2002年2月の気候変動に関する会議に続く三回目の市民会議である。

 フランス人は一人当たり平均、毎日200リットルの水を消費する。下水道に放出され、浄水場で処理されたこれらの水から生み出される汚泥は、乾物量にして90万トン(2001年)になる。年々増加するこの汚泥は多数の自治体の悩みの種となっている。現在、その60%は農地に散布されている。これは農家が昔から行ってきたことであり、農民にとっては貴重な資源である。だが、大多数の国民の汚泥に対するイメージは必ずしも良いとはいえない。それが汚泥処理を難しい問題にしている。

 会議は、知識の現状では特定の処理方法を推奨することはできず、何よりも地方の事情が考慮されねばならないが、それにもかかわらず、長期的には、可能な場合、衛生条件を整えた上での農地散布を発展させるべきだと結論している。それと並び、大都市圏では焼却に訴えることを推奨している。また、市民に対する情報とコミュニケーションが将来の公的行動の基軸とならねばならないと強調している。市民が廃棄物問題に目覚め、風評や情報の欠如によっていかなる処理方法も排除されることがないようにするためである。現在は、公衆に対する情報提供をケチることができない時代だと言う。以下は、24日に発表された勧告文書の骨子の紹介である。

 汚泥に対する国民の悪印象 

 勧告文書は、汚泥に対する悪印象は悪臭とそれは引き起こす恐れのある土壌の劣化、さらには汚染に関して繰り返されてきた批判から生じるものだが、さらに二つの要素がこの悪印象に関係しているという。ひとつはそれが廃棄物として位置付けられていることである。もうひとつは、農業界の真の動乱をもたらし、農業の一定の慣行が食品安全に及ぼす影響で世論の不安を掻き立てた狂牛病(BSE)危機である。確かに農地への散布に問題がないわけではない。それは残留重金属、病源体、ホルモンや抗生物質を含む恐れがある。さらに悪臭も発する。しかし、同時に、世論が汚泥自体の問題と無関係な衛生問題に動かされていることも事実だという。こうしたことから、一部農業者はできる限り最善の衛生条件で散布な行われることを要求しているし、一部の農産食料品企業や流通業者は肥料から汚泥を排除する基準書を採用している。

 文書は、この悪印象を情報と啓蒙の問題が倍化していると指摘する。汚泥の管理の問題は世論から完全に無視されている。国民は、一般に汚泥の存在さえも知らない。社会は、その行き先に何の気を配ることもなくこの廃棄物を生産していると手厳しい。

 農地散布の規制の問題

 会議は汚泥に関する従来の規制の問題点を指摘している。農地への散布は厳しく規制されるようになった。それは農地への散布による汚泥処理の全側面にかかわる。環境と衛生上の観点から多数の「限界値」が設定され、それが散布される汚泥と収穫される産品の無毒性を保証するとみなされてきた。フランスの規制は他のヨーロッパ諸国の規制より厳しいことにも注意すべきだという。そのうえで、これら規制の性質、特にその実施についていくつか大きな問題を指摘する。すなわち、

 ・規制は外部及び抜き打ちの監査よりも自己監査に任せていることが多く、

 ・これは監査を実行する人員の欠如に因る。規制は正確な実施の検証手段よりも急速に変化し、増えてきた、

 ・監査は常に散布の後の段階で、時には数ヵ月後に実施されるから、規制は必ずしも遵守されていない。これは農業者自身が告白している、

 などである。

 規制は常に変化しており、科学的知識の現状においてのみ有効であることにも注意することが重要だとも指摘する。衛生・環境リスクの研究計画が進行中であり、また既存の処理法に代わる処理法も開発されつつある。汚泥をめぐるコミュニケーションと情報の問題は規制の問題と切り離せないだろう。規制が増え、細かくなればなるほど、世論の誤解と疑問を生み出すリスクも増えるという。

 汚泥処理の方法

 会議は、処理方法の選択について、それぞれに利点と不都合があり、それぞれの評価に際しては地域の拘束が絶対的に基本的であることを理解する必要があるという。現在の中心的手段は、

 1)衛生化され、乾燥され、あるいはコンポスト化された汚泥の農業利用、

 2)他の廃棄物と混ぜての、あるいは単独での焼却、

 3)貯蔵と埋立

であるが、汚泥管理の地域計画に関係する当事者は常に多数であり、衛生・環境・財政的影響は常に測定困難であるから、どれを選ぶかの判断はプラグマティックにならざるを得ない。

 費用の問題は特に複雑で、農地散布が一番安上がりに見えるが、散布前の処理に関連した費用、コントロールの費用、輸送費用も考慮する必要がある。これらの費用は消費者の水料金にも大きくはねかえるから、選択は一層慎重に行う必要があり、地方的事情に適応せねばならないという。ただし、それでも環境保護に不可欠な対策は絶対に避けて通れないと強調している。こうして、会議は次の18の勧告を行なう。

 勧告

1.廃棄物問題を国民に意識させるために、汚泥管理をめぐる大規模なコミュニケーションと啓蒙のキャンペーンを組織すること。

2.予防策を発展させること。それは汚泥の有毒性を減らし、あるいは制限するための長期的な優れた手段をなす。

3.特に教育制度の内部での予防キャンペーンを強化すること。

4.地方公共団体により選択される汚泥処理技術に関する情報の地方レベルでの強化。これらの選択を最大限に透明化し、特に散布計画と利用される技術について住民に知らせること。

5.農産食料品企業と流通企業に対して、散布された土地で耕作される産品に関するその立場を明確にするように要求すること。

6.散布計画または処理施設に関する公衆の受容性を高めるために、公衆に対する情報キャンペーンを発展させること。

7.認識の現状では、いずれかの特定の処理方法を優遇することはできない。すべては地方の状況(地理、当事者、施設、財政的拘束等)にかかっている。それにもかかわらず、大都市圏では焼却を優先しつつ、可能な場合には、散布汚泥を最も実り豊かにし、できるかぎり有効にし、受け入れ可能にするために、長期的には衛生的散布(乾燥、石灰散布、またはコンポスト化を統合しての)を発展させるべきである。

8.大都市圏は特にそれが生み出す汚泥の大部分を引き受けねばならないのだから、焼却が避けて通れない。投資がより少なくて済むことから、混合焼却が有利に見える。

9.焼却場排出物の有毒性の抜き打ち監査の強化。

10.焼却残滓の最大限の利用。

11.汚泥発生の削減と、危険度を減らす処理を可能にする新たな技術の研究の助長。

12.場所を問わず、散布な可能でない危急の場合のために、安全な焼却と埋立を開発する必要がある。

13.浄水場のレベルでは、散布ができない状況への対処のために、貯蔵能力を増やす必要がある。

14.浄水場から出る汚泥に関する一層の外部監査と散布前の監査が必要である。

15.散布前と散布時の監査のための人的手段の増強と訓練。

16.悪臭を回避するために、散布の際の土壌中への埋め込みの助長。

17.汚泥「引渡し」と散布の間の期間の制限。

18.散布と耕作の間の期間の尊重。

 農業情報研究所(WAPIC)

グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境