農業情報研究所

HOME グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境 ニュースと論調

イギリス:知的財産権強化は貧困国を害するー政府委員会報告

農業情報研究所(WAPIC)

02.9.17

 12日、知的財産権が貧困層や途上国にどのように働くかを研究するためにイギリス政府により設置された独立機関である「知的財産権委員会(CIPR)が最終レポートを発表した(Integrating Intellectual Property Rights and Development Policy)。委員会は米国・イギリス・アルゼンチン・インドの専門家で構成され、米国スタンフォード大学のジョン・バートン教授を委員長を努めた。レポートは、知的財産権の拡充は、医薬品や種子の価格を引き上げることになり、貧困削減を一層困難にするだろうと言い、先進国、WTO、世界知的所有権機関(WIPO)に対し、知的財産権システムの開発に際しては、貧困国の状況と必要性を考慮するように要請している。貧困国は、少なくとも2016年まで、世界的特許ルールを免除されるべきであると言う。

 委員会によれば、貧困国は保健・農業・教育・情報テクノロジーの分野で損害を受ける恐れがある。特許権は、多くの場合、豊かな者・貧しい者両方のためになる医薬品開発のインセンティブを民間部門に与えるが、先進国でも大きな市場がなければ、特に途上国に蔓延している病気の研究を刺激するのは難しい。知的財産権の世界的強化は、途上国では差別的低価格を許すような措置がないかぎり、貧困国における医薬品のコストを高める恐れがある。途上国は、基本的薬品については、他国の特許を認めず自国企業に製造許可を与える「強制ライセンス」を考慮すべきとも言う。植物や動物の特許保護の途上国への拡張は、農民や研究者による種子利用を制限することになろうと言い、とりわけ米国が認めようとしない「先行技術」(prior art知的財産権を請求できない既に公有の知識・技術)の定義の拡張も勧告している。

 この報告が、WTOにおけるTRIPs(知的財産権の貿易関連側面協定)交渉におけるイギリス政府の態度にどのように影響するかは、未だ明らかでない。多くの開発NGOは、かねて、医薬品や種子の巨大企業独占を可能にする特許システムを批判、TRIPsの抜本的改革と貧しい農民の権利を保護し、途上国の発展を支持するシステムの採択を要求してきた。Financial Timesによれば(Rules on drug patents 'go too far',Financial Times,02.9.13,p.6)、Oxfamや「国境なき医師団」などはレポートを歓迎しているが、英国医薬品産業協会は、レポートが強制ライセンスを解決策と見ていることに懸念を表明しているという。

HOME WTO・多角的関係