タイ 対日FTA調印を急ぐな 自然界微生物特許に道を開くと生物・薬学専門家

農業情報研究所(WAPIC)

07.2.19 

  タイの生物多様性や医学にかかわる専門家が、タイと日本の自由貿易協定(経済連携協定の一環としてのFTA)が現在の形で採択されれば、WTOの知的財産権ルールを超え、”自然に生成する微生物”(naturally-born micro-organisms )に特許を与える道を開く恐れがあると批判している。

 Experts urge not to rush for quick FTA agreement,BP,2.17

 彼らによると、協定130条の(3)は、自然発生微生物(naturally occurring micro-organism)に関する特許申請は、当該生物が新規性、進歩性、産業上の利用可能性の特許要件すべてを満たせば拒絶できないという意味合いで書かれている。すなわち、特許申請は、その対象が自然発生微生物に関連しているという理由だけで拒絶されてはならないと書かれているのだという。

 生物資源と共同体の権利の保全運動を推進する非政府組織・バイオタイのWitoon Lianchamroonディレクターによると、この条項は、”[人為的に]改変された微生物”(modified micro-organisms)にのみ特許を制限する知的財産権に関するWTOのルールを超える可能性がある*自然発生微生物の定義や新規性及び進歩性の特許要件は、タイの法律の下ではなお不明確で、当該生物がすべての特許基準を満たすと日本が主張すると、タイはこれに特許を与えることをストップできないだろう。

 *WTOの知的財産権の貿易関連側面(TRIPs)協定は、「微生物以外の植物と動物」は特許保護の対象から除外できるとしているだけだが、ここに言う微生物も植物も動物も、自然界にもともと存在する生物ではなく、育成企業や個人が作り出した生物(品種等)を指すと考えるのが自然であろう。

 ところが、氏によると、「この問題は、微生物は有機肥料を生産する小規模農民の間で広く使われてきたから、国にとって決定的に重要な問題だ」。微生物から作られる肥料は、化学肥料の使用を減らしたいタイ農民に人気がある。彼は、「政府は、足るを知る経済を目指していると宣言したが[⇒タイ 米国のアジア太平洋自由貿易圏構想に反対 「足るを知る経済」を追求,06.11.11]、足るを知る経済の基本的要素である自然資源がこのような貿易協定で台無しにされようとしている」と批判する。

 15日に共同記者会見を開いたバイオタイと国家人権委員会生物資源作業グループは、政府がFTA協定からこの条項を取り除き、日本政府との調印の決定を延期するように要求した。

 他方、チュラロンコーン大学社会薬学研究ユニットのJiraporn Limpananont氏も、この条項はWTOのルールを超えていると信じ、微生物特許を禁じるタイの法律とも矛盾すると語った。「自然界に発見される微生物は、多くが薬品の開発に使われてきたし、我々がまだ知らないものも多く残っている。従って、その所有権の主張を誰に許すのも不合理だ」と言う。

 そして、Puangrat Asavapisit,知的財産局長も、グループの懸念は聴くに値する、タイの知的財産権法の下では自然発生微生物特許は禁止されており、タイ・日FTAの執行の準備において微生物特許を扱うための新たな規則が導入されることになると言う。

 軍部指名の現タイ政府は、当初はタクシン政府の下で合意された日本との協定の調印の是非を慎重に見極める姿勢を示してきたが、フィリピンとマレーシアが日本との協定に調印したことで、日本への輸出競争で遅れを取るという産業界の懸念の声が高まった。これに応え、昨年末以来、調印を急ぎ始めた。これに反対した閣僚は、日本からの有害廃棄物流入の増加(タイでも有害廃棄物の捨て場になると、日本との経済連携協定批判の動き,06.12.3)を恐れる保健相だけだったという。

 Cabinet sends draft to NLA,BP,1.24

 政府は、早期調印を容認するように国家立法議会(NLA)への圧力を強めてきた。NLAは15日にこの問題を初めて審議したが、議員の3分の2が協定の全体的利益、特に農業部門の利益はあり得る悪影響を凌ぐと、この協定を支持した。

 ただ、一部議員は、とりわけ有害廃棄物にかかわる疑惑を重視、議会は国民に明確な答え与える義務があると、協定にゴーサインを出す前に国民に明確で適切な情報を提供するための深い研究をする委員会を設置するように求めた。

 NLAの国民参加委員会副議長も、大部分の貿易協定の中身は秘密が保たれたきたために常に国民の疑惑と懸念を生み出してきた、これは是正されるべきだと語ったという。

 NLA gives its backing to Thai-Japan FTA,BP,2.16