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EU:環境相理事会、GMOトレーサビリティ新規則で政治的合意

農業情報研究所(WAPIC)

2002.12.11

 EUの環境相理事会は、9日、遺伝子組み換え体(GMO)及びそれから生産される食品・家畜飼料のトレーザビリティと表示に関する欧州議会・理事会規則案についての政治的合意に達した。ルクセンブルグ、オランダ、イギリスはこの合意に加わらなかった。次の会期で公式に「共通の立場」が採択されれば、欧州議会の第二読会に送られる。

 この規則は、今年10月に発効したGMOの意図的環境放出に関する指令2001/18/ECが規定したトレーサビリティに関する一般的ルールのいくつかの側面を修正するものである。それは、GMOからなる製品またはGMOを含む製品、GMOから派生する食品・家畜飼料のトレーサビリティのフレームワークの確立を目指し、的確な表示、環境・人間の健康への影響の監視を容易にしようとするものである。この規則は、必要な場合には市場からの製品回収を含む適切なリスク管理手段の実施を容易にすることも狙っている。

 この規則によるトレーサビリティ・システムは次のような要素から構成される。

 ・「唯一無二の識別名」(数字コード、または文字と数字を組み合わせたコード)を通してGMOを識別するためのシステムの欧州委員会による確立。

 ・製品の利用を可能にされた事業者とこれを可能にした事業者を確認するための諸システムと諸手続。

 ・特定製品の識別に関する情報の事業者による伝達。

 ・事業者による5年間の情報保存。

 ・監視及びコントロールへの協調アプローチ。

 この規則には、11月28日の農相理事会で合意された表示に関する規則が定めるGMO含有率基準が適用される。すなわち、承認されていないがリスクがないと評価されたGMOが偶然に含まれる食品中のGMO最大許容量を0.5%とし、GMO含有が0.9%未満のものは表示規則の適用を免除されるという基準である。

 この規則は、GMOのトレーサビリティと表示に関し、生産チェーン全体と、様々な事業者間で生じる商業取引全体をカバーする。トレーサビリティに関して、例えば、GM種子開発企業は当該種子のすべての購入者に、それがGM製品であることを知らせ、また購入した事業者の記録を保存しなければならない。農業者も、収穫物すべての購入者にそれがGM作物であることを知らせ、これを利用するすべての事業者の名簿を保存しなければならない。

 このような規則案への合意を形成するに際しての最大の難関は、主として家畜飼料用のバラ積みの船荷の表示の問題であった。イギリス、オランダ、フィンランド、スウェーデンに支持された欧州委員会は、船荷があれやこれやのGMOを「含み得る」という申告で済ませようとした。しかし、GMOモラトリアム解除のためには厳格な規制が実行されねばならないとしてきたフランスを始め、スペイン、ドイツなどは、実際に含まれるGMOの正確なリストを要求した。欧州委員会は、EUが輸入品に課す要求は過大であるとする米国のWTO提訴を恐れ(新たな米国・EU貿易戦争の気配)、譲歩を拒んだが、現在のEU議長国であるデンマークが妥協案を提示、これによって政治的合意に漕ぎつけた。妥協案はフランス等の主張に近いものである。

 加工用としての、及び直接食品または飼料に使われる製品としての、またはそのような製品中のGMO混合物のトレーサビリティに関して、事業者は、混合物を構成するために使われたすべてのGMOについて「唯一無二の識別名」のリストを添えた使用の申告をすることになる。ただし、規則の発効の日から2年以内に、欧州委員会は、欧州議会及び理事会に対して、その実施に関するレポートを提出し、適切な場合には提案を行なうという特別見直し条項が加えられた。また、妥協案には、規則の諸条項は、非食料・飼料用の加工を目的とする製品中の承認済みGMOの0.9%未満の混入は、それが偶然であるか、技術的に不可避の場合には適用されないというトレーサビリティと表示に関する例外条項も含まれている。

 イギリスとオランダは、こうした規則はバラ積み貨物船の借り主に多大なコストを強いると反対投票にまわったが、グリーン・ピースはトレーサビリティは救われたと満足を表明している。

 この合意により、4年間にわたるEUのGMO新規承認モラトリアム解除の障害は、ほぼ取り除かれたことになる。しかし、山岳地域等、条件不利地域が多く、国の農業の活路を有機農業に見出しているオーストリアはGMO導入に絶対的反対の立場を貫いている。その他の国でも、消費者・環境保護団体の抵抗が続いている。首相が熱烈なGMテクノロジー信奉者であり、2004年のGM作物商用栽培をめざすイギリスでさえ、その実現への道には多くの茨が立ちはだかっている。モラトリアム解除が大々的なGM作物栽培に結びつくかどうかといえば、見通しはなお不透明である。

 (追記:12.12)「ヨーロッパ市場のGMOへの再開放」に多分つながるであろう環境相理事会の決定を受け、フランス農民同盟Confederationpaysanne)がプレス・コミュニケを発表した(OGM : des décisions au mépris de l'opinion européennes)。それは、法的欠陥を残したままでこのような決定を急ぐのは、多国籍企業のロビーを満足させるためか、EUをWTOに提訴するという米国の圧力と脅しに応えるためかと問う。法的欠陥とは、遺伝子汚染が生じた場合の責任が明確にされていないことである。同盟は、EUの決定権限をもつ者に対し、GMOの生産者と配布者の責任を明確にする特別法を採択する勇気と政治的意志をもつように要求している。そして、この決定に対して近々意見を与えねばならない欧州議会に対しては、唯一の市民代表機関として、大多数がGMOを拒否するヨーロッパ市民の選択を尊重し、GMOのいかなる新たな承認も受け入れず、予想されるモラトリアム解除に反対するように要求している(農民同盟)。

 EU理事会ニュース:2473rd Council meeting ENVIRONMENT, Bxl 9 December 200212.10
 欧州委員会プレス・リリース:
Margot Wallström welcomes agreement on traceability and labelling of genetically modified organisms (GMOs)12.10

 関連ニュース
 
EU Mins Set To Agree On GMO Labeling, Traceability Rules,Dow Jones,12.9
 
Les Quinze fixent les règles de traçabilité des OGM,Le MondeInteractif,12.10

 関連情報(農業情報研究所)
 EU:GMO研究所欧州ネットワーク(ENGL)が始動,02.12.6
 EU農相理事会、GMO新表示規則に合意,02.11.29