農業情報研究所

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次世代GM技術に疑問、葉緑体遺伝子の花粉への移動に関する新研究

農業情報研究所(WAPIC)

03.2.8

 葉緑体遺伝子はめしべだけに遺伝する特徴があり(母性遺伝)、葉緑体に他の生物の遺伝子を導入しても、おしべ(花粉)にはこの遺伝子は入り込まないから、近縁種と交雑しても遺伝子が移行することはないとして、バイテク企業は除草剤耐性、害虫抵抗性、ワクチン製造等々のための遺伝子を葉緑体に組み込む試みを行なっている。それは「次世代」遺伝子組み換え技術の安全性を確保するものと期待されてきた。

 ところが、2月6日付のNature-newsが、新たな研究により次世代遺伝子組み換え(GM)作物に関する懸念が高まる可能性があると報じた(Question raised over next-generation GM technology)。この研究(注)は、葉緑体DNAのタバコの細胞核への移動の率を直接計測したもので、遺伝子が植物細胞の葉緑体から花粉に、従って、また環境中に広く移動できることを示唆しているという。研究結果は、(細胞レベル以下の)亜細胞画分間の遺伝子移動の確率は1万6000分の1としており、イギリス・マンチェスター大学で葉緑体について研究するAnil Dayは「我々はこれが起こり得ることは知っていたが、頻度がこれほど高いのは驚きだ」と言っているという。

 研究のリーダーであるオーストラリア・アデレート大学のJeremy Timmisは、この研究結果は、葉緑体遺伝子が逃げ出したり、他の場所で機能することがいかに起こり難いか示していると不安の沈静に努め、Nature-newsも、それは、長期の進化の過程で植物の葉緑体からその核DNAに移動した遺伝子が何故極めて少ないかを説明するヒントを与えると言う。それにもかかわらず、前記のAnil Dayは、「その頻度は低い。しかし、世界の作物栽培面積を考えればそうは言えない」と警告しているという。

 (注)Huang, C. Y., Ayliffe, M. A. & Timmis, J. N. Direct measurement of the transfer rate of chloroplast DNA into the nucleus. Nature, published online, doi:10.1038/nature01435 (2003).