農業情報研究所

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インド:GMポテト給食で栄養不足、実験承認にも不備

農業情報研究所(WAPIC)

03.6.16

 先日、インドが通常よりも蛋白質を多量に含むポテトを6ヵ月以内に承認するだろうとBBCが報じたことを伝えたが(インド:蛋白質増強GMポテト商用栽培へ,03.6.12)、これはシャルマを長とするバイオテクノロジー部(DBT)の独断的発表だったらしい。承認に当たる遺伝子操作承認委員会(GEAC)は、DBTまたはGMポテト開発者から大規模フィールド実験のいかなる許可申請も受け取っていないという。このことは、ヴァンダナ・シヴァ率いるニューデリーの科学・技術・エコロジー研究在団(RFSTE)が、栄養不良に脅かされている児童の栄養状態を大きく改善するためにこのポテトを学校給食に使うというDBT部長・シャルマの計画を厳しく批判したプレス・リリース(GM Potato Hoax : Future of GM Foods Rests on Lies ,11th June 2003)のなかで明らかにしている。

 GEACは昨年、インドで初めてのGM作物となるBtワタの商用栽培を承認したが、DBTはその前年、GEACの承認を得ることなくBtワタの大規模開放フィールド実験を認めている。このとき周辺作物・植物の遺伝子汚染が問題となったが、開発研究を率いるアシス・ダッタがリードする遺伝子操作審査委員会を通じて、DBTがまた同じ違反行為を繰り返す恐れがある。

 ところで、RFSTEの前記のリリースは、GMポテトにその遺伝子を組み込まれたアマランスに比べて、GMポテトの鉄・カルシウムの含有量が著しく少ないことを示している。また、蛋白質含有量は、インド各地で栽培されている様々な豆類のほうが、GMポテトと同量の蛋白質を含むと想定されるアマランスよりも多いことも示している。このことから、リリースは、GMポテトを学校給食で使えば、児童の鉄・カルシウム不足が広がり、栄養状態はかえって悪化するだろうと警告している。アマランスの遺伝子を組み込んだポテトよりも、アマランスのような作物の栽培と利用を増やすほがずっと利口な選択だし、ともかくインドの豊かな生物多様性と料理からすれば、アマランスだけが蛋白源でもないと主張する。

 リリースは、このような栄養面だけでなく、GMポテトがインド農民に与える深刻な影響にも注意を喚起している。インドでは、今年、数人のポテト栽培者が過剰生産と買い手がないために自殺している。農民は1キンタルのポテトの生産に255ルピーを支出するが、40ルピーでしか売れない。ヘクタール当たりの生産費は5万5千ルピーから6万5千ルピーで、そのうち4万ルピーが種子代であった。GMポテトの導入はインド農民にとっては大災厄であり、「生産コストの増加と脆弱な市場」のために一層の自殺につながる恐れがあると言う。

 なお、”The Hindu”紙は、このリリースについて触れた記事(1)とは別のもう一つの記事(2)で、GEACは13日、Rasi Seeds社のBtワタ品種・RCH-2の大規模フィールド実験をタミル・ナドゥ南部・中部の10万エーカーで承認したと報じている。他方、モンサント系のMahyco社は、既にこのGM品種の栽培実験をグジャラートで実施している。しかし、この実験用種子が不法に販売され、グジャラートの家内工業に転用されているという情報がある。GEACはこれに対して深刻な懸念を表明、既に違法行為の証拠をつかんでいるという。

 GEACは、重要決定の透明性を増すために、承認の最終決定の前に最終ユーザーも含む関係者に意見の自由な表明を許す小委員会の立ち上げを決定し、また実験と検査のメカニズムを強化するための手段を提案する別の小委員会も作ったという。この記事は、GEACがGMポテト栽培実験の許可申請を受け取っていないと言っていることも確認した。

 (1)'Claims on GM potato false',The Hindu,6.14
 (2Rasi Seeds gets 'nod' to grow GM cotton,The Hindu,6.14