EUのGMO表示・トレーサビリティー新規則が発効、何がかわるのか

農業情報研究所

04.4.26

 遺伝子組み換え体(GMO)を含み、あるいはGMOから生産される製品の表示・トレーサビリティーに関するEUの新たな規則が4月18日に発効した。事業者は市場の各段階でこれらの製品に関する情報を伝達、5年間にわたり保存しなければならなくなる。また、GMOを0.9%以上含む食品・飼料は、偶然または技術的に不可避であることを証明しないかぎり、「GMOを含む」とか「GMOから生産された」と表示しなければならなくなる。

 だが、この発効により実際に何が変わるのだろうか。欧州委員会は、これにより98年以来のGMO新規承認の事実上のモラトリアムが解けると期待してきた。しかし、新規則が発効したからといって、EU構成国の態度ががらりと変わる様子はない。懸案のシンジェンタ社のBtコーンの承認は4月26日の農相理事会で論議されるが、恐らく承認の結論は得られないだろう。欧州委員会が職権で承認に踏み切ることになるだろう。モラトリアムは解けるかもしれないが、新規承認の過程は相変わらず難航が続くに違いない。

 消費者や小売業界にとっても、何の変化も感じられないだろう。ネスレ、カルフール等、主要小売業者や食品企業は、ほとんどすべてが既にGM製品の扱いを排除、ヨーロッパでは非GM製品供給の体制を整えてきた。表示が義務化されても、GM食品を製造・販売しないのだから表示の必要がない。店頭に並ぶ商品には何の変化も現われない。レストラン、ホテルなどでも変化は現われないだろう。フランスホテル業界は、一皿一皿表示などやってられるか、そもそもGM飼料を使って育てられた家畜の肉や卵には表示義務がないのだから、新規則そのものが消費者をペテンにかけるものだなどと、新規則に従うつもりはないことを公言している。いちいち検査されるわけではないし、違反があっても特段の罰則はない。

 だが、新規則発効で重大なを影響を受けるのは、おそらく米国食品産業・農業だろう。米国大豆の80%はGM大豆だ。今まではGM成分の痕跡が残らない大豆加工食品(大豆油など)や飼料成分に「表示」の必要はなかったが、今後は表示を強制される。表示をすれは、ヨーロッパは受け入れないだろう。表示の「汚名」を避けるためには、代替品を開発するか、一部企業はヨーロッパに移転することになるだろう。モラトリアム解除で輸出は可能になるとしても、GM食品・飼料を輸出しようとすれば、農業生産から輸出にいたるすべての段階の関係業者は記録を作り、5年間保存しなければならない。全米コーン栽培者協会は、このペーパーワークは「気が遠くなる」、このシステムは「極度に高くつく」と言う(Food industry dreads European labeling rules-They ease bitech exports but impose stirict record keeping,St. Louis Post-Dispaych,4.18)。

 米国の主要農業・食品団体は、EUの表示・トレーサビリティー新ルールは重大な貿易障壁になると言い、WTO提訴を政府に強く迫っている。EUのルールは世界を主導するおそれがあるから、米国業界は世界中で同様の問題に直面することになるだろう。米国業界によれば、実際、既に米国の上位輸出国25のうち、20が表示ルールを採択している。EUは5月から25ヵ国に増えるから(EU拡大)、EUと同様なルールを採用する国は一気に10ヵ国増える。世界最大の食品団体・アメリカ食料品雑貨製造者協会の国際貿易部長は、「これらのルールは世界経済全体にとって重大な意味をもつ」と言う。GM作物導入による農業開発加速を狙う途上国もとばっちりを受けるだろう。

 GMをめぐる欧州の状況が大きく変わることはありそうもない、だが、GMがもたらす世界の分裂と緊張はますます高まるだろう、これが新規則発効の差し当たりの帰結だろう。

農業情報研究所

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