スペインに広がる”落穂拾い運動” 貧しい人に食料を、社会的に排除された人に仕事を提供

農業情報研究所農業・農村・食料欧州ニュース:16年7月16日

 緊縮財政に対応して、スペインの”落穂拾い運動”が急速に広がっている。”落穂拾い”とは、収獲しても商売にならない、あるいは経済的利益が得られないなどの理由で畑に放置されている作物を拾い集める行為を言う。落穂拾い運動とは、こうして拾い集められた果物や野菜を、”フード・バンク”を通じて日々の食べ物にも事欠く貧しい人々に提供する活動である。それは今や、商品としての”不完全”を売りものとするジャムやスープやソースなどの独自の系列部門を立ち上げるまでになっているという。

 焼けつくようなカタロニアの陽光の下で、緑の胸当てをかけ、黒い手袋をはめ、帽子をかぶった失業者や環境活動家たちがしゃがみ、キャベツを抜き取っている。2人の子供を連れたモロッコからの移民・39歳のAbdelouahidは、4年前に建設工事の仕事を失い、落穂拾いを始めた。彼は言う。

 「正規雇用の求職願いを出し、断りの手紙を待って終日家で過ごすのも、食べ物を探してレストランの周りをうろついて過ごすのも私の趣味じゃない。何かもっとポジティブなことをしたい。多くの人がこの食料を必要としている。それは棄てるより集める方がいい」(にきまっている)

 ヨーロッパは毎年8800万トン―一人当たり173㎏―の食料を棄ている。新たな”落穂拾い運動”の提唱者は、この収集活動は土地利用への圧力を減らし、食事を改善し、飢えた人を養い、社会的に排除された人に仕事を提供すると言っている。

 Food waste: harvesting Spain's unwanted crops to feed the hungry,The Guardian,16.7.15

 効率的で儲かる”攻めの農業”をという空論を唱えるばかりの日本農政の司令官・安倍首相、一度は”落穂拾い”を体験してみたらどうだろう。儲かる農業がいかに無駄の多い農業であるかを知るだろう。大変な金と労力をかけた挙句、大量の生産物を棄てている。「何かもっとポジティブ」な政策を思いつくかもしれない。少なくとも、日本農業の成長産業化など、無知でなければ築けない空中楼閣であると知るだろう。

 ”Information is not knowledge. The only source of knowledge is experience”―アインシュタイン

 関連情報

 米国の食品ロス 生産される食品の半分を農場と小売市場で廃棄 きずものを排する完璧カルトのため(世界食料日誌),16.7.14