農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2014年12月12日

米国 穀物等価格暴落で収入・価格補償補助金がかつての直接支払いの倍にも 米価暴落を放置すれば日本も同じこと

 食料援助プログラム(フードスタンプ)をめぐる二大政党間の争いで難航、成立までに4年近くの歳月を要した2014年米国農業法が実施に入る。この農業法の最大の特徴は、実際に作付されていないにもかかわらず・また価格や収量の低下がないにもかかわらず支払われる商品作物に対する直接支払を廃止するとともに、天候や市場の変動からくる農業者のリスクの管理を強化することにあった。そうすることで農業支出を大幅に削減、時に政府機能の停止にまで追い込む連邦財政危機の回避に役立てようとしたのである。

 ところが改革元年、強化されたリスク管理―農業者がどちらかを選ぶことができる収入補償(ARC)と価格損失補償―のための政府補助金が、トウモロコシなどの大増産に伴う価格大幅下落のために改革前の年50億ドルほどの直接支払いの倍にも膨らむ見通しになったという。大増産でも昨年までの収入を維持できないほどに価格が下がったためだ。

 食料政策研究所長によると、ARCとPLCのための政府支払いは80億ドルに達するだろう。米国農務省(USDA)のチーフエコノミストは、いまは大部分の農業者が選ぶARCの今年の支払いは高くなるだろうが、価格下落が続けば過去5年の平均単収×全国平均販売価格で決まる基準収入自体が減っていくから支払い額は減るはずだと言う。しかし、それではARCは収入減少を一定水準で食い止めるセイフティ・ネットの役割を果たせない。基本的には生産費急騰期(2010年ころ)の生産費を基準とする目標価格と販売年度1年の平均市場価格の差を補填するPLCの支払いは膨らみ続けるだろう。

 U.S. farmers set to get huge government payouts despite bumper harvest,Reuters,14.11.20

 一体何のための改革だったのだろう。

 ところで日本の自民党、今日の日本農業新聞の1面を「自民党は所得倍増戦略を着実に進めます!」の選挙向け広告で埋めた。所得倍増の掛け声の空疎さについては、このHPや雑誌などでもう何回も言ってきたことだから繰り返さない。一言言っておけば、米の概算金暴落で新潟県産米 産出額120億円減少(新潟日報 14.12.18)の試算がある。産出額が減っては所得は倍増どころか減ってしまう。自民党の先の広告は「平成26年産米の価格下落に対して万全の対応を行う」というが、政府は価格下落自体を止める市場介入(政府買上げ)は断固拒んでいる。

 広告は「収入が減少したときのセーフティ・ネット(保険的制度)を充実」、「ナラシ(収入変動)対策」は対象を広げる改良済み(ただし、過去5年の収入が基準だから、価格下落が続けばセイフティ・ネットの役割を果たせないという欠点はそのまま)、「さらに、すべての農作物につい、収量減少だけではなく価格低下を含めた収入減少に対応できる収入保険制度の導入を目指しています」と言うだけだ。収入保険制度の設計さえ手についておらず、それができても、米価暴落が続くかぎり、アメリカの二の舞になるだけだろう。

 その一方で、民主党の主張する戸別所得補償については、米消費が減少する中で、すべての販売農家を対象とするよう政策は、国民(米以外の農業生産者、他産業、納税者)の理解が得られません」と決めつけ(米消費拡を無駄な努力と決めつけ、財界や急進的規制改革論者や一部マスコミの主張を繰り返しているだけではないか)、「すべての販売農家へのバラマキ政策であったため、農地の集積、集約化が進みませんでした」とけちをつけ、あげく所得補償の財源は土地改良予算を大幅に削って振り替えただけと財源問題にまで触れる。

 「すべての販売農家へのバラマキ」で小規模農家が温存されて、「農地の集積、集約化が進みませんでした」というのは言いがかりに近い。〇・五f未満米農家、〇・五〜一f米農家の年総所得はそれぞれ四二二万円、四二三万円ほどだが、そのうち米の所得補償はたったの一・五万円、四・二万円である。それで小規模農家が「あったためられた(温存された)とは大げさすぎる。批判のための批判にすぎない。無駄な公共事業の予算を削って直接所得補償に回して何が悪い。米価暴落を放置すれば、それを収入保険で埋め合わせようとすれば、直接補償予算を削っても追いつかないアメリカの二の舞になるだけだ。

 米消費が減り続けるかぎり、問題がキレイに片付くことはない。農業者も次善の選択をするしかない。ただ、今の米価下落は、政府・自民党が最優先する「担い手」経営をこそ苦しめていることだけは認識しておかねばならない。