米国農業団体 NAFTA離脱で農業は存亡の危機 大統領に日米FTAを迫る 付き合えば日本農業も破滅

 

農業情報研究所グローバリゼーション二国間 関係・地域協力2017年2月9

 全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)と全米豚肉生産者協議会(NPPC)が7日、10日に日本の安倍首相との首脳会談を控えたトランプ米大統領に対し、「日本をはじめとするアジア・たとの自由貿易協定(FTA)交渉」を開始するよう要請する書簡を送った。

 National Cattlemens Beef Association and the National Pork Producers Councilhttp://www.beefusa.org/CMDocs/BeefUSA/JapanFTALetter02-07-17.pdf

 NCBAのグレイグ・ウデン会長は「日本との包括的協定は米国豚・牛肉産業とその他の多くの部門にとって最も偉大な貿易協定になるだろう」、NPPCのジョン・ウェーバー会長は「日本とその他のアジアの市場への強力なアクセスの確保は米国牛肉・豚肉産業の優先事項である」と言う。

 書簡は、米国の牛肉・豚肉輸出に関しては、日本は最も価値ある国際市場であり、2016財政年度、日本の消費者は14億ドル(1500億円)の米国牛肉と15億ドル(1500億円超)の米国豚肉を購入した。アジア諸国の米国牛肉・豚肉需要も、日本の市場アクセスが制限されているにもかかわらず、非常の強い。

 TPP離脱で両産業は余りに多くのものを失ったと訴えているようだ。

 これに対して、トランプ大統領は、今までのところ答えていない。日本との二国間交渉を進める姿勢は鮮明だが、農業貿易についいては何も語らない。だからだろう。安倍首相は二国間交渉も受けて立つ、コメなどの重要農産物の扱いについて、「わが国が守るべきものはしっかりと守っていく」と呑気に構えている(安倍首相:日米FTA交渉、全くできないことはない-TPPと並行で Bloomberg 17.1.26)。 

 しかし、いざ二国間交渉となれば、トランプ政府が農業界・関連業界の声を無視するわけにはいかない。牛肉・豚肉業界だけではない。牛肉・豚肉業界に先立ち、6日には87の農業・食品産業団体が連名で、アジア太平洋地域の関税を引き下げ、その他の貿易制限的農業政策を廃止するように政府に要求する書簡を大統領宛に送っている。

 書簡は、農場から食卓までの食料・農業産業は1500万のアメリカ人に雇用をもたらし、飲食料品産業だけで米国の製造業雇用の12%を提供している国際貿易が米国農業の雇用を創出していると強調、雇用を創出し・経済成長を支え続けるアメリカ農村の能力は、既存及び将来の貿易協定を通して米国の外の市場へのアクセスを維持し・増やすことにかかっていると言う。

 U.S. Food and Agriculture Dialogue for Trade February 6, 2017 

 いま、何故自由貿易守れの大合唱となったのか。TPP離脱だけではない。トランプ政府は、アメリカ農業・食品産業に巨大な市場を作り出し、輸出農業の維持・発展において死活的に重要な役割を演じてきた既存の貿易協定・北米自由貿易協定(NAFTA)さえも葬り去ろうとしている。米国が輸出するトウモロコシ、米、脱脂粉乳の20%はメキシコ向け、この比率は豚肉では80%にも達する。これもNAFTAの貢献だ(図参照)。

 こんなメキシコ市場を失うとなれば、それはアメリカ農業の死活問題だ。そういう危機感が大合唱を生んだのだ。彼らは命をかけてNAFTAに代わる、あるいはそれと同等の市場を追求する。とすれば日本に対してはTPP以上の譲歩(すべての関税の撤廃)を要求するだろう。トランプ政府も、それを無視するわけにはいかないだろう。

 安倍政府、こんなトランプ政府とこれ以上付き合うのはやめるべきである。守るべきものは守る?命をかけた米国との戦いに勝てるはずがない。