米国綿花地帯に広がる最強のグリホサート耐性雑草 綿花産業に破局の恐れ

農業情報研究所(WAPIC)

06.12.19

  米国の綿花栽培地域に除草剤・グリホサート耐性雑草が広がっている。この雑草は干ばつ下でも1日に1インチ(25.4ミリ)も伸び、背丈は6フィート(180cm)から10ィート(3m)にもなるブタクサの一種・パルマーアマランス(Palmer amaranth)で、最新のAPの報道によると、ノースカロライナの100郡のうちの10郡、ジョージア159郡のうちの4郡でグリホサート耐性のこの雑草が確認され、テネシー、サウスカロライナ、アーカンソーでも広がっているとのではないかと疑われている。

 ノースカロライナ州立大学の雑草学者・アラン・ヨーク氏は、米国綿花産業にとって、これはワタミゾウムシ以来の大変な脅威になる恐れがあると言っている。ワタミゾウムシは、20世紀はじめに南部のワタ作を破滅させた害虫で、農家はピーナツなどの他の作物への転換を余儀なくされた。1970年代末から1980年代はじめになってようやく一部の州で根絶され、国の主要作物の一つである綿花の復活の道が開かれ、綿花は現在16の州で栽培されている。ところが、この雑草の登場と拡散で、同じような破滅的状況 に追い込まれる可能性があるというのである。

 Herbicide-resistant weed worries farmers,AP via Yahoo! News,06.12.18

 グリホサートはモンサント社が開発し、とりわけ除草剤耐性のラウンドアップ遺伝子組み換え(GM)大豆・ワタの種子とセットで販売してきた除草剤だ。この除草剤を作物に散布しても作物には害はなく、雑草だけを退治できる。それは、除草剤の使用量を大きく減らし、除草のための耕起を不要にすることで土壌の侵食を防ぎ、土壌水分の維持に役立つなど、経済・環境・農学上の多大なメリットがあるとされ、除草剤耐性GM作物の普及とともに急速に使用量を伸ばしてきた。また、毒性や残留性が比較的少なく、多種の雑草に効くことから、GM作物のみならず、多くの作物の栽培がこの除草剤だけに頼るようになっている。

 このような多用は雑草の除草剤耐性を発生させ、除草剤が効かない雑草を生み出すと懸念されてきたし、事実、世界中、とりわけGM作物栽培国で除草剤耐性雑草の登場と拡散が報告されてきた(GM過剰依存による雑草の除草剤耐性発達に警告ー栽培慣行変更を,03.9.20;ブラジルの大豆畑で除草剤・グリホサート耐性雑草確認,06.10.12;GM大豆はラテンアメリカの”新植民者”ーGM作物導入の影響の包括的新研究,06.3.17)。

 米国では、2001年以来、綿花のほぼ60%が、除草を専らグリホサートに頼る除草剤耐性GM品種になっいる(USDA/ERS:http://www.ers.usda.gov/Data/BiotechCrops/)。除草剤耐性雑草の登場と拡散には何の不思議もない。そして、それが今や、米国ワタ作自体に破滅的影響を与えるかもしれない雑草を誕生させてしまったということだ。

 この雑草は大変なつわものらしい。ヨーク氏は、特に不快な雑草を作ろうと思えば、これがモデルになるだろう、競争力が極度に強く、極度に多産だと言う。

 実は、この雑草の登場と拡散は既にずっと前に確認されていた。昨年2月、ジョージア大学の雑草学者は、ジョージア中部のおよそ500エーカー(200ha)の綿花畑で、グリホサートの多用で極度のグリホサート耐性を発達させたパルマーアマランスを発見したと発表している。この発表は、除草剤耐性は、除草剤に曝されても生き残り・増殖するための植物の自然の能力であり、除草剤が耐性植物を”創出”するのではなく、ごく少数の耐性植物は自然に存在するが、同じ除草剤、あるいは同一の作用様式を持つ除草剤の繰り返される使用が耐性植物を選抜、それが支配的になるほどに増えるのだと言っていた。

 http://www.cropsoil.uga.edu/weedsci/RRconfirmationpressreleaseSep132005.pdf

  この雑草の除草剤耐性発達を抑えるための勧告も既に出ている。単一の除草剤を使い続けるのはやめよ、いくつかの除草剤を使いまわせ、可能ならばいくつかの除草剤をミックスして使え、耕起を含む総合防除も考えよ、畑が変わるごとに機械を洗浄して雑草とその種子が畑の間を移動するのを防げ、等々だ。

 http://www.clemson.edu/weeds/Palmer%20Management.pdf

 APの報道に戻れば、このジョージア大学の雑草学者・スタンリー・カルペッパー氏によると、ジョージアでは48の畑でこの雑草が確認され、それが占拠した一部の畑では、ワタは収穫されずに刈り倒された、雑草は摘み取り労働者や機械を傷つける恐れがある。彼は、ラウンドアップ技術は農学的価値が最も高く、家族農民の存続に不可欠なものだが、この技術への依存が過ぎるときには抵抗性が発達することになる、以前は、雑草とその種子を埋め込むために畑をたびたび耕さねばならなかったが、今や多くが不耕起栽培をしていると言う。

 モンサントもこの問題を深刻に受け止め、ラウンドアップを耐性雑草を殺すとわかっている他の除草剤と併用せよと言い、カルペッパー氏その他の雑草学者も代替除草剤の使用を勧める。

 しかし、そんなことはしなくて済むというのがこの技術の利点だったはずだ。少なくともそのように売り込まれてきた。しかし、これではラウンドアップ技術のメリットのほとんどがなくなってしまう。1750エーカーのワタ栽培農家は、南西部で不耕起を失うことになれば、その金銭的・環境的帰結は破局そのものだと言う。ヨーク氏は、もっと除草剤を使うことになればコストが上がるのは確実で、綿花ビジネスから出て行けということになると言う。

 不用意なGM綿花導入が綿花産業に出口のない難局をもたらしている。それは、「複雑・精巧な技術を用い、それがもたらす結果が制御できないほどに人工化された農業」(1999年フランス農業基本法を提案した当時のフランス・ルイ・ルパンセック農相の提案理由説明)の帰結だ。日本を含む他の国もこの教訓から学ばねばならない。