農業情報研究所農業バイテクorエネルギーニュース:2011年2月13日

米国 燃料エタノール用GMトウモロコシを承認 混入恐れる食品企業や消費団体が猛反対

  米国農務省(USDA)が2月11日、バイオエタノール原料として開発された遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの商業栽培を承認した。このトウモロコシはEnogenと呼ばれ、シンジェンタ社が開発した。これはトウモロコシのスターチを糖に分解する酵素を生産する微生物の遺伝子を含み、アルファ・アミラーゼと呼ばれる購入酵素をトウモロコシに加えてスターチを糖に変える現在のエタノール製造の第一工程を省略できる。

 シンジェンタ社は、このトウモロコシを使うことでエタノール産出が増え、同時に生産過程における水、エネルギー、化学物質の使用も減らすことができると主張する。USDAは、それはいかなる植物病害虫リスクも生み出さず、承認 のために必要な要件を満たしていると言う。これは食品として使われるものではないが、食べても安全なことは食品医薬局(FDA)が既に認めている。

 さらに、オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド、フィリピン、ロシア、台湾は既に輸入を認め、カナダは栽培も承認しているという。

 USDA Announces Decision to Deregulate Genetically Engineered Corn,USDA-APHIS,,2.11
 Amylase Corn Deregulation, Q&As,USDA-APHIS,2.11
 Environmental Assessment,USDA-APHIS,,2.11
 USDA approves Corn Amylase Trait for EnogenTM,Syngenta,2.11
 http://www2.syngenta.com/en/media/mediareleases/en_110211.html

 しかし、この決定に、通常は遺伝子組み換え反対派ではない北米製粉業者協会(North American Millers’ Association、NAMA)が噛みついた。これは、ジェネラルミルズ、コナグラミルズ、ADMミリングなど巨大企業を含む43社で作る強力な業界団体だ。11日に出されたその声明は、このトウモロコシの他のトウモロコシとの混合を恐れ、次のように言う。

 「USDAは、食品生産汚染の経済的影響に関する十分な科学的データ、あるいはUSDAがシンジェンタの管理計画遵守をどう確保すかに関する情報を公衆に提供するのを怠った。シンジェンタのアミラーゼトウモロコシはトウモロコシのスターチを急速に分解する強力な酵素を含み、エタノール生産のコストを節減するが、もし食品加工の流れに入り込めば、エタノール生産を利する同じ働きが朝食のシリアル、スナック食品、ころもを付けた揚げ物などの食品の質を損なうことになる」。

 つまり、食品加工工程でのスターチの急速な分解は、製品の品質とパフォーマンスに重大な悪影響を及ぼすというのである。

 NAMA Disappointed with USDA Decision to Deregulate 3272 Amylase Corn,North American Millers' Association (NAMA),2.11
 http://www.namamillers.org/PR_Amylase_Corn_02_11_11.html

 シンジェンタは、このトウモロコシは海底の熱水噴出口近くに生息する微生物の遺伝子を含み、エタノール工場の温度、酸度、湿度で最も活性化し、スターチ、シロップ、チップを作る工場ではそれほどの活性はないと言う。また、このトウモロコシはエタノール工場の近くで作られ、農家はすべてエタノール工場に売るはずだ(から混入の恐れは少ない)、花粉による交雑や穀物エレベーターでの偶然の混入を防ぐ手立ても取られると言う。

 しかし、スターリンクの例を引くまでもなく、大規模商業栽培が始まれば、他ののトウモロコシとの混合を完全に防ぐのはほとんど不可能だろう。シンジェンタによれば、今年は少数のエタノール工場周辺の農家が栽培するだけだが、2012年はもっと拡大する。いまや米国で生産するトウモロコシの40%がエタノール製造に使われる時代だ。いずれ、米国で生産されるトウモロコシの半分近くがこのGMトウモロコシということになるだろう。

 食品安全センターは、次のように言う。

 「シンジェンタのバイオ燃料トウモロコシは不可避的に食料用トウモロコシを汚染、わが国のトウモロコシ輸出市場での拒絶の引き金を引き、農家を傷つけるだろう。

 工業用トウモロコシは国内のエタノール工場でのみ使われると想定されているが、シンジェンタは米国が輸出する国での輸入承認を求めてきた。シンジェンタは、食料用トウモロコシの船荷が不可避的にこのトウモロコシに汚染されると知っているからだ」。

 食品安全センターは、アレルギー専門家は酵素のアレルゲンとしての評価は不適切としている、農学者は大量の酵素が土壌に残り、土壌の炭素循環に悪影響を及ぼす恐れがあると示唆しているなど、他の問題もあり得ることを指摘する。センターは、さらに、大量のトウモロコシのエタノールへの転換が食料価格をつり上げ、世界の飢餓を助長しているとき、燃料用トウモロコシをエンジニアするなど無責任だとも言う。

 センターは、USDAの決定の取り消しを求めて提訴するということだ。

 World’s First Genetically Engineered Biofuels Corn Threatens Contamination Of Food-Grade Corn,Center for Food Safety,2.11
 http://www.centerforfoodsafety.org/2011/02/11/worlds-first-genetically-engineered-biofuels-corn-threatens-contamination-of-food-grade-corn/

 関連情報
米農務省 バイオエタノール原料用GMトウモロコシの承認に一歩,08.11.26