第二話 荒井昭二
 ひとりくれんぼ





……次は僕の番ですか。
僕は荒井昭二、二年B組です。

坂上君でしたか。
七不思議特集だなんて、
まったくバカなことを始めたものです。
あなたは感じませんか?
この重苦しい空気を。
ここに集まってきている霊たちの暗い怒りを。
彼らは、面白半分に自分たちのことを話されるのを酷く嫌っています。
これ以上続けると、必ず取り返しのつかない事態が訪れますよ。
もう手遅れかもしれませんがね。
……ひょっとすると、今ならまだ間に合うかもしれません。
今すぐに中止する気はありませんか?


……そうですか。
せっかく人が親切心で言ってあげているというのに、愚かな人ですね。
では仕方ありません。
僕も話してあげましょう。
……そうですね、面白半分に霊を呼び出してしまったために、
酷い目にあってしまった人の話を。
彼は、この学校に通う一年生でした。
名前は……坂上君とでもしておきましょうか。
……そんな顔をしないで下さい。
悪趣味な君にならきっと、気に入ってもらえる話だと思いますよ。
坂上君は、オカルトの大好きな少年でした。
映画、小説、漫画。怖いものなら片っ端から漁っていました。
友達と心霊スポットに出かけた回数も数知れません。
ところが彼は、そんなにも怖いもの好きだったにも関わらず
一度も心霊現象に遭遇したことがありませんでした。
彼の友達はそれで満足していたんですよ。
心霊スポット巡りなんて所詮、その場だけ盛り上がれるイベントであればいい、
そう思っているような連中でしたからね。
……その考えはその考えで感心しませんが。
でも、坂上君は違っていた。
彼は、本当に霊に会いたくて仕方なかったのです。

深夜の合わせ鏡、こっくりさん、ローシュタインの回廊……。
メジャーなものからマイナーなものまで、
ありとあらゆる心霊ゲームを試してみましたが、結果はやっぱり駄目。
心霊現象と呼べるようなことは、なにも起こりませんでした。
「……やっぱり、霊なんていないのか?」
さすがの坂上君も、諦めかけていた日のことでした。
「一人かくれんぼだって? なんだこれ」
彼はインターネットをしている最中に、あるサイトに辿り着いたのです。
そのサイトには、「一人かくれんぼ」という名前の
心霊ゲームのやり方が書かれていました。
……詳しいやり方はこうです。

まず、手と足のあるぬいぐるみを用意します。
そのぬいぐるみの綿を抜き、代わりに米と自分の爪を入れ、縫い付ける。
縫い終わったらそのまま糸をぬいぐるみに巻き付け、くくるのです。
そうしたら、次はその人形に名前をつけます。
……自分の名前以外ならなんでもいいそうですよ。
そこまでが下準備。
夜になってからがいよいよ本番で、深夜3時に開始するのが望ましいといいます。
ぬいぐるみに向かって「最初の鬼は自分だ」と3回言った後、
ぬいぐるみを風呂桶の中に入れる。
部屋に戻って、家中の明かりを消して、テレビをつける。
目をつぶって10数えたら、用意しておいた刃物を持ち、風呂場に行く。
……そして、ぬいぐるみを刃物で刺すんです。
ぬいぐるみの名前を言い、「見つけた」と言ってね。
それが終わったら、「次はお前が鬼」と言いながらぬいぐるみをその場に置き、
すぐにその場から離れて隠れます。
……そうすると、不可思議な心霊現象が起こるんだそうですよ。
何が起こるかは人によってまちまちらしいです。
よくある傾向としては、まずテレビが消え、続いてラップ音が起こるというもの。
中にはその程度の心霊現象で済む人もいます。
ところが、それぐらいはまだ序の口。
そこからが本番というわけで、得体の知れない霊がうようよ現れて徘徊しだす、
というような例も数え切れないほどあったそうです。

……ええ、そのサイトには、一人かくれんぼを実践した人たちの
恐怖の体験が沢山掲載されていました。
「……凄い これならひょっとして」
坂上君の胸は期待で躍りました。
これまで自分がやってきた心霊ゲームに比べると、
成功率が格段に高いように思えたからです。
程度の差こそありましたが、一人かくれんぼを行った人たちはみな、
一様になんらかの心霊現象に遭遇していたのですからね。
心霊現象を体験するための理想的な方法にやっと巡り会えた坂上君は、
有頂天になりました。

……話を戻します。
無事に……というのもおかしな言い方ですが、
心霊現象を確認出来たら、今度は一人かくれんぼを終了させなくてはいけません。
これは、とても重要な行為です。
いい加減な終わらせ方をすると、霊が帰ってくれなくなりますからね。
ゲーム終わらせるためには、ペットボトル一本分の塩水が必要です。
まずその半分を口に含み、隠れている場所から出て、ぬいぐるみを探します。
大抵の場合はもとあった場所、つまりは風呂場に落ちたままだそうですけど。
その過程で例えどんなに恐ろしいものを見ても、
決して途中で塩水を吐き出してはいけません。
塩水を口に含んでいる限りは、霊からこちらの姿が見えず、安全だからです。
ぬいぐるみを見つけたら、ペットボトルに残った塩水をぬいぐるみにかけて、
口の中の塩水も吹きかけます。
そして、「私の勝ち」と3回言うんです。
そうすればゲームはおしまいになり、心霊現象は止まるといいます。
ただし、使用したぬいぐるみは必ず捨てなければいけません。
目の前で燃やしてしまうのがベストらしいですが、
最終的に燃えるかたちであればいいそうですよ。
つまり、燃えるゴミに出すという方法でも構わないんです。
……本当にそんないい加減なことで大丈夫なのかと、
僕なんかは思ってしまうんですけどね。
サイトには他に注意点として、一人かくれんぼの最中には決して家の外に出ないこと、
電気は必ず消したまま行うこと、隠れているときは静かにすること、
などが書かれていましたが
坂上君にとって、それよりも問題な一文が他にありました。
「同居人がいると、同居人に危害が及ぶという噂もあり……か」
坂上君は僕らと同じ高校生なので、両親と一緒に暮らしていました。
彼は一体どうしたと思います?


……気にせず実行した、ですか。
ふふふ…………いや、失礼。
予想通りの答えだったのでつい、ね。
霊たちのことなんてなんて別に恐れていない。
そして、自分さえよければどうでもいい。
実にあなたらしい答えですね。
もう一人の坂上君は違いましたよ。
少なくとも、あなたよりは両親想いでした。
万が一ということを考えて、両親が家にいる時は
一人かくれんぼを行なわないことにしたのです。
……一人きりのときにやらないと雰囲気が出ないから?
どこまでもひねくれた人ですね、あなたは。
まあ、そういう気持ちも多少はあったのかもしれませんがね……。
とはいえ、両親が揃って家を空ける機会なんて、そうそうあるものではありません。
「せっかくいい方法を見つけたのに、当分はお預けかな……」
しかし、彼は突如、ある一つの考えに思い至ったのです。
「そうだ、学校でやればいいんだ!」
基本的なやり方さえしっかりと押さえていれば、
家でなく学校で行っても問題はないはずだ。
むしろ、この心霊ゲームが「かくれんぼ」だということを考えるのならば、
狭い家の中よりも学校という広大な舞台を選んだ方がいいのではないか。
坂上君は、そのように考えたのです。

そしてその数日後、決行の夜は訪れました。
坂上君は、深夜こっそりと、両親が寝静まっている家を抜け出したのです。
一人かくれんぼに必要となる道具一式をバッグに詰めてね。
どんよりした空気の流れる、じめじめとした蒸し暑い夜でした。
……ちょうど、今日のように。
人っ子一人いない深夜の路地は、
いつも見慣れた風景とはまるで違ったものに見えます。
今日こそ霊をみることが出来るかもしれない、
そう考えると、坂上君の胸は高鳴りました。
そして彼は学校の校門を乗り越え、一階にある自分の教室の窓の前まで着きました。
下校する時に教室を最後に出た彼は、こっそりと鍵を開けたままにしていたのです。
学校に侵入するのを今日にしたのは、今日の日直が彼だったから、
という理由に他なりません。
でも、普通に考えると、先生なり用務員なりが
その後に確認して施錠していそうなものですよね。
しかし、窓はあっさりと開きました。
……もしかすると、この時点で既に、
何か不思議な力が働いていたのかもしれませんね。
今となっては誰にもわからないし、どうでもいいことですが。

さて、学校に侵入することに成功した坂上君は、
プールの横にあるシャワールームに人形を放置することにしました。
水がある場所、そして体を洗い流す場所……風呂場との共通点は十分なので、
代理の場所としては、そこがベストだと考えたからです。
シャワールームに入り、腕時計を確認すると、
針は今まさに3時を指そうとしているところでした。
まさに、一人かくれんぼを始めるのに最適とされている時間です。
坂上君は、あらかじめ自分の爪を仕込んでおいたぬいぐるみを取り出しました。
……彼は、人形にどんな名前をつけたと思いますか?


いえ、違います。
適当に思いついた名前ではありません。
坂上君は、嫌いなクラスメイトの名前を人形につけることにしたんです。
彼は一時期、学校で山田という同級生から虐めを受けていたことがあったんですよ。
「お前は今からヤマダだ。最初の鬼はお前だからな」
3回そう言うと、坂上君は人形をその場に放置して自分の教室へと一端戻りました。
幸いにも月の出てる夜でしたので、闇に目が慣れてさえしまえば、
明かりをつけなくても、ある程度は周囲を把握することが出来ました。
教室に備え付けのテレビの電源を入れると、
砂嵐画面特有の、ザーッという不快な音が想像以上のボリュームで流れ始めました。
いくらチャンネルを変えても無駄なのはわかっていました。
既に番組の放送は終了しているような時間帯ですからね。
テレビのスイッチが入ったことを確認すると、
坂上君はシャワールームへと引き返しました。
「見つけたぞ、ヤマダ」
そう言って、ぬいぐるみの腹に包丁を突き立てたのです。
ブスリ、と包丁が突き刺さり、ぬいぐるみから米粒がこぼれました。
不思議なことに、一度名付けてしまうと、
本当にその人形が山田の分身だというような気がして、
坂上君は怨みを込めて、執拗に人形を包丁で斬り付けました。
……何度も、何度もです。
「……次はお前が鬼だからな」
満足いくまで人形をいたぶった坂上君は、包丁を放るとその場を離れました。
さて、問題はこれからどこに隠れるかです。
あなただったらどこに隠れますか?


自分の教室の教卓の下ですか。
奇遇ですね。坂上君もそうしたんですよ。
そこならば、もしテレビが消えたりするような
異変が起これば、いち早く気づくことが出来ますから。
それにこのゲーム、実はどこに隠れるかはさほど重要じゃないんです。
口の中に塩水をふくみさえすれば安全だ、そういう触れ込みですからね。
坂上君は教卓の下に潜み、心霊現象が起こるのを息を殺してじっと待ちました。
しかし、しばらく時間が経過しても、何かが起こるような気配は一行にありません。
坂上君は、急速に冷めていく自分を感じました。
(やれやれ…… 結局はこれもただの出鱈目に過ぎなかったのか)
怪異が起こったのはその時でした。
テレビが一瞬消え、その直後にまた点いたのです。
一度は気のせいかと思った坂上君でしたが、そうでないことはすぐにわかりました。
まったく同じ現象が、立て続けに何度も繰り返されたのです。
そして最後には、完全にテレビが消えてしまいました。
砂嵐の雑音から解放され、周囲を静寂が包みます。
(停電… 故障…… いや、今のはそんなのじゃない)
そして、次の瞬間。

バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!

「ひっ!」
凄まじい音が鳴り響き、
坂上君は、悲鳴を上げかけた口を慌てて押さえました。
それは、数百、いや数千とも思えるような数の見えない手が
一斉に校舎を叩いているとしか思えないような凄まじいラップ音だったのです。
(書いてあった通りだ! 出鱈目なんかじゃなかったんだ!)
それにしたって、尋常ではない現象でした。
既に頭の中には、こんなことを面白半分で行ってしまったことに
対する後悔しかありませんでしたが
坂上君は、闇の中で震えながらじっと耐えるしかなかったのです。
5分か、10分か。あるいは、1分もなかったのかもしれません。
坂上君にとっては永遠とも思えるような時間が経過して、
ラップ音は始まったとき同様に、突然ピタッと治まりました。
………そう、ラップ音は、です。ふふふ。
「……………………………!」
恐怖のあまり縮こまっている坂上君の背中を、ゾッとするような悪寒が襲いました。
……次になにが起こるのか、彼にはもうわかっていました。
それでも、なにも起こらないことを祈らずにいられない。それが人間です。
身勝手なものですね。
あれほど心霊現象との遭遇を渇望していたくせに。
ちょっと都合が悪くなると、すぐにそれを撤回しようとする。
自業自得としか言いようがありません。彼に同情の余地はありませんよ。
あなたにも、もうわかってますよね?

坂上君の祈りはもちろん、届きませんでした。 遠くの方から、足を引きずるような音と
それに伴って床の軋む音が近づいてくるのです。

ズル… ズル… ズル……
キイ、キイ、キイ…………

少しずつ、でも確実に、何者かは近づいて来ていました。
そしてあろうことか、教室のドアがガラリと音を立てて開いたのです。
魚の腐ったような、と形容すればいいのでしょうか。
得体の知れぬ、鼻をつく生ぐさい臭いが教室内に充満しました。
(もういい、もう沢山だ!)
坂上君は、一刻も早くこの悪夢を終わらせるために、塩水を取り出そうとしました。
しかし……
もしその場がが明るいところで、他に誰かがいたとしたら、
坂上君の顔から血の気が引いていくのが容易に見て取れたでしょう。
……信じられないようなタイミングで、
最悪の失敗を平気でしてしまうのもまた人間です。
坂上君は、ぬいぐるみを斬り付けるのに夢中になりすぎたせいで、
その後にバッグを回収しないまま教室に戻ってきてしまっていたのです。
闇に潜む何者かと教卓の間の距離は、もう数メートルしか離れていません。
とはいえ、もしかすると相手は自分がここに隠れていることに
気づいているわけではなく、彼を捜し回って徘徊しているだけなのかもしれない。
坂上君は一刻も早く決断を下さなければいけませんでした。
彼はどうしたと思いますか?


……坂上君は賭けに出ました。
いちかばちかそこを飛び出したのです。
先程の様子だと、相手の移動する速度は決して早くない。
教室から脱出さえ出来れば、そのままシャワールームまで逃げ込み、
一人かくれんぼを終了させることが出来るはず、そう考えたのです。
「うわあああああああああああああっ!」
坂上君は、めちゃくちゃに叫びながら教卓の下から飛び出し、
出口へとダッシュしました。
……出入り口は、立ちつくす何者かによって塞がれていました。
完全な闇ではないとはいえ、暗かったのではっきりとは見えませんでしたが、
一見するとそいつは人間の姿をしているようでした。
坂上君は、無我夢中でそいつを突き飛ばしました。
ぬるっとした不快な手触りでしたが、確かな手応えがありました。
そいつは吹き飛んで倒れながらも、そのままニヤリと口角を歪めました。
不思議なことに、暗い中でもなぜかそれだけはわかりました。
そして、地獄の底から響いてくるような低い声で言ったのです。
「ヤッパリ、ココニイタノカ……」
「ひいいいいいいい!」
坂上君は弾かれたように、シャワールームを目指してがむしゃらに走りました。
「うわっ!」
しかし、焦りのあまり、途中で派手に転倒してしまったのです。
「くっ、逃げなきゃ… 逃げなきゃ……!」

ズル… ズル… ズル……
キイ、キイ、キイ…………

先程同様に、敵は確実に迫ってきています。
坂上君はなんとか起きあがり、痛む足をかばう余裕もなく再び駆け出しました。
一度も後ろを振り向かずにね。
そして彼は、なんとか追いつかれずに
シャワールームまで辿り着くことが出来たのです。
「や、やった! これで助かる…助かるんだ……!」
バッグはやはりそこにありました。
坂上君は震える手で、中から塩水の入ったペットボトルを取り出し、
次は人形を探しました。ところが……
「ない! ないよ! 人形が……ないぃぃぃっ!」
シャワールームのどこにも、人形は落ちていませんでした。
自分は確かに、ここに放置したはずなのに。
……愚かですよね、つくづく。
ちゃんとゲームの名前にもついてるじゃないですか。かくれんぼなんですよ、これは。
坂上君はあらかじめ、最悪の事態まで想定しておく必要がありました。
もっとも、想定していてもどうしようもなかったかもしれませんがね。
半狂乱で人形を探し回る坂上君に、背後からまたあの声が聞こえてきました。
「ミツケタ……」
「う、うわああああああああ!」
振り向いた坂上君の目に飛び込んできたのは……
腐乱死体となった自分自身の姿だったのです。
あの強烈な臭いは腐敗臭だったのです。
片目は既に腐り果て、眼球は飛び出していました。
そして、残ったもう片方のドロリと濁った目で坂上君を見つめているのです。
「来るな! 来るなぁぁ!」
坂上君は、ペットボトルの塩水を浴びせかけました。
しかし、相手は一向にひるむ様子がありません。
当たり前です。そもそも、口にふくむか、人形にかけるためのものでしたからね。
正しい手順を踏んでいない呪術に、効果などはありません。
「サア、ツギハキミガオニニナルバンダヨ……」
そう言いながら腐乱死体が振り上げた右手には、
キラリと光るものが握られていました。
「ぎゃアアあああああああああァァッァアああアアアアァァァあああぁぁああっ!!!!!」
深夜の学校に、坂上君の悲鳴が響き渡りました。

……翌日、変わり果てた姿となった坂上君の遺体が発見されました。
死体を見慣れたはずの捜査官でさえ目を背けたくなるような、
それはもう無惨な有様だったといいます。
腹部をメッタ刺しにされていたそうですよ。
内臓をシャワールーム内にぐちゃぐちゃに飛び散らせてね。
彼の遺体のすぐ側には、殺害の凶器となった包丁、
そして、坂上君とまったく同じように腹を切り裂かれた一体の人形が落ちていました。
その傷の付き方は、坂上君とまったく同じででした。
おっと、中からこぼれているのが内臓か米か、という違いはありましたけどね……。

そうそう、坂上君の死後、件のサイトの掲示板に変な書き込みがあったそうですよ。
「このゲームをやったせいで、僕は殺されてしまった。
 こんなゲーム、やるんじゃなかった……
 これからまた、僕は鬼をやらなければいけない。
 誰か僕を助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ
 助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ
 助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ」
ってね。
誰かがおもしろがって書き込んだんですかね?
まったく、不謹慎な人もいたものです……ふふふ。

わかりましたか?
安易に霊を取り扱うのが、どれだけ危険なことなのかということが。
……ええ、確かに坂上君が行った一人かくれんぼは、
「霊を呼び出す」というはっきりとした目的のある心霊ゲームでした。
でもね、大勢で集まって怪談話をすることも、立派な降霊術なんですよ。
百物語ってご存じでしょう?
……あれと同じです。
霊たちは、自分たちのことを話されることにとても敏感です。
話に共鳴して、集まってくるんですよ。次々とね。
そしてこの学校には、はっきり言って
想像を絶するような凶悪な霊気が渦巻いていますよ。
僕は霊たちに敬意を払って、今の話をしたつもりです。
あなたはどうですか?
今更なにを言っても、なにを思っても、完全に手遅れでしょうがね。


……これで僕の話は終わりです。
次の方、どうぞ話して下さい。
今の話を聞いてまだ続ける勇気、いや、覚悟があるのなら、ですがね……。



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