-+DFF「ヤグドリパニック!」(1)+-

ヤグドリパニック!
(1)








「…コスモスが手を焼いたというのも頷ける」
「あら。あの方、そんなこと貴方に言っていらしたの?」
 笑顔が崩れないからには、この程度のことは言い合える仲だったのだろう。コスモスと、この―――――遥か昔自分と同じポジションに いたと自称する魔女博士殿とは。
「とにかく、落ち着ける場所があって良かったじゃないか」
「確かに、その点については幸運だったが」
 フリオニールの言葉に苦笑しながら頷くライト。その後ろから、隣室にいたティーダが入ってきた。彼にしては珍しく、そうろとドアを 開け閉めして。
「その様子では、オニオンナイトとティナは眠ったようだな」
「ぐっすりッス」
 親指と人差し指でマルを作って示すティーダ。それから部屋を見回し、あれっと首を傾げた。
「え〜っと…セシルとクラウドは向こうだろ? …ジタンは?」
「今風呂に入ってる」
「えっ! ここ風呂あるんッスか!? ラッキー!!」
 途端にはしゃぐティーダ。どんな世界に出るかわからない、この奇妙な旅の道中では、上下水道が整備された近代施設で落ち着ける 機会は貴重である。
「ついでにお洗濯もなさったら? 着替えなら…モーグリ!」
「はいクポ〜!」
 シャントットの呼び掛けに応じて、部屋の中央にぽんっとモーグリが現れた。
「部屋着になりそうな装備を適当に出して差し上げて」
「は〜いクポ! う〜〜〜んと、そうクポね…」
「…」
「…」
「…」
 いそいそと肩から下げている鞄を探るモーグリの前で、ライト、フリオニール、ティーダの三人は顔を合わせ、それから怪訝そうな 視線をシャントットに落とす。まるで計ったように三人揃って。
「…何ですの?」
「失礼を承知で尋ねるが、まともな物が出て来るのだろうな」
「んま! 本当に失礼ですこと」
「そうは言っても、さっきのアレを見た後では疑ってかかりたくもなる」
 二人の言葉にうんうんと頷くティーダ。が、んっとまた首を傾げる。
「そういえばさ。なんでたまねぎボーズがひっくり返って、バッツがあんなふうになっちまったのかって、オレよくわかってないんだけど。 結局何があったんだ?」
「…。話すと長くなるが…」
 ティーダはフリオニールに尋ねたが、詳しいことを知っているのはどうやらライトのほうらしい。彼はモーグリに剣と鎧の手入れを 手伝わせながら、珍しく少し疲れた様子で話し始めた。


line


 コスモスを失い、シャントットが加わって、真実を解き明かしカオスを倒すべく旅を続けていたコスモス戦士達。
 世界を飲み込む混沌の力はすさまじく、今まで通って来た道が必ずしもそのままとは限らないような状態になっている。世界と世界の 境界を渡る時、次の世界がどんな場所かは、出てみるまでわからない。
 ほんとだったらこの隣って月の渓谷なんだけど、と呟くセシルだったが、出た先の世界は今までに見たことのない場所だった。
「オヤマァ! 『ル・ルデの庭』じゃございませんの!」
 驚きの声を上げたのはシャントット。どうやらここは彼女の世界の断片のようだ。
 それも、やたらと広い。
「…世界の境界が見えぬとは…どれほど広いのだ、ここは」
「そんなことより、まずは安全な場所に出たことに感謝するべきではなくて? この街でしたら安全な上、比較的快適に過ごすことが できましてよ」
「でも、私達は先を急ぐのに…」
「これだけ境界が遠いのでしたら、探している間に夜になってしまいますわ。焦って下手に動くよりも、足場のしっかりとした拠点を 決めてしまったほうが賢明ですことよ。…ふむ。それでは皆さん、こちらにいらして」
 ライトとティナの懸念をさらりと流し、てててっ、と走り出すシャントット。
「お、おい」
「…どうやら彼女について行くしかなさそうだね」
 この流れだと、とセシルが肩を竦める。呼び止めようとしたフリオニールの手は、そのままやれやれと腰に落ち着いた。
 そうして、一同はシャントットの後を追い掛けて歩き出した。これだけの人数で移動となると、自然、小さな塊の集団になる。ライトは ティナやオニオンナイトと周囲を確認しながら。セシルはフリオニールやティーダと話しながら。
 残るはいつもの三人トリオと、そして今日は珍しくクラウドの姿も混じっている。
「すっげーなぁ。この街、橋の上に建ってるぜ」
「大陸と大陸を結ぶ橋上都市か。なるほど、交通の要ということは、物流とビジネスの中心。そうやって発展していった街のようだな。 見ろ、向こうに飛空挺の港も見える」
「え、あれ飛空挺!? オレ船だと思った。あーでも確かにあれ帆じゃなくてプロペラか…。ってクラウドどんだけ目ぇいいんだよ」
「お前もな」
「…」
 はしゃぐジタンと感心するクラウド。一緒にはしゃぐとばかり思っていたバッツは、そそそ、とスコールの隣に移動。
「…」
「…あまりくっつくな」
「オ、オレ高いとこ苦手だって言ったじゃん…」
 身軽なジタンは手すりに乗って歩きながら下を眺めているが、一緒にはしゃぐどころか傍に寄ることさえ、バッツにはできそうにない。 高い上に橋の上なんて不安定なところに建っているのだと思うと、この街で安らぐことさえできなくなってしまう。
 無意識にスコールの袖をつまむバッツだったが、彼は反射的に腕を引くことでそれを払った。
「…スコール」
「………あまり、くっつくな」
 ふい、とライト達のほうへ向かってしまうスコールに、バッツは複雑な想いを隠せない。
 勘違いではないようだ。最近、スコールに避けられている。
 何か気に障るようなことをしただろうか? 心当たりはない。二人が付き合っていることは仲間達どころか一部カオス勢にさえとっくに バレバレなのだから、みんなのいるところで袖を抓んだくらいで嫌がるとは思わなかったのだが、気にしたのだろうか。クールに構えて いるが、根は繊細だから。
「橋の上といっても、空中という意味じゃない。巨大な支柱がそのまま街になっているようだ。…あまり気にするな」
 歩み寄ってぽんと頭に手を乗せてくれたのはクラウド。最後の一言は、高所という意味だけではなく、スコールの態度のことをも含んで いるのだろう。彼は仲間達の中で一番のリアリストだが、その分仲間達を思い遣る気持ちも大きい、とバッツは思う。こうやってさりげなく 気を遣ってくれる。自分にだけ特別にというわけではなく、皆に分け隔てなく。
 彼の特徴的なチョコボ頭にバッツが興味を引かれたこと、そして彼の親友であるザックスに自分が少し似ているらしいこともあって、 クラウドとはすぐに仲良くなれた。周りからは意外な組み合わせだと思われているようだが、やはり共通の趣味…趣味といっていいのか、 とにかく二人はチョコボの話になると盛り上がる。ザックスと少し似ているといえばフリオニールも当てはまるようだが、バッツには更に チョコボという共通点があったことによって、行動を共にする機会の少なさと反比例するように二人の距離は一気に縮まった。
 バッツは長く相棒のボコと旅をしてきてチョコボの世話が大好きだし、クラウドの世界にはチョコボファームなる牧場があってチョコボを ブリーディングすることもできるという。チョコボの話で盛り上がるだけに留まらず、召喚石チョコボの取り合いであわやケンカになり かけたこともあるくらいだ。
「…ありがとな。クラウド」
 小さいながらも笑顔を取り戻したバッツに、クラウドは頷く。
 その様子をちらりと見てしまって、スコールは仏頂面のまま顔を逸らした。
「お前さぁ…気にするくらいならお前が傍にいてやりゃあいいじゃん」
 歩み寄って来たジタンが、つんつんと肘でスコールを突付く。
「最近ちょっと様子おかしいぜ? 何かあったのか?」
「別に」
「だったら何で」
「ジタンには関係ない」
 まるで魔法を跳ね返すように言葉を遮るスコール。今の彼は獅子どころか、警戒心を剥き出しにして怯える仔猫のようだ。ジタンは 思わず溜息をついてしまう。
「…なあ。カオスを倒せばオレ達の旅は終わる。いつか帰るところに帰るんだ、みんな」
 スコールは一瞬だけ眉を寄せ、ふいと顔を逸らした。聞きたくないというように。
「その時にさ…思い出の中に、あんな淋しそうに笑うバッツの顔、連れて帰りたくないんだよ。あいつは、いつも楽しそうに笑ってんのが 似合ってるよ」
「…」
「今バッツの顔曇らせてるのは自分だってことは分かってるんだろ。どうにかしろよ。スコールにしかできないんだからさ」
「…」
「そうやって苛々してるお前を思い出に連れて帰るのだって、オレ嫌だからな」
 ぎゅ、とスコールの手が拳の形になって握られる。何か言おうとしたのか溜息をつこうとしたのか、そこへ。
「うわっ!」
 フリオニールの声が響く。皆そちらへ注目すると、彼の姿が消えてしまった。
「フリオニール!」
 名を呼んで追ったライトの姿さえ消えてしまった。そこは何の変哲もない、下へと続く大きな螺旋階段の入り口。世界の境界もそこには ないのに、一体どうして。
「ワープゾーン!?」
 オニオンナイトの言葉に、その足元でシャントットが手の平を上に向けて肩を竦めた。
「発想が貧相ですことよ。よろしいかしら? この街の中にはこういった、エリアチェンジする場所がございますの」
「エリアチェンジ?」
「ええ。ここはジュノという大きな街。その中のエリアを区切って…最上部にあたるここは『ル・ルデの庭』、この下は『ジュノ上層』、 更にその下は『ジュノ下層』というように別れておりますの。エリアチェンジした方の姿は見えなくなりますけれど、消えたわけでは ありませんわ。…ライトさーん! のばらさーん! 聞こえておりまして?」
『ああ、聞こえている』
「ひえっ!! ど、どっから聞こえてるッスか!?」
 きょろきょろと見回すティーダだが、二人は戻って来たわけでもなく、相変わらず姿は見えない。
「さっき咄嗟にパーティーとアライアンスを組んでおきましたから、ほらこの通り」
「…って言われても…」
 何がこの通りなのかさっぱり、とセシルも皆も困惑してしまう。あら、と首を傾げるシャントット。
「お見えになっておりませんの? ほら、この辺りにあなた方のお名前とステータスが表示されておりますでしょ?」
 この辺り、と自分の右膝あたりを四角く手で示すシャントットだが、全員首を傾げ返した。
「ふぅむ…。これは、ヴァナ・ディールの住民であるわたくしにしか見えていないようですわね…。プロテア!」
 突如補助魔法を放つシャントット。キン、と光の壁が生まれたのは、彼女から始まってオニオンナイト、セシル、そしてバッツ。
 尚、黒魔道士である筈のシャントットが何故白魔法を使えたのか、とつっこむことができる人物は、ここには居なかった。全員、この 世界には初めて触れる。当然この世界の常識非常識など知る由もない。
「パーティー効果は効いているようですわね。興味深いですわ。…よござんす。ついでに色々と調べてみることにいたしましょう。さ、 みなさんいらして!」
 張り切ってエリアチェンジするシャントット。残った八人は視線を交わし、なんというかもう勝手にしてくれという心境であることを 目で確認し、苦笑。
「ここんとこ、ずっとダンジョンとかフィールドばっかり通ってきたもんね。久しぶりに英気を養うと思って、少し羽根伸ばそっか」
「うん、そうだね。アイテムの補充もできるかもしれないし」
「…やれやれ」
 オニオンナイトの言葉に頷くティナと、半ば諦めの境地といった様子のクラウド。そうして彼らも順番に、エリアチェンジを体験する べく、足を踏み出す。

 その時にもやはり、スコールとバッツの間には、不自然な距離があった。


line


「…いや〜…あの、話巻き戻りすぎッス」
 その辺はオレも知ってるッスよ、とティーダが頭を掻く。



 その後シャントットは『ジュノ上層』の街を一回りして様子を確かめたあと、ここを拠点にすると行って、柱の中央に位置する巨大な 居住ハウス群へ連れて行った。そこへ至る道もまた橋で、しかも吹き通しのよく上下が見える細めの石橋。怯えたバッツは結局クラウドに 手を引かれて渡り、それを見たスコールが一人でぶすくれていて、更にはそれを見て呆れのこもった溜息をつくジタンがいたこともお約束。
 問題はその後だ。

 シャントットの世界の冒険者達が拠点にしているという、モグハウス。人が誰もいないのですから適当に使いましょう、と提案というか むしろ決定事項として口にした彼女は、更にそのハウスの扉を開けて回った。
 鍵掛かってないんッスか無用心ッスね〜と言ったティーダに、わたくしは管理者側なのですから鍵くらい開けられて当然ですわ、という 怖い答えを返し、更に部屋をニ、三人ずつに割り振る。
 冒険者一人につき一匹(…一羽? 一体?)が付くという、この世界のモーグリが現れることも確認し―――元の世界の人々が存在しない 断片世界であっても、チョコボやモグネットが存在しているのと同じ理屈らしい―――、それからやっと境界を確かめに行こうという話に なった。
 さっき見渡した限り、どうやら世界の境界はこのジュノという街の外まで行かないとなさそうだという話から、数人のグループに分かれて 街の外に出てみよう、という流れになった。離れ離れになっている仲間の声が何もない耳元から届くのが不気味だというティーダのために、 シャントットがリンクシェルという通信アイテムを用意し、いわばトランシーバーの役割を果たす端末であるリンクパールを全員に配布。 必ず日が暮れるまでに戻れというライトの言葉に皆頷いて、さあ行くぞというその時。
「その前に皆さん、これをお使いになって」
 と、シャントットから何やら呪符のようなものを渡された。これは何かと問えば、そのものずばり呪符であるという。使うとリレイズの 効果が出るそうだ。
「この『ジュノ』の外はモンスターと獣人の巣窟ですから、お気をつけあそばして。出る場所によっては、あなた方のようなヘッポコ君 など一撃で戦闘不能ですわよ」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…鬼だ」
 ぽつりと呟いたバッツの言葉に、全員力いっぱい頷きたい衝動にかられた。

「ま、まあほら、モンスターは夜にならないと出ないし。ねっティナ!」
「あ〜ら、今までそうだったからといって、ここでもそうだとは限りませんわ。それに、チョコボやモーグリが現れるのでしたら、 もしかしたら昼間でも獣人は出るかも…」
「そのくらいにしておいてくれ。時間が惜しいし、脅かされながら出かけるのも微妙だからな」
 はぁ、と溜息をつきながらフリオニールが呪符を使う。
 そうして、ライト、バッツ、ティナ、オニオンナイトのチームが最下層の『ジュノ港』へ。スコール、ジタン、ティーダのチームが 『ジュノ下層』へ。そしてフリオニール、セシル、クラウドのチームが『ジュノ上層』へ向かったのだが、シャントットは調べ物がある とかで留守番を決め込んだ。ずるい、と思ったのはオニオンナイトだけではあるまい。

 ティーダが聞きたいのは、この別行動のところからだ。






NEXT
RETURN

UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
 …プロテアってアライアンスメンバーにもかかったっけ…!?
 今回最大の懸案事項はこれです。多分有効なのはパーティーメンバーだけだったと思うんだけど…!
 ところで4月のVUでは白に色々てこ入れしてくれるみたいで大変楽しみです。ヴァナいかなきゃ〜!!♪
 やっとエスナ実装はいいけど、本格的に「PTのために犠牲になれ」的な仕様ですな…。うまくいけばアルテパ辺りのレベリングで いっぺんにPT全員の沈黙回復とかできそうですが、色々複雑そう。実用に耐え得るかどうかは詠唱時間とリキャが鍵か。MPコストが あんまり高すぎてもまたMP枯渇するしなぁ。いよいよエーテルがぶ飲み詠唱の時代到来か…!?
 ってディシディアの小説のところで何アツく11について語ってるんでしょう。
 え、ええと。ジタンとクラウドに会話させたら結構楽しそうで面白かったです。