-+DFF「ヤグドリパニック!」(2)+-

ヤグドリパニック!
(2)








「なんか、そっちですっげーヤバげなバトルになったのは聞こえたッスけど」
「ああ…まさか本当に、夜以外の時間帯にモンスターが出るとはな」
「だが、もうそろそろ夕暮れという時間だっただろう。必ずしも昼間もモンスターが出る世界だとは言い切れないんじゃないか?」
「それは明日、夜が明けてから外に出ればわかることですわ。どちらにしろ世界の境界もまだ見つかっておりませんもの」
「うぃー、おっさき〜」
 四人が話に夢中になっていると、湯上りほかほかのジタンが出て来た。が、その着ているものがどうにも落ち着かないらしく、尻尾が ぴくぴくしている。
「どうだった?」
「シャワーもあるし、すっげー快適だったぜ。って、それはいいんだけどさ…なぁモーグリ、これって女物だろ? 替えてくれよ」
「クポ〜? でもジタンさんのシッポが出せる服は、ミスラさんの服しかないクポ。ミスラさんの冒険者は女の人しかいないから、どうにも ならないクポ」
「尻尾通す穴くらい自分で作るって」
「んもう、そういうコトされると後で直すのが大変クポ〜」
 とか言いながら、新しい着替えを探している。なんだかんだ言いながら世話好きのようだ。
「じゃ、次は俺が入るとするか。ティーダとライトは、話の続きがあるだろ?」
「話?」
「ほら、たまねぎとバッツがなんであんなになっちゃったかって話ッス」
「おっ。ナイスタイミング。オレもそれ気になってたんだ」
 がしがしと頭をタオルで拭きながら、大きなベッドに座るジタン。冒険者一人につき一部屋という話だったが、ここには何故かキング サイズのベッドが三つも入っていて、だから一番大人数の収容となったのだ。さすがに寝る頃には、シャントットは隣室へ移るが。
「フリオニールさん、タオルと着替えクポ〜」
「ああ、ありがとう。じゃ、なるべくゆっくり入ってくるから、俺が出たら誰か交代できるようにしておいてくれよ」
「わかった」
「ラジャーッス」
 クスクスと笑いながら脱衣所へ入っていくフリオニールを見送ると、ティーダは改めてライトに向き直ることによって話の続きを催促。 タオルを首にかけたジタンも、モーグリから渡された服と裁縫道具で尻尾の穴を作りながら、ちらちらとライトへ視線を送っている。
「…あの後、我々が担当する『ジュノ港』というのが最下層だと聞いて、螺旋階段をそのまま下へ下へと向かってしまったのだ。結果、 シャントットが意図した外とは違う場所へ出てしまった」
「えーと…『クフィム』、だっけ。離島みたいなモンだって?」
 ジタンの言葉に、うむ、と頷くライト。
「橋ではなく、地下道が繋がっているそうだ。…出た早々、未知のモンスターと遭遇してしまってな」


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 高所恐怖症であるバッツを慮って橋を避けた、というわけではない。単に、一番下だというシャントットの言葉を鵜呑みにしてしまった 結果、そこへ出たというだけのこと。
 エリアチェンジの感覚もあったので、まさか大陸とは違う方向へ出てしまったとは思いもよらない四人は、整備された地面と壁が唐突に 途切れた先に続く細い洞窟を進む。周囲を警戒しながら、足元に注意しながら。
 自然の岩肌が現れたその洞窟は、どうやら人通りは多いらしく(元の世界がそうだからだろう)、獣道よりは人の通りやすい道になって いる。が、この先は相当の寒冷地なのか、どんどん地面を雪が隠し始めた。時々ひょろりと出ている枯れ枝や苔の生えた岩肌は、この先が 荒廃した土地であることを暗示しているかのよう。
 無心に歩き続け、しばらくして洞窟を抜けた。空の色で現在時刻にあたりをつけながら、道なりに更に歩き続ける。すると、青黒い岩 から突如、真っ白な岩肌が現れた。いや、岩肌ではない。壁面だ。それにはつるりと美しい光沢があり継ぎ目もなく、そして明らかに 自然の岩とは一線を隔した、人工建造物の形をしている。
「何かの遺跡…?」
「遺跡だとしたら、これを作った文明って相当凄いよ。これだけ純度の高い鉱物を精製して、しかもこの大きさで継ぎ目がないって、 かなり難しい技術だと思う」
「そうだよなぁ。それに直線ならともかく、曲線だぜ? この建物。新しい感じはしないのに、風化もほとんどないみたいだし…。一体 何で出来てるんだ?」
 ぺたりと手を触れてみるティナの足元で、オニオンナイトも興味深そうにそれを検分している。やっと地に足がついたせいか、バッツも いつもの調子に戻ったようだ。
『おっ、なんだなんだ、そっち何かお宝でも見つけたのか?』
 愉快そうな声が耳元から語りかけて来た。穴を空けることなく吸いつくように耳たぶを飾ったリンクパールを介して、ここにはいない ジタンの声が届けられたのである。
「そうね。この中に入ることができたら、もしかしたら宝箱とかあるかもしれない」
『いいねいいね! 入り口見つかりそうか?』
「ダメダメ。ぜんっぜん継ぎ目がないよ」
『そういう場合、入り口は隠されている! なあ、どこにいるんだよ。今からそっち行くからさ』
『あー! だめだってジタン! ほら、もうちょっとで外に出るッスよ!』
『…そうやって暢気なこと言ってられるのも今のうちだぞ』
 はあぁぁぁ、とげんなりしたフリオニールの声が混じる。セシルの苦笑とクラウドの溜息も混じっているようだ。
『どうした』
『…どうしたもこうしたも。街の外に出たはいいんだが、果てが見えない。本当にどれだけ広いんだここは…』
『果てが見えないだと…? こっちも確認するぞ』
『わ、ちょ、おいスコール待てよ!』
『わー!! ずるいッス! こうなったら、外まで競争っ!!』
『へへん、抜かせるかよ!』
「皆、あまりはしゃぐな。初めて見る景色に興奮するのは分かるが…、っ!」
 離れた場所にいる仲間との会話に気を取られていた四人だが、その気配に気付いて振り返る。
 そこには、何とも言えない物体がいた。陸に上がった大きな海老のような、それでいて色合いは赤っぽい茶色で、頭上には剣を浮かせて いる。その剣は意志があるかのようにふわふわと揺れていて、そしてライト達に気付いて切っ先をこちらへ向けた。
「やばいよ、来る!!」
「でも、今まで何の気配もしてなかったのに、どうして!?」
「いきなり沸いたのかもしれない。くそ、まだこんなに明るいのに!」
「迎え撃つしかあるまい。この辺りのモンスターの強さを確かめる。行くぞ!!」
 号令を出しながら、敵の剣戟を盾で受けるライト。その一撃は、重い。
「ぐっ…」
「こっちだよ! せーのっ」
 キンキンキンッ、とオニオンナイトの剣が素早く切り刻む。だが、攻撃回数はずば抜けていても、一撃一撃は軽い。あまりダメージは 与えられていないようだ。
「闇よ…魂の叫びよ!」
 暗黒騎士セシルの技を『ものまね』で繰り出すバッツ。だが、闇の力は通じないらしい。やはりダメージは微々たるもの。
「やっ、はっ!」
「く…随分と固いな」
 ブリザドコンボで攻撃するティナだが、やはり有効なダメージとは言い難い。ぎりっとライトの奥歯が噛み締められる。
 続く総攻撃。その背後からいきなり、こーん! と奇妙な音。
「な、なんだぁ!?」
「ミミズ…ワーム!?」
 オニオンナイトの背丈と同じくらいの巨大ミミズが地面から生えて、うねうねと体をくねらせている。かと思った次の瞬間には、何かの 魔法を詠唱する構えに入り、こちらへ狙いを定めるように頭を向けた。
「! 『マイティガード』!!」
 咄嗟に防御系青魔法を唱えるバッツ。プロテスとシェルが四人にかかり(レビテトは掻き消された。恐らくこの世界には浮遊という ステータスが存在しないのだろう)、その直後、ワームの『ストンガ』が放たれる。
「きゃあっ!!」
「うわああ!!」
「ぐうっ…、光よ!!」
 シールド・オブ・ライトで強烈な光を放つライト。剣を浮かせた海老のような魔物は弾き飛ばされ、倒すまでには至らなかったものの、 やっとダメージらしきダメージを与えられた。が、このまま押し切ろうとするライトの後ろで、ワームが矢継ぎ早に魔法を唱える体勢に。
「魔法剣『サイレス』! はあっ」
 ガンブレードを顕現させたバッツはそこに魔法を乗せ、スコールとクラウドの合わせ技でミミズを攻撃。幸いこちらは海老ほど固くない ようだ。詠唱を止め、更に沈黙のステータス異常を付加することに成功した。
「くっそぉ、燃え…っぐ」
「オニオンナイト!!」
 ファイガを放とうとしたオニオンナイトがそのまま崩れ落ちた。なんと、彼の背後から今度はスケルトンが現れている。
「『ホワイトウィンド』!!」
「よくも…!! 荒ぶる風たちよ…!」
 バッツが青魔法で回復を図り、同時にティナが渾身のトルネドを放つ。その強烈な一撃で海老とワームは倒れたが、また更に奥から光の 塊のような敵が現れ、ライトの足元に新手のワームが生えてくる。これでは堂々巡りもいいところだ。
「ライト! きりがない!!」
「だが…このまま街へ入れば、モンスターを連れて入ることに…!」
『いいえ! モンスターはエリアチェンジを越えれば入ってこられませんわ! 危ないのならすぐにジュノへお逃げなさい!』
 突如リンクパールから凛と通ったシャントットの声に、四人は一瞬目を交わした。
「そういうことはもっと早く言ってよ!!」
「皆、退却するぞ!!」
 オニオンナイトの悲鳴に重なるライトの号令。オニオンナイトとティナを先頭に街へ向かって走り、ニ体に増えたスケルトンと光の塊の 追撃をライトとバッツで阻みながら後退してゆく。
「このままじゃ…! 『ケアルガ』!」
 苛烈な攻撃に晒され続けるライトとバッツに、振り返って回復魔法を唱えるティナ。だが、その動作は一瞬の立ち往生になってしまう。
「ティナ、回復はオレに任せろ! それより走れ!」
「でも!」
「いいから早く!!」
 もうリンクパールから誰の声も聞こえない。いや、例え誰かが何か言っていたとしても、四人の耳には入らなかっただろう。ティナは 一瞬逡巡したが、前衛二人の気迫に押され、走ることに専念した。
「走れ、光よ!」
「『ホワイトウィンド』! 『火炎放射』! 『針千本』! …くそ、効かないか!」
「光よ…輝け!!」
「『ミサイル』! 『ホワイトウィンド』! 『フラッシュ』! 『黒の衝撃』! 『ホワイトウィンド』!」
「バッツ、敵の狙いがお前に向いている! 私の後ろへ!」
「ライトさん! その光の塊、ライトさんの技を吸収してる!!」
「わかっている! だが…!!」
 オニオンナイトの指摘に歯噛みするライト。分かってはいるが、彼の攻撃は先天的な光属性。変えようと思って簡単に変えられるもの ではない。
「今は足止めになればいい。後ろは気にせず走れ!」
「はい!!」
 走り続ける四人。生えて来た場所からは動けないのかワームは撒いたが、スケルトンニ体と光の塊はしつこく追って来る。追いながら、 こちらを攻撃してくる。
「『ホワイトウィンド』! 『火炎放射』! 『ホワイトウィンド』!」
「入り口が見えたよ!」
「三人とも、飛び込め! 魔法剣『フレア』、『みだれうち』!!」
 右手にティーダのフラタニティ、左手にスコールのガンブレードを顕現させ、その両方に魔法を乗せて、瞬時に四回攻撃を繰り出す 『みだれうち』を放つバッツ。二刀流で四回なので合計八回、更にガンブレードの引鉄を引いて炸裂させ、一瞬にして膨大なダメージを 与えた。
 だが、辛うじて止めを刺すには至らなかった。モンスター達の凄まじい敵意がバッツに集中し、力を溜めるようにぶるぶると体を震わせる。 大技が来る!
 これはマジでやばいかも、とこめかみを冷や汗が伝ったその瞬間。
「バッツ!!」
 ライトに腕を引っ張られ、二人で縺れ込むようにエリアチェンジ。
 整備された壁と天井そして床が戻って来る。無事街の中へ駆け込めたようだ。
「…み、みんな…大丈夫か…?」
「オニオンくんが、さっき、リレイズを使ったみたい」
「うわ、あん時戦闘不能になってたのか…」
「わ、悪かったなっ」
「いいから、傷見せろって。ちゃんと塞がってるか?」
「シャントットの呪符に助けられたな。無事でよかった」
「『ホワイトウィンド』! 『ホワイトウィンド』!!」
 皆が肩で息をしながら仲間達の無事を確認し合い、それからエリアチェンジした境界の場所をじっと睨む。
「………本当に、来ないね。モンスター」
「ああ。確かに、エリアを越えてやってくることはできないようだな。これもある種の結界か…」
「みなさーん、ご無事ですこと?」
 そこへ、てってってっと小さな淑女がやって来る。
「アレマァ、見事にズタボロですわね」
「…面目ない」
「ま、初めて見る相手とやりあったのですから、全員生きて戻れただけでも充分良評価ですわ。…って、あら。MPカツカツじゃ ございませんの」
「激戦の証ッス〜」
 ティーダの口調を真似して、ピースサインを出すバッツ。
「君の『あおまほう』のおかげで、助かった」
「あはは、本気でMPすっからかんだけどな。ここまで足りて良かったぜ〜」
「ごめんなさい。私、逃げることしかできなかった。何の力にもなれなくて…」
「退却すると決めた時には、それでいいんだよ。抑えに回ったほうは、逃げるほうを守るために、抑えてるんだから、逃げる側は逃げ 切らなきゃ。ですよね、ライトさん」
「ああ。オニオンナイトの言う通りだ」
 ライトの言葉を話の区切りにさせるように、シャントットがパンパンと小さな手を叩く。
「ほらほら、こんなところで座り込んでいてはだらしないですわ。モグハウスに戻って回復しますわよ」
 すっかりその場でへたり込んでしまった四人だったが、シャントットの掛け声で立ち上がり、拠点と決めたモグハウスの部屋へ戻るため 歩き出した。



 この世界の冒険者ならモグハウスに入ればHPとMPは全快するそうだが、コスモス戦士達は冒険者ではない。休養できる場所として 利用することはできるものの、ステータスを回復させるには、一晩休むより他ないようである。
「まったく、融通が利きませんこと」
「クッポッポ〜…そんなのモーグリのせいじゃないクポ〜…」
「なにかおっしゃって?」
「ク、クポ…なんでもないクポ、すみませんクポ………」
「あ〜、なあ、それより何か飲物くれないか? 喉カラッカラでさ」
 明らかに理不尽に責められているモーグリに助け舟を出すバッツ。とはいえ半分以上は本音だったのだろう。突然極度の緊張を強いられる 苦戦を味わい、走りながら青魔法を連発したのだから。

 ―――――そしてこれが、事の発端といえば発端だったのである。






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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
 今は「海老」って言っても通用しないらしいですね。海原がメインジョブ上げでクフィムだった頃は普通に海老海老 言ってた記憶があるんですけどねー。
 あー、踊り子バッツにアスピルサンバとか踊ってほしい!! 吟遊詩人でバラードも捨てがたいですが!
 戦士スコールはうっかり詩バッツのメヌエットやマドリガルに聴き惚れて攻撃ミスるといいよ! シーフジタンになーにやってんだよっとかからかわれるといい!
 …げふん。さておき、今回ライト達がやたら苦戦している件について。
 FF11には「攻撃間隔」という、一種のステータスというかATBバーの代わりみたいな概念があります。DFFみたいにボタン がしがし連打してたらがしがし攻撃してくれるというわけにはいきません。必ず一定の間隔をあけて一撃、また一定の間隔をあけて一撃。
 そのへんをどう処理しようかなーと悩んだ結果、話としてここで苦戦してくれないと面白くないし先に繋がらないのでとりあえずめっちゃ 強かった的な感じにしとこう、と(なんじゃそら)。
 もうちょっと細かい部分を大雑把に言うと、DFFの戦闘スタイルでヴァナの敵と戦うとDFFキャラが一方的に敵をボコれるので、 有利すぎて盛り上がらない(やっぱりなんじゃそりゃー)というわけで、かなり敵強めの感じで設定してます。
 あ〜、バトル書くの楽しい〜(スコバツはどうした)(あ、あともうちょっと…もうちょっとで辿り着くので…!)