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for DREAMING-EDEN

第ニ章
『子供』

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「あ〜あ。折角地球に降りたっていうのにショッピングにも行けないなんて、つまんないわよね」
「こら! 遊びに来たわけじゃないんだぞ!」
「っっ」
 まるで観光に来たかのような暢気な言い様に、慌てて注意するアーサー。ルナマリアはぎくっとして慌てて振り返り、敬礼。彼女と共に だらけきっていたヴィーノ達も弾かれたように立ち上がって、敬礼を返した。
 緊急事態に次ぐ緊急事態、その連続がやっと終わったのだから、緊張が緩み気が抜けても仕方がないとは思うものの、しかしザフトの 基地に入港したわけではないわけで。オーブは中立国とはいえ、もう少しピリッとしていられないものだろうかと、アーサーはため息を ついてしまう。
「…とにかく、こんな状況だ。アスハ代表から暫定許可の降りているエリアからは絶対に出ないように」
「はっ」
「………」
 アスハの名にどうしても反応してしまうシン。だがアーサーはそんな彼の様子には構わず、足早にミネルバが固定されているドッグへ 向かって行った。


 今彼らが集まっているのは、ミネルバのレクルームではない。オノゴロ港の中にある、モルゲンレーテ社員用の休憩所である。二年前に アークエンジェルが度々入港したモルゲンレーテの秘密港とは別の、海路でオーブへ出入りする際の主用玄関口となる港だ。 モルゲンレーテ本社が擁する秘密港も密かに再建され、衛星からも察知されない造りは今も健在ではあるが、こことは完全に位置が違う。
 ミネルバ艦内は勿論のこととして、停泊しているドックとモルゲンレーテ施設内のごく一部、要するに今シン達がいる工場施設区画内に 位置しているこの休憩所だけが、カガリの独自権限で即時許可を出せる精一杯なのだ。
 確かに海を一望できる眺めは素晴らしいと言えるが、一面の窓ははめ込み型。海風を感じることはできない。それでも、ユニウスセブン 落下を最後まで阻止してくれたミネルバクルーたちの気持ちが少しでも休まれば、と。カガリはいずれ上陸許可も出す気でいたが、 それには色々と手順を踏み手続を取らなくてはならない。それまではせめて、景色だけでも。
 …とはいえ要するに、この休憩室からは、ミネルバの停泊しているドッグへ行くことしかできない。廊下へ続く扉を開けることは できても、その先へ足を踏み出すことはできないのである。中途半端であることは否めない。
 ヴィーノやヨウランは正直、「正式な上陸許可を降ろせるまでミネルバの中で待っててくれ」、で良かったんじゃないかと思いながら、 自動販売機のレモンティを飲んでいた。


「……………あぁびっくりした。副長って時々気配立てずに背後に立ってることがあるのよね〜」
 アーサーの姿が見えなくなってから、ルナマリアは備え付けのソファにぼふっと座って、肩の力を抜いた。
「お姉ちゃん、聞こえちゃうって」
「もう行っちゃったんだから大丈夫よ」
「いや、案外そこのウラに立ってて、オレらの話コッソリ聞いてたりして!」
「どこで誰が聞き耳を立てているかわからない状況であるという意味では、確かにそのとおりだ。気をつけろよ」
 普段から感情による抑揚の少ない物言いをするレイだが、妙に鋭い目つきで一同を見回して、警告のように告げる。
「…何よ、深刻そうに…」
「深刻そうじゃない。実際、状況は深刻なんだ」
「どういう意味だよ」
 ここに来てずっと黙っていたシンが、初めて口を開いた。
「考えてみろ。ザフトの新造戦闘艦が中立国であるオーブの代表を乗せて降下し、そのままオーブに入港したんだぞ。お前が地球軍の幹部 …いや、ブルーコスモスの幹部だったとしたら、こんな情報を手に入れて、それをどう受け取る」
 えっ、と一斉に一同の顔が歪む。
「ちょっとレイ、例え話でも妙なこと言い出さないでよ」
「…でも…私がもしナチュラルっていうか、地球連合の関係者とかだったら、…すごく感じ悪いと思う」
「メイリン!」
「だって、アスハ代表が議長と会ってたのって、極秘のはずだったんでしょう? それにアスハ代表って今、二年前に国を離れた元 モルゲンレーテの社員を意図的にプラントに避難させて、そういう方法でザフトへの技術供与をしてるんじゃないかって、大西洋連合から 突き上げられてるって聞いたよ?」
「そっか。コソコソ会ってたってことは、やっぱり連合側に隠しておきたい何かがあったんじゃないか、って勘繰られるってわけか」
 メイリンとヨウランの言葉に、レイは頷く。
「シン。お前の話だと、ユニウスセブンを落とした賊は、旧ザラ派ということだったな」
「…ああ。パトリック・ザラの取った道こそコーディネイターの正しき未来だ、とか言ってたから」
「そうなると、彼がモビルスーツに乗って現場にいたことも、格好の攻撃材料になる」
「ちょっと待ってよ!」
 どんどん悪い方へ悪い方へと向かうレイの話に、ルナマリアが立ちあがってストップをかける。
「あの人は破砕作業の支援のために出たんじゃない! それに、父親は強硬派でも、本人はクライン派でしょ? 二年前は、第三勢力の 英雄よ!」
「だが現実にユニウスセブンの破片が地球に落ち、それを落とした賊はザラ派で、現場にザラの血縁の人物がいた。しかも直系のな。 その事実だけ並べれば、関与を疑われても仕方がない」
「そんな無茶苦茶な!」
「連合にとってはオーブ吸収の願ってもない好機だ。この時のためにオーブの国家復権を認め、英雄であるアスハ氏の求心力を利用して モルゲンレーテを再建させたと言っても、過言ではないだろう。おそらく、本格的に乗っ取りに出てくる」
「……フン。今更こんな国手に入れて、何の得になるってんだ」
 シンの目元が怒りに歪み、ぎゅっと拳が握り締められる。

 家族を見捨てたアスハ。国家を守るというエゴのために、両親と妹を犠牲にした連中。
 勿論、連合のことは許せない。奴らが中立国に対して戦争に参加しろと強要しなければ、そもそもあの侵略戦争は起こらなかった。 …それは、わかっている。
 それをわかっていて、シンが更にオーブとアスハをも許せないと怒りを燃やすのは、彼らは中立を貫き切ってくれると信じていた自分達 国民を裏切ったからだ。そのために家族が、大切なたった一人の妹が、一体どうして犠牲にならなければならなかったのか。
 彼らは理想を振り翳すだけで、それを守れるだけの力を持っていなかった。確実に戦争に巻き込まれないと信じていた自分達を為政者達は 騙していた。そのことが、許せない。
 ただ戦争をしたくないと言うだけなら、子供にだって出来ることだ。それを貫く力があると、信じていたのに。

「オーブには彼を始め、先の戦争の英雄が多く身を寄せている。皆、素性を隠して生活しているようだが、連合がその気になれば調べ 上げることはできるだろう。彼らを旗頭に据えれば兵士の士気も上がり、勝率もぐんと上がる。それにモルゲンレーテが持つ技術は、 一部実際にザフトに組み込まれているとはいえ、まだまだ魅力的な筈だ。モルゲンレーテの製品は地球軍内で八十%を超えるシェアを誇る そうだからな。量産体勢を自軍の内部で整えられればそれに越したことはない」
「…ちょっと…やだ、勝率とか量産体勢とか…、それじゃまるで戦争の準備してるみたいじゃない」
「我々ザフトが強力な新型を開発しているように、連合も軍備を整えているだろう。その一環だと言われてしまえばおしまいだ。それに、 ブルーコスモスが新しい盟主を据えて勢力を維持しているという情報が本当なら、このユニウスセブン落下事件は奴らにとって好都合 この上ない。使わない手はないだろう」
「…それって…今度こそコーディネイターを一掃してやろう、とか考えてるってことかよ」
「可能性の話だ」
「っていうか、…ねえ、レイってどうしてそう物知りなのよ。ブルーコスモスの盟主の話なんて、聞いたことない」
「うん」
 顔を合わせて頷くホーク姉妹。話題が違えば、そして二人とも軍服でなければ、大変微笑ましい光景だっただろう。
「自力である程度調べることも必要だ」
「何よそれ、あたしたちがサボッてるって言いたいわけ?」
「そうは言わない。どこまで集めれば満足するかの差だ」
 唇を尖らせるルナマリアに、レイは真顔のまま答える。ヨウランが口を挟もうとしたとき、突然廊下側の扉が開いた。
「?」
「あ、開いた開いた。ほら、こっちだって」
「え〜? 違うよ〜、こんな道通らなかったよ〜」
「ゼッタイこっちだってば!」
 頭上にハテナマークを飛ばして顔を見合わせるルナマリア達。
 緊迫した話題の中に飛び込んできたのはモルゲンレーテの社員ではなく、姿も見えない子供の声。
 続いて、ひょこひょこひょこっ、と三つの頭が、開いた扉の間から現われた。
 まだ六、七歳くらいの男の子達。
「………」

 どう見ても、モルゲンレーテの関係者とは考えにくい。
 …ああ、社員の子供、という線ならあるのか。
 いや、しかし、何故こんなところに子供が。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)

………キラもアスランも出てこなくてすみません!
で、でもシンとレイがいるので………レイにいっぱい喋らせたので………。