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for DREAMING-EDEN

第ニ章
『子供』

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「…なんか、ちがうよ?」
「ねえやっぱりさっきんとこあっちだって! 早く帰らないとお姉ちゃんたちに怒られるよ」
「なあおい、ちょっと待てよ。…あれ!」
「…えっ?」
 指をさされたのは、シン。
 続いて子供達は、ぱあっと顔を輝かせた。
「うわあ…! ザフトだ! ザフトの人だよ!!」
「しかも服、赤だぜ、赤!」
「かっくい〜!!」
 わらわらと現われた三人の子供はシンに駆け寄り、物珍しそうに、いや、宝物でも見つけたかのようなキラキラした瞳で、シンの赤服と シンの顔を交互に見上げてくる。
「お兄ちゃんたち、ザフトのひと?」
「え? あ、ああ…うん、そうだけど」
「ほらほら、本物だよ!!」
「うっわぁぁ!!」
 英雄を見つけたかのように顔を輝かせる子供達。
「連合軍のヤツらをやっつけにきてくれたんだろ!?」
「ちがうよ、ブル…、ブル…ええっと」
「ブルーコスモス! けど、どっちもおんなじようなもんだって、カガリ姉ちゃん言ってたじゃんか」
 不意に飛び出してきた名前に、むっとシンの顔が一瞬歪む。こればかりはもう条件反射のようなものだ。
「こぉら、ボクたち。子供がこんなとこに入ってきちゃダメでしょ?」
 仁王立ちしたルナマリアが、まるで保母さんのように子供達を「めっ」と叱る。だが、遊び盛りの子供には効きやしない。
「探検してたんだよ! なーっ」
「なーっ」
 キラキラ輝いた大きな瞳は、ちょっと叱られたくらいでその輝きを失いはしなかった。
「オレたち、オノゴロに来るの初めてなんだ!」
「え?」
 代表であるカガリのことを「姉ちゃん」と呼ぶからには、アスハ家の関係者の身内か、或いは他の新氏族の子供かと思っていたシンだが、 どうやらそういうわけではないらしい。
「もっとちっちゃい島にいたんだけど、家がなくなっちゃったんだ」
 はっ、とメイリンが視線を送る。それを受けたレイも、小さく頷いた。

 この子供達も、ユニウスセブン破片落下で被災した避難民。

 だが、そんな痛ましさなどかけらも見えないほど、子供達は興奮している。
「すっげぇ〜え! 兄ちゃん、お姉ちゃんも! 連合軍のヤツら、ぶっとばしてくれよな!!」
「え?」
「あいつら、ユートの父さんと母さんを殺したんだよ」
「!」
 はっとシンの表情が変わる。
「ユートだけじゃない。あいつらのせいで、オレ達…帰るとこ、なくなっちまった」
「絶対絶対、ぶっツブしてくれよな!!」
「………」
 怒りと苦しみと悲しみを詰め込んで凝縮したような、純粋な光を放つ子供の瞳。
「…任せておいて! お姉ちゃん達が、悪いヤツらはたたきのめしてあげるから。ね!」
 ルナマリアがそう言ってガッツポーズをして見せると、子供達の顔は再びぱぁっと輝く。
「ね、シン」
「………ああ。必ず仇は取ってやる」
 赤い瞳に炎が灯る。

 いつもそうだ。
 こうして、何も力を持てない人達が、真っ先に犠牲になる。
 国だとか、勢力だとか、ナチュラルとかコーディネイターとか…。そんな下らないことで戦争をする連中は高みの見物ばかり。
 二年前は自分もこの子供達と同じだった。だが、今の自分には力がある。馬鹿馬鹿しい戦争に対抗する力が。
 だからこの子達の思いは、自分が汲まなくてはならない。そして、一方的に奪われる痛みを負わされるような人は、一人でも多く 減らしていきたい。
 目の前で守れなかったと打ちひしがれるのは、もうごめんだ。

 オレはアスハとは違う。
 オレは、必ず守り抜いて見せる。



「…ユート…ジョー、マイト…こっち…?」
 開きっぱなしの扉の向こうから、今度はか細い女の子の声。
「あら、まだ小さな探検家さんがいたのね」
「あ…っ」
 すっかり引率の先生か英雄の卵か、という気分のルナマリアが、振り返って扉に歩み寄って行く。子供達がぎくっとして顔を見合わせた ことに気付いたのは、レイとメイリン、そしてヴィーノの三人だけ。
「? どうしたの?」
「え…っと…」
 おろっ、と目を合わせるユート達。そこへ、さっきと同じように、ひょっこりと子供の顔が。
「ユート、……ジョー? マ………っ」
 現われたのは、ユート達よりも幼そうな、茶色の髪を高い位置にバレッタで留めている大人しそうな女の子。だが、彼女はシン達の姿を 見付けると、ぎくりと足を止めた。
「あなたもあの子達のお友達?」
 にっこりと笑いかけるルナマリア。だが、女の子はがくがくと膝を震わせ、ぎゅうっと手にしていたクマのぬいぐるみを抱き締める。
「? あなた、どう」
「ひっっ」
 どうしたの、顔色悪いわよ…と労わるはずだったルナマリアの手は、恐怖という名の拒絶によって空を掻いた。
 女の子は後ろへ逃れようとして、しかし震える足は思うように動かないのか、どすんと尻餅をついてしまう。
「い、いやっ、助けて、こないで!」
「え?」
 何か子供が怖がるようなものがあるのかと後ろを振り返るルナマリアだが、そこにはシンやレイや、子供達がいるだけ。
「? …なんにもないじゃない。なぁに、どうしたの」
「きゃああぁ!!!」
 ついに女の子は涙を流して悲鳴を上げた。その場にいる全員が、何事かとそちらを注目する。
 背中から刺さる視線に、ルナマリアは居心地が悪くて仕方がない。どこからどう見ても自分が泣かせたように見えるだろう。しかし 自分が一体何をしたというのか。これではまるで自分が凶器を持った犯罪者のようではないか。
「やっ、やだ、ころさないで、やめてぇぇぇ」
「…ちょっと…勘弁してよ。突然何なの?」
「いやぁぁぁ、おねがい助けて」
「マユ!!!」
 更に奥から飛び込んできた声に、ぎくりと固まったのは、今度はシン。

 ―――――マユ……だって!?

「マユ!!」
 自分の妹の名を呼びながら飛び込んで来たのは、ユート達よりも僅かに年上か、というくらいの黒髪の女の子。随分と大人びた雰囲気 だが、まだ年齢が二桁に達してはいないだろう。気の強そうな瞳が更につり上がっている。
「やだぁぁぁ!! ころさないで!!」
「マユ!」
「…殺さないでって、あのね…」
 何がどうしてこんなに一方的に悪者にされなくてはならないのか。泣きたいのはこっちだとげんなりしてしまうルナマリアの隣に、 シンが歩み出る。
「ちかよらないで!!!」
 マユ、と呼ばれている茶色の髪の女の子を庇うように抱き締め、黒髪の女の子がぎろりとこちらを睨みつける。怒りと憎しみに満ち 満ちた瞳で。
「マユに何するつもりだったのよ、人殺し!!」
「ちょっと、こら! 子供だからって言っていいことと悪いことがあるわよ」
「ミユ、マユ、この人達は大丈夫だって」
「あんた達、軍人なんかの味方するの!?」
 困ったように声を掛けるユートに、しかし黒髪の女の子は激しく反撃。それから、キッとルナマリアとシンを睨みつけた。
「ここは中立の国なのに、なんでザフトがいるのよ!!」
「そんなこと子供が気にしなくていいのよ」
 身に覚えのない敵意をあからさまにぶつけてくるミユ。ルナマリアが困ったような呆れたようなため息混じりで投げやりに答えると、 ミユの怒りは更に増加してしまった。
「人殺しが偉そうに、何よ!! さっさと出て行け!! それとも、お姉ちゃん達を殺しにきたの!?」
「さっきから聞いてれば人殺し人殺しって、人聞き悪いわね。この子達の親ってどういう教育してるわけ?」
「あんた達が殺したんじゃない!!!」
 えっ、とルナマリアが眉を顰める。
「あたしたちのお母さんは、あんた達が殺したんじゃない!! あたしはザフトを許さない、絶対に!!!」
「…かえして…」
 涙を流し始めたミユの後ろで、マユがぽつりと言った。
 その怯えた瞳には、シンが映っている。
「…マユの、ママと、マミお姉ちゃん…かえしてよぉ…」
「……………っ…」

 責められているのは、…自分?
 奪ったと、殺されたと、そう責められているのは、自分?

 しかも、奪われた大切な妹と同じ名の少女に。

 …………何で。どうして。
 何でオレが、こんなふうに言われなくちゃいけないんだ。
 オレはアスハとは違う。守るんだ、オレは―――マユ、お前を殺した連中に思い知らせてやりたいだけなのに!!

 無意識のうちに、マユと呼ばれた少女の姿に、大切な大切な妹の姿が重なってゆく。

「おねがい…ころさないで…ママたちかえして…」
『お兄ちゃんは…人を殺したの…?』
「たすけてよぉぉ……かえしてよぉぉ…」
『お兄ちゃん………人殺し…なの…?』
 違う!!!

 ただ、守りたいだけだ。オレはアスハとは違うんだ。守るべきものを、ちゃんとこの手で守って見せる。そのための力を手に入れて、 守るべき仲間をちゃんと守ったのに、なのに、――――――なんでお前がそんな目でオレを見るんだよ!!



「ミユ? マユ! ユート、ジョー、マイト、こっち?」
 混乱するシンの耳に、優しい声が響く。はっと瞬きをしたその瞬間、妹の幻は消えていた。
「あっ、お姉ちゃんだ!」
「やっべ、怒られるよ」
「ダメー!! 来ちゃだめ、ザフトの人がいるよ!! お姉ちゃんダメ!!」
 ユート達がぎくっと肩を震わせる一方で、ミユは相変わらずの調子で叫ぶ。
 だが、それに構わず、奥ではなく廊下の右手のほうから足音が近づいて、不思議な女性が現われた。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)

またもやキラもアスランも出てこなくてすみません!!
…えー…ちなみに最後に出てきたのは………………。
…以下次号!!!(号って何だ、号って)