for DREAMING-EDEN
第ニ章
『子供』
(3)
髪は首筋にかかる長めのショートカットで、茶色。絹糸のように美しくさらりと揺れて、自然な輝きを宿している。
前髪がかかる瞳。髪の間から見えるのは、魔性を宿すとも、真実の愛を宿すとも言われる、アメジストの光。
ドレスでも着せればどこかの女王と言われても女神だと言われても納得してしまいそうだが、すらりとした長身―――女性の中では高い
ほうだろう。恐らくシンよりもほんの僅かに高い―――が纏っている服は、まるで喪に服すかのような黒。そして、己を戒めるかのように、
袖やズボンにベルトが絡みつけられている。
「ダメっ、逃げて!!」
ミユが必死に彼女に叫ぶが、彼女は部屋を見渡すと一瞬にして状況を飲み込んだらしい。シンやルナマリア、レイ達に会釈をすると、
まずマユとミユを包み込むように抱き締めた。
「大丈夫。大丈夫だよ。…マユ、ミユ、彼らは戦いに来たんじゃない」
「ウソっ!! だってあの人たち軍人でしょ!!」
「誰だって、困った時には助け合うものだろう?」
ハスキーな声が紡ぎ出す、中性的な口調の言葉。ほんの小さな所作にさえ、どこかの王女であるかのような気高い気品を感じる。彼女
独特の不思議な魅力だと、シンは思った。
目が、離せない。
「大丈夫。大丈夫」
優しくマユの耳元でそう繰り返し、優しく抱き締める。
…ああ、この手が、あの日あの時、同じ名を持つ妹にも与えられていたなら。
甦る痛みに、そう思わずにはいられなかった。
こうして大きな手で包み込んで守ってくれる。オーブという国はそういう場所なのだと、そう信じていたのに。そしてその手がアスハの
一族であると、信じていたのに。
やがてマユは安心して気が抜けたのか、彼女の腕の中で眠ってしまったらしい。彼女はマユを抱きながら立ち上がり、こちらを見た。
「子供達がご迷惑をおかけしてしまったみたいで…。すみませんでした」
「…あ…、あっ、いえ」
彼女の雰囲気に飲まれていたのか、ルナマリアも魅入ってしまっていたらしい。弾かれたように我に返り、ぱぱっと顔の前で手を振った。
すっかりザフトの赤服という自分の立場が抜けてしまっている。
「ほら、ユート、ジョー、マイト。こっちへおいで」
「…はぁい」
しょぼしょぼと彼女の足元に帰っていく子供達。三人が三人ともしょげているのは、勝手にあちこち歩き回って怒られるかも…という
不安と、そしてミユに思いきり睨まれているからだろう。
「…あんたたちがマユのことほったらかしていきなりどっか行かなかったら、こんなことにならなかったんだからね。マユだって、こわい
思いして泣かなくてすんだのに」
「なんだよ、いきなりどなりこんできたのはミユだろ?」
「あたりまえでしょ!! …あたしは、ザフトだろうが地球軍だろうが、軍人なんか大ッ嫌い。国を守るとか平和を勝ち取るとか
えらそうなこと言ってるけど、やってることは結局人殺しじゃない。あいつら、みんなみんな無差別殺人犯じゃない。………絶対、一生
許さない…!!」
言葉の後半は、再びシン達に向けられる。ぎく、とシンの体が微かに退いてしまった。
少女の憎しみに気圧された一同は、黒衣の女性の瞳にほんの一瞬さした翳りに気づかなかった。ただ一人、冷静にミユの怒りを受け
止めていたレイ以外には、誰も。
「二人とも、落ち着いて。…とにかくみんな、戻ろう。ね」
優しく子供達に微笑み、それから、もう一度こちらを見る。
「お騒がせしてしまって、本当にすみませんでした。…それじゃ、失礼します」
「あっ、あの!」
頭を下げて、そのまま背を向けた彼女を、思わず呼び止めてしまった。
「はい」
しかし彼女は不審がることもなく、美しい瞳をもう一度シンに向ける。
戸惑ってしまったのは、呼び止めた本人のほうだ。かあっと顔を赤く染めてしまった。
彼女の瞳には、本当に何か魔力でも宿っていそうな気がする。
それほどに、言葉にできない、惹きつけられる何かを感じる。
「…あの、あなたは」
何か言わなければと焦ったシンの口から出たのは、大変抽象的な一言。
だが彼女は気を悪くすることもなく、穏やかに答えた。
「僕は、フィラ・ルーナ・ラーライラといいます。マルキオ導師様のお手伝いをしている者です」
「………ああ、お母さんだ」
ぽつんと独り言のように得心したメイリンに、そのとおりですと答える代わりにニコリと微笑んで、フィラと名乗った彼女は今度こそ、
子供達を連れて去って行ってしまった。
「…何よ、お母さんって」
「マルキオ導師って、ほら、前の戦争中に講和交渉のためにプラントと連合の橋渡ししてた人だよ。結局ダメだったみたいだけど。その
導師様が戦災孤児を集めて育ててるって話、お姉ちゃんだって知ってるでしょ?」
「ああ、それで『お母さん』か」
親を喪った子供達の、第二の母。血の繋がりはないけれど。
「それにしても、綺麗な人だったわね〜! かぁっこいー! 歳はあたし達とそんなに離れてないと思うんだけどなぁ、何が違うんだろ?」
惚れ惚れとそう言うルナマリア。同性の目から見ても、彼女は魅力的に映るようだ。しかし側で妹はぷぅと膨れてしまう。
「それ、お姉ちゃんが言うとイヤミ」
「イヤミぃ? 何がよ」
「…わかんないならいいよォ」
そのままぷいっとそっぽを向いてしまう妹に首を傾げる姉。そこに、レイが静かに口を開いた。
「ルーナ…。古代神話にある月の女神の名だな」
「ふぅん。女神様と同じ名前か。名は体を表すって、あの人のこというんでしょうね」
同じ月と、そして聖母の名を戴くルナマリアには、なまじ魅力的だとストレートに認められるだけに少々悔しい部分もあるらしい。
「それに、似ている」
え、とレイを振り返るシン。
「似てるって、誰に」
「…お前は気付かなかったのか?」
そちらのほうが意外だといわんばかりに、レイは続けた。
―――――カガリ・ユラ・アスハ代表に生き写しだ、と。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
ホーク姉妹はこうしてると和やかで潤いなんですが。
本編ではアスランを巡って火花散らしそうで怖いですね。
まだ実際そうなるかどうかは分かりませんが、前哨戦みたいなのは前にあったし…。
ところでやっとこさキラが出てまいりました。アスランとセットじゃなくてすみません。まずはシンです。でもツーショットじゃないです。
しかも偽名です。ごめんなさい。
ちなみに身長は本編公式設定のそのまんま…の筈です。確か、シンよりもキラのほうが2cm程高かったかと………。