for DREAMING-EDEN
第九章
『屈服』
(6)
そういった経緯があって、ヒロトは今、メイと共にカガリの前に立っていた。
苦しげに切なげに歪められた目元。悔しさに歯を食いしばり、縋るように指輪を握り締める手は小さく震えている。…痛々しくて
見ていられない。けれど、ヒロトは視線を逸らそうとはしなかった。
――――彼が目を背けたものから、僕は目を逸らさない。決して。
それはカガリへの想いと、そしてアスランへの意地も含まれている。憎むなというメイの言葉はわかるが、腹が立つのは仕方が無い。
だが感傷に浸る間もなく、横からにゅっとメイの腕が伸びたと思うやいなや、カガリは肩をぐいと揺さ振られた。
「しっかりしな! 代表!! 連合の核攻撃からこっち、テレビがずーっと喋ってた事だよ。予想してなかった事態ってわけじゃないだろ」
「っ………メイ……」
「こんだけいい加減ドンパチはやめろって言ってんのに、耳を貸さないバカどもが多いってこと、知らないわけじゃないだろ。あんた自身、
宰相達を振り切ってお忍びでデュランダル議長と会って、それを思い知って帰って来たんじゃないのかい」
「…あ………」
ゆっくりと大きな瞳が見開かれる。大き過ぎる力は争いを呼ぶ、だからこれ以上の武装強化をやめてオーブの技術と人材を戻して貰える
ようにと、自らアーモリーワンまで赴いて申し入れた。だが、議長は言った。争いが無くならぬから力が必要なのだと。そうして、
まるで取り合ってはくれなかった。
見開かれた瞳がゆっくりと伏せられ、俯いてゆく。
「しょげるのなんか夜寝る前になってからでいいんだよ。問題は、これからどうするかだ。セイラン家に先手打たれたら、それこそ
取り返しつかなくなる」
「…カガリ様。お辛いのはわかります。しかし今はどうか、これからのことに集中してください。これからの、オーブのことに」
「……………ああ………わかってはいるんだ。すまない…」
切れ切れにそう言うと、ぎゅっと指輪を握り、外から見えないようにそっと胸元に収めた。それから、キッと視線を上げる。
「プラントの積極的自衛権の行使…。これは、先日の連合による核攻撃があればこその、彼らの苦渋の選択だ。だが連合は、宣戦布告を
撤回どころか、我らを始め各国に対し、事実上の軍事同盟を結ぶよう圧力をかけてきている。このままでは二年前と同じく、連合か
プラントか、敵か味方か、世界をこの二つだけに分けて際限なく戦い合う事態になってしまう」
「ああ」
「我々は中立を貫き、ザフトとも連合軍とも共闘はしない。ですね、代表」
「その通りだ、ヒロト。………だが、それだけではやはりまた、二年前の繰り返しだ」
重いカガリの声に、ヒロトもメイも言葉をなくす。
あの時目の前で父を焼いた炎。その色が、アスハに家族を殺されたと憤る少年の瞳の色に重なる。いかに中立を保つといっても、
その結果また国を焼き民を死なせる、という事態まで繰り返すわけにはいかない。もしそんなことにでもなったら、オーブの志を身を
持って示した父や前宰相達に顔向けが出来ない。彼らの魂を哀しませてはならない。何より、今生きている民を守ることこそ、カガリの
命題であり、己が己に課した使命でもあるのだから。
第二第三のシンを作り出してはならない。絶対に。
…だが、どうしたらいい。確かに連合のやっていることは無茶苦茶だ。彼らと一緒に反プラントを叫んで戦うなんてことは論外だし、
勿論同盟を結ぶこともできない。だが、だからといってプラントと手を組んで連合を滅ぼすという選択も有り得ない。それはオーブの
理念に反する。何より、戦争のない世界に新たに開発した強力なモビルスーツを布陣し、その運用のために最新鋭の艦を建造するという、
まるでまた戦いが起こることを想定しているかのような、連合を挑発しているとも取れるようなザフトの動きは、決して賛同できる
ものではないからだ。
二年前に自分達は学んだはずだ。敵を作ってそれを滅ぼさんとすることは容易い。だが、それでは戦争は終わらないということを。
敵か味方かの二元論ではだめなのだ。どちらを味方にすればいいかという問題ではない。両者の争いをいかに止めるかが問題なのだ。
――――『殺されたから殺して、殺したから殺されて………それでほんとに最後は平和になるのかよ!!』
かつて自分がアスランを責めた言葉を思い出し、噛み締める。
撃たれたから撃ち、撃ったからまた撃たれ。今プラントと連合は、まさに再びその構図にはまっていきつつある。これ以上被害が拡大
する前に止めなくては。
だが、どうやって? どんなに考えてもそこへ戻って来てしまう。
ヒロトもメイも、それぞれに考え込んだまま。
「……………くそっ、連合がブルーコスモスに唆されて、核攻撃なんてしなければ…」
不意に、苛立ち紛れにヒロトが口にした言葉。
「…………………………それだ…、そう、それだ!!」
ガタッと音を当ててカガリが立ち上がる。だが、名案を思いついたにしては、彼女の表情は硬い。
「カガリ様?」
「何思いついたんだい、代表」
矢継ぎ早に二人が問い詰めてくる。
「…」
本当ならこんなことをしたくはない。実際、二年前に目の前でそれをしようとしていたヤツのことをカガリは止めた。
だが、今は。
「…もう…根本からどうにかするしかない…」
沢山のひとを悲しませてしまう。目の前にいる二人も、プラントに行ったままのアスランも、それに……………。
緑色のロボット鳥を肩に留めた半身が、ぽろぽろと涙を零す。…心に浮かんだそんな風景に、心臓を鷲掴みにされるような痛みを
覚えながら、それでもカガリは思いついた計画を実行に移すのだと決めてしまった。
「もう…誰かがこうしなきゃ、世界は止められない…!!」
ぶつぶつと呟くカガリを心配そうに見守るヒロトとメイ。カガリは眉間に似合わないシワを寄せ、視線を二人に合わせた。
「…説明して下さい、代表。大丈夫、監視は継続しています。盗聴の心配はありません」
「……………」
きっと馬鹿なことを言うなと怒鳴られるだろう。それでも。
「………派兵はしないという条件付きで、だが………連合と同盟を結ぶ」
ええっ、と凍り付いてしまうヒロトと、険しい表情になるメイ。
「どういうことか、詳しく聞かせてもらおうじゃないか」
こくりと頷き、カガリはその計画を、二人に打ち明け始めた。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
カガリ決意編とでも銘打てばいいでしょうか。説明ばっかりの理屈っぽい話が続くなぁと読み返して思いましたが
うまく書き直せる自信も気力も時間もなくそのままUP…orz
ちょこちょこと訂正したいところもあるので、後から改稿するかもしれません。ていうか、したい(>_<;)