++「BRING ME TO LIFE」序章++

BRING ME TO LIFE

序章







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 いつものように指定された場所へ赴くと、見なれた黒い車が停まっている。
 一目で高級車と分かる、VIP御用達のデザインの車が。
 彼は慣れた様子でするりと後部座席に乗りこんだ。
「…珍しいですね。…あなたのそのような顔は初めて拝見する」
 隣に座る人物は、いつもの威厳に満ちた表情は薄れ、苦虫を三十匹くらい一度に噛み潰したような顔をしていた。
 要するに、超絶不機嫌であることを隠すことも出来ぬ程の不測の事態か。
「…オペレーション・スピットブレイクは一時凍結だ」
 仮面の下で、驚きによって僅かに目が見開かれる。
 そして、何故、と問う前に答えは提示された。
「『ラボ』からの圧力がかかった」
「?」
 仮面の下で怪訝に顔を歪めたが、ハッと気付く。

 まさか。

「…例の極秘研究機関の、あの『ラボ』から、ですか?」
 さらに苦虫を十匹追加したような渋い顔で頷く。
 …まさか。
 今頃になって、なぜ。
「…さては、今回私が突然本国に召集されたのも、捕虜受け渡しの任にクルーゼ隊を指名しておきながら、実際にはご子息とラクス嬢が 使者として名指しされたのも、彼らの圧力ですか」
「そういう事だ」
「しかしその意図が掴めませんな。オペレーション・スピットブレイクまで足止めするとは、一体どういうつもりなのか…」
 軽く煽るだけのつもりだったのだが、彼は重い溜息をついた。…珍しいことは続くものである。
「…こうなっては仕方あるまい。…『ラボ』が何をしているのか、君も知っておいた方がいいだろう」
「? 『ラボ』が何を開発しているのかは存じておりますが」
 何を今更、と言葉を返すが、しかし男は再び小さく溜息をついた。
「……それは表向きの話だ」

 そして、秘密を語り出す。




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