BRING ME TO LIFE
第二部第一章・『天使の種』
(3)
「……………あの、それじゃ…さっきのは何だったんですか?」
絶句した一同の中で、おずおずとミリアリアが口を開く。
「さっきの?」
「あの、キラ達が紫色の光るシャボン玉みたいなのに包まれたり、紫色の光の環が現れて、稲妻みたいなのが迸って…」
「ああ、あれか。んなもん、こっちが聞きたいぜ」
「え?」
「最初に言っただろう。俺だって、全部を知ってるわけじゃない。俺が聞いたのは、『発芽』して兵器として目覚めた『ANGEL-WEAPON』
には、羽根が生えるって話だ」
「羽根?」
「そう。厳密には鳥類と同じ羽根じゃないらしいが、とにかく、体内で精製したエネルギーを破壊力として体外へ放出する為の器官として、
六枚の羽根が生えるって聞いてたんだ。だから『ANGEL-WEAPON』ってのは、無限エンジンを積んだ人間サイズのMSだと認識したらいい
って、そう言われてたんだぜ? けど、キラには羽根なんざ生えないし、あんな超常現象起こすなんて話も聞いてない。あのバリアみたい
なもんは、『発芽』の瞬間に起こった副反応なんだと思うが、光の環のことはさっぱりわからん」
「………それについては、僕に心当たりがあります」
「えっ?」
落ちついた声に、思わず一同の注目がそれを発した主へと集まる。
ニコルは難しい顔をしてはいたが、おそらくフラガ以外では彼が一番冷静に話を受けとめていたのかもしれない。…そんな雰囲気だった。
「…すみませんが、キラさん本人とフラガ大使とカガリ大使、それに…アスラン以外の方は、一旦退室していただけますか」
「え、それってオレ達がいちゃまずいような話なわけ?」
「…それは僕には判断しかねます。とりあえず深く関係のある方だけ残って頂いて、あとはフラガ大使に判断してもらいたくて」
すかさず突っ込んだディアッカにではなく、語尾はフラガに向ける。彼は、ん、と少し眉を上げたように見えた。
「…わかった。悪いがみんな、とりあえず出ててくれるか」
全員を見渡して言うフラガ。
「……………」
無言でイザークが立ち上がり、ディアッカが続く。
「…あの…、でも」
「……っ」
心配そうにキラを見るミリアリアと、声を掛けようとして言葉の出ないトール。咄嗟に立ち上がったものの、その先の一歩を踏み出せ
ない。
「トール、ミリアリア。…いいから、一度出よう。……ほら、フレイも」
サイがトールの体をドアに向けて、ミリアリアの肩をぽんと叩く。それからフレイを振り返って、やはりそっと肩に手を置いて、促す。
「……………」
ただ黙って、厳しい表情で話を聞いていたフレイ。サイが肩を軽く揺すると、誰にも視線を合わせようとしないまま、その手を振り払う
ようにすっと立ち上がり、一人で部屋を出てしまった。
そうして、ぞろぞろと一同は廊下に出た。
自分が指名した人物だけになった部屋で、ニコルは心を決めた。
そしてアスランを、それからキラを見つめて、はっとしてしまう。
「…キラさん、顔色が凄く悪いですけど…大丈夫ですか?」
「え?」
確かにあまりにとんでもないことを宣告されてショックはショックだが、そんなに心配されるほど青ざめているのだろうか。
…なんだか感覚が麻痺してしまっているような感じだけれど、自分で思っている以上に、ショックを受けているのだろうか。
「……本当だ……。キラ、一度休んでからにしたほうがいい」
「そうだな。ちょっと、医務室開けて」
「ま、待ってください。大丈夫ですから」
ニコルの指摘がどんどん広がっていって、逆にキラのほうが慌ててしまう。
「けどキラ、本当に真っ青だぞ」
「大丈夫。…こんな中途半端なまま、話を宙に浮かせとくほうが嫌だよ」
はっきりとそう告げると、アスラン達は一応納得した様子で、医務室へ運び込むことは諦めたようだ。
そして、ニコルが一度、深呼吸。
「………キラさんは妊娠しています。アスラン、あなたの子供です。間違いなく」
ある意味、フラガの話以上の爆弾発言。
「……………妊娠………」
「………………子供………?」
呆然と呟く、アスランとカガリ。
キラは思わずぱちくりと目を瞬かせて、自分の腹部に両手を当てる。
「……………」
まだ心臓の音や蹴ってくる感覚なんてないけれど。
…ここに、新しい命が?
「お…おい、本当か!?」
「はい。間違いありません」
きっぱり言い切るニコルに、思わず笑顔が溢れるフラガ。
「本当かよ!? おい、良かったなキラ!!」
「………………え……」
「くっそー、俺だってまだ彼女に手ェ出してねぇってのに、このマセガキ!!」
「っ!! なっ、何するんですか!」
ばんっと遠慮なく背中を叩かれて、反射的に抗議するアスラン。
「おめでとう! 良かったな、お前ら!!」
だが、次の瞬間返された満面の笑顔に、言葉を失ってしまう。
祝福の言葉。
…キラが兵器で、自分達も造られた存在だなんてことを言った口が、今は嘘偽りの無い祝辞を述べている。
そのフラガの笑顔が、思い出させてくれた。
言葉だけでは頷ききれなかった。けれど、その笑顔を、弾んだ声を、自分のことのように喜んでくれるその心を感じた瞬間、理屈では
なく感情で、心にすとんと降りてきた。
そうだ。キラは人間だ。
兵器だとか何だとか、そんなのは研究者達が勝手にそう定義づけているだけ。
キラは、生きている人間なのだ。こうやって、女性として新しい生命を育むこともできるではないか。
新しい、生命を。
……生命?
「…」
笑顔になりかけたアスランの顔が、小さく引き攣った。
「……アスラン?」
その些細な変化に気付いたキラが、不安そうに自分を振り返る。
はっと気付いて、ぽんと頭を軽く叩いてやる。
「………ニコル」
だが、それから彼に向き直って。
「……いくらなんでも早過ぎる。…本当なのか、それは」
「…はい」
難しい顔で、ニコルは更に続ける。
「既に、普通なら八週目に入っているくらいまで成長しています」
「えっ!?」
この数日で、二ヶ月分もの成長を?
フラガの表情から笑顔が消え、キラとアスランも不安そうに見詰め合う。
「……それに」
言い辛そうに、ニコルが口を開く。
「さっきの光の環についての話ですが、…ひょっとして、キラさんのお腹の子も、『ANGEL-WEAPON』としての何らかの力を受け継いでいる
んじゃないでしょうか」
「え?」
「つまり、……キラさんには、研究者達の想定した『ANGEL-WEAPON』成功体二人分の力が内在している状態なんじゃないかと思うんです」
言い難いことでも言わなければならないなら、一気に言ってしまった方がいい。そう腹をくくったのか、後半を一息に告げた。
―――――やはり……普通の子供ではないのか。
生体兵器として生み出されたという、自分達の間にできた子供は。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
……少ない脳みそふり絞ってます。
後から辻褄合わないところが出てきそうで怖いです。
…とかいってさりげにお子様の話題をスルーしてみたり(笑)
ニコルが第一部第十章(1)でキラの、第十四章(1)でアスランの血も採ったのが(一応)複線(のつもり)です。
キラの妊娠に気付いて、犯人捜し(笑)検査が増えたのもその確認のため、ということで。
この時代になれば妊娠中の胎児のDNA検査も今より簡単かつ素早く出来るようになっているはず。多分。
はい、この時点でニコルが気付くということは、……一回目の黒ザラが降臨した時ですね!!