++「BRING ME TO LIFE」第二部・第二章(1)++

BRING ME TO LIFE

第二部第ニ章・黒い思惑
(1)









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 廊下に出された面々は、何をするでもなく、どこへ行くでもなく、ただそこで呆然と立ち尽くしていた。

 キラが生体兵器。アスランとカガリも、その仕組みの一つ。

 …そんなことを突然言われて、へえそうだったんだ、なんて軽く返せるわけがない。
 皆、一様に複雑な表情で黙りこくっている。



 そこへ、アイシャが駆けてきた。
「あなたたち、話は終わったの?」
 落ちついた声に、皆がはっと振り返る。
「…サバーハ大使。あなたも知ってたんですか。キラの、あいつらのこと」
「ええ」
 ディアッカの問いにさらりと返す。そして、それどころではないとばかりにサイ達を見回した。
「カガリ大使代表は?」
「…まだ、話があるって…部屋に…」
 え、と扉を振り返ったのを計算したかのように、プシュン、と扉が開く。
 深刻な顔をした、キラ達が出てくる。
「キラ」
「キラ、…」
 サイやミリアリア、ディアッカも。駆け寄ろうとするのだが、あと一歩の足が踏み出せない。駆け寄って、それで…なんと言葉をかければ。
「お前、真っ青だぞ。少し休んでこい」
 そんなふうに躊躇する一同の中、イザークは一人すたすたとキラに歩み寄り、はっきりとものを言った。
「ううん、大丈夫だよ」
 しかしキラは、いつもの笑顔でそう言葉を返す。
「大丈夫って顔じゃないから言ってるんだ」
「……」
 なんだかさっきから顔色が悪いと言われっぱなしのような気がする。…そんなに危なっかしい顔をしているんだろうかと俯くと、ぽん、 と軽く頭を撫でられた。
 顔を上げると、アイシャが優しく微笑んでいる。
「カガリ大使代表、いいかしら」
 だが彼女はすぐに表情を引き締め、カガリを捕まえる。
「本国から緊急通信が入っているわ。アスハ前代表から」
「…お父様から?」
 ぼんやりとその言葉を返す。
 …違う、血の繋がりはないのだと、つい今言われたばかり。

 だが。
 ならば、一体誰が私の父だというのだ?
 自分を、キラとアスランをも創り出したという、研究者達だとでも?


 ―――――――違う!!
 そいつらは親じゃない。例えばそいつらが、生命体として育みこの世に生み落としてやったのは自分達だと主張したとしても、そいつら は『親』じゃない。
 あたしにとって、父親はウズミ・ナラ・アスハ以外にありえない。いままでもこれからも、絶対に。
 それを確認した瞬間、ピンとカガリの糸が張りを戻した。

「わかった」
 はっきりと、返事を返す。
「平和大使は全員集まるようにとの指示よ。さあ」
「えっ」
「は、…はい……」
 不満そうなサイ達。ミリアリアはキラを振り返るが、キラは少し申し訳なさそうな微笑みを返す。
「ありがとう、みんな。僕は大丈夫だから。…ごめんね、また迷惑かけちゃって…」
「…キラ…」

 強い。
 なんて毅いのだろう。
 お前は人間ではない、破壊兵器だ、…などと宣告されて、ショックを受けていない筈がないのに。
 なのに、アスランに支えられているとはいえ、こうして自分の足を地に付け、立っている。一度は失いかけた意識を、それでもこうして 保っている。


「アスラン君、あなたも来て頂戴」
「え?」
 サイ達の感慨を吹き飛ばしたのは、アイシャの厳しい声。
「キラちゃんを巡って、あちこちで争奪戦が始まっているのよ。この基地の責任者だけでは、どうにもならないわ。あなた、身元引受人 としてしっかりあしらって来て頂戴」
「………キラを巡ってって…どういうことですか」
「ザフト、オーブ、大西洋連合は勿論、ユーラシア連合や他の組織も……キラちゃんを欲しているということよ。どういう思惑でという のは、それぞれ違うけれど」
 それでも、己の勢力が優位に立つためにキラを奪い合っていることに違いない。
 思わず、ぎゅっとキラの手を握るアスラン。
 キラもその手を力なく握り返す。

 先ほど見せつけられたキラの力。
 確かにあんな凄まじい力が戦争に投入されれば、あっという間に決着はつくだろう。
 そして、キラという兵器を有している組織こそが、その後の世界の覇者になれるというわけだ。
 例えばキラの力を戦争終結のためだけに行使したとしても、キラの身柄を所有している組織に対し、世界中が脅威を感じるに違いない。
 キラは完全に兵器として、破壊と畏怖の対象になってしまう。
 ………絶対に、そんなことにさせるものか。
 キラは人間だ。人間なのだから。
 所有だとか、獲得だとか、そんなことを決める権利は誰にもない。
 キラは誰かに所有されるような存在じゃない。一人の、人間なのだから。

 キラは、俺が守る。護りきって見せる。
 彼女のなかに宿る新しい命も。

「……そっちにはオレ達が行く」
 アスランの決意をよそに、横でそう言い切ったのはイザーク。
「お前はキラについててやれ」
「…イザーク…」
 思わずキラとアスランの声が重なる。
 イザークはアスランに頷いて見せると、キラの肩に手を置いた。
「安心しろ。お前はどこにも渡さない。オレ達が守る」
「そーいう事」
「まかせて下さい」
 ディアッカとニコルも続いて微笑みかける。
 頭の上には再びアイシャの手が乗せられて。
 反対側の肩には、フラガの手がかかった。
「お前は、今は自分のことだけ考えろ。いいな」
「…フラガさん……、でも」
「今キラちゃん本人が出たら、かえって話がややこしくなるから。だから、私達にまかせて。大丈夫、絶対にエルクラークには渡さないわ」
「エルクラーク?」
 聞き馴染みのない固有名刺に、思わずオウム返しに問い返す。
 その様子に、一瞬怪訝な表情になるアイシャ。それからフラガが、あっ、と小さく声をあげた。
「しまった、まだ言ってなかったな」
「もう、大事なことを忘れないでほしいわ。鷹って物覚えの悪い鳥だったかしら?」
「そう嫌味言うなよ。…っと、急ぐんだったな。お前ら、手短に言うぞ」
 ぐるっと子供達を見まわすフラガ。それから、カガリ、アスラン、キラに視線を移す。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
鷹は賢い鳥だったはず。
ていうか、鳥って種類問わず全体的に賢いと思ったんですが。
烏なんて、数十箇所ものエサ置き場の場所と、それぞれの賞味期限までちゃんと分かってるって話ですし。
(本編と全然関係ない話でスミマセン…)