BRING ME TO LIFE
第二部第ニ章・黒い思惑
(2)
「エルクラーク財団の名前くらいは知ってるな」
「え…は、はい。名前だけは…」
オーブ国営企業であるはずのモルゲンレーテへの、事実上の親会社と言ってもいいほどの出資額。一応の情報公開は行われているが、
本当にただ一応といった程度のもので、不透明さが拭えない組織。ナチュラルとコーディネイターの両者がバランス良く構成している団体。それが、エルクラーク財団。
レベルの高い教育施設を擁していることでも有名だ。しかもそこの卒業生はほぼ例外なく、エルクラーク財団内や直営・傘下企業、
社内の機関へエスカレーター式に就職・所属している。
キラやアスラン、サイ達やイザーク達も、そういった世間一般的な情報と名前だけは知っていた。
「そのエルクラークのなかにある、エルクラーク研究機関。そこが、お前らを創り出したところだ」
「!!」
ぎくっ、とキラ達三人の体が強張る。
フラガは厳しい表情で、再び子供達を見回した。
「…いいか。だからこそ、エルクラークにだけは、絶対にキラを渡すな」
「……どういう意味だよ、そりゃ」
色々とややこしい理由もあるが、それを説明していると長くなる。ディアッカからの問いに対し、フラガは一番分かり易い理由だけを
示した。
「一般にエルクラーク財団会長と発表されている人物は傀儡にすぎない。実権を握っているのは、ムルタ・アズラエル。…地球連合産業
理事であると同時に、ブルーコスモスの盟主でもある男だ」
「な…っ!?」
動揺が走る。
矛盾している。
反コーディネイターを掲げテロを繰り返す、ブルーコスモス。その盟主が、自分の所有する財団で遺伝子を操作した生命体を研究していた?
それでは言っていることとやっている事がまるっきり正反対ではないか。
…しかも。
「ちょ…っと待って」
思わず呟いたのはミリアリア。
「……それじゃ……その人がキラのこと、人間じゃなくて…銃やMSみたいに兵器扱いしたとしたら………」
「……………」
戦車や人間を砂のように崩し去っていった、キラの力。
それがブルーコスモスに利用され、ただ破壊力として、道具として、プラントに向かって行使させられるようなことになれば。
戦争は一晩で終わるだろう。
だが、その先に待っているのは、恐らくアズラエルという男の独裁。彼の望む理想世界。大人子供を問わずコーディネイターは全滅し、
そしてコーディネイターと共存しようとしていた人々も、同じように皆殺しにされてしまうのではないだろうか。
「……僕は……そんなことしない」
硬い声。
「お前の意思を消されたとしたらどうなる」
同じように硬い、フラガの声。
「新しい遺伝子から破壊兵器作ろうなんて発想する連中だ。お前の頭にチップでも埋め込んで操作するくらい、朝飯前だろうな」
「そんなこと、絶対にさせない」
厳しく言い切ったのは、アスラン。
握っていたキラの手。その指と指の間に自分の指を絡ませて、きつく握り締めた。
ふ、と表情を緩めるフラガ。
「だから。エルクラークにだけは渡すなって言ってるんだろ」
「あら、例え相手が誰であろうと、キラちゃんを渡す気はないわよ? …さ、もう行かないと。出遅れたら痛いわ」
「もうとっくに遅刻の時間っしょ。同じ遅刻するなら、ガッチリ結束固めてからな」
「それならもう充分だ」
きっぱりと言い切ったのは、カガリ。
「…キラを守る」
例え相手が誰であろうと。
渡さない。
ザフトも地球軍も平和大使も関係なく、ナチュラルとコーディネイターも関係ない。
キラを守る。
その心は一つ。
サイも、イザークも、トールも、ディアッカも。全員が頷き合う。
「お前は少し部屋で休んでろ。ほんとに顔真っ青だぞ」
「カガリ…」
「大丈夫だ。任せろ」
勝利の女神が力強く微笑み、それからサイ達を率いて、アイシャに案内させながら歩き去っていく。
「オレ達も行くぞ」
「アスラン、キラさんをお願いします」
「ああ。…頼んだぞ」
「誰に向かって言ってる」
自信満々に言ってやると、そのまま基地責任者の元へ。
「…行こう、キラ」
とにかく、部屋へ移動して、キラを休ませなければ。
肩を抱いて促すと、キラは微笑して小さく頷き、部屋に向かって歩き出した。
だがその途上、意外な人物との再会を果たすことになる。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
キラ守備隊結成(笑)
当面の天敵はアズラエルということになりますが、さてはて。
………さてはて、次はちょーっとめんどくさい話になりそうです…。