BRING ME TO LIFE
第二部第ニ章・黒い思惑
(4)
「そもそも彼女に破壊兵器として生きる意志があるのかどうかさえ、貴殿は確認していないのではないのか。あのような力を己が発した
ことに一番驚き衝撃を受けているのは、当の本人のはず」
「おや、それは何を根拠に?」
「キラ・ヤマトは、自分の出生を知らされておらん。カリダ・ヤマト女史を母親と信じて疑っていない」
「我が娘も同様に私を父と信じている、…ですか?」
「アズラエル殿」
ぎろりと睨まれ、ひょいと肩を竦める。
「これは失礼」
「しかし、アスハ前代表の言葉も尤もだ。そもそもサンプル本人には、絶対に正体を教えないという条件だったではないか。そんな状態で
目覚めた破壊兵器…、暴発の恐れはないのか?」
ぴく、とアスハ前代表の顔が角度を変える。彼が見たモニターには、プラント側の代表者であるシーゲル・クライン議長の代理人、
エザリア・ジュール議員が映っていた。
「あのような恐ろしい能力を、本当にあんな小さな少女がコントロールできるのか? もしも本人が持て余し、現存するありとあらゆる
生命がすべて滅びるようなことになってはどうする!?」
「む…、それもそうだ。その娘は大丈夫なのかね」
「ですから、それも含めてこちらでちゃんと性能を確認すると」
「確認とは、一体どうやって確認するのかね! 地球を消す力もあると実証致しました、などと言われては困るぞ!!」
「それはこちらとて同じこと、血のバレンタインの二の舞はごめんだ」
エザリアは女性特有のきつい視線で、地球連合軍側の代表者達を睨み付ける。
彼らはムッとした表情で、口を開きかけるが。
「このままでは埒があきませんな」
満を持したように、仮面の男が口を開く。
チッと小さな舌打ちが聞こえたような気がした。アズラエルだろう。彼も同じように場の流れをさらっていくタイミングを伺っていたに
違いない。
「そもそもキラ・ヤマトが『ANGEL-WEAPON』であることを知っているのは、我々を始めごく限られた者ばかり。公的には彼女、いえ、
『彼』はまだ、私の部下が身柄を拘束した地球軍の捕虜に過ぎない。まずは私に話を通していただくのが筋かと思うのですが」
「おやおや…。これはこれは失礼しました。ラウ・ル・クルーゼ隊長殿」
慇懃にそう切り出すアズラエル。
「では、こうしましょう。キラ・ヤマトはコーディネイターを裏切った地球軍の軍人。ザフトにつかせてもいつ裏切るかわからない。
かといって地球軍に戻っても、いつ本来同胞であるコーディネイター側に寝返られるか不安だ。間を取って、エルクラークで社会復帰
させましょう。…どうです? 一番無難なシナリオじゃありませんか」
「それでは本末転倒だ!」
バン、と机を叩いたのは、ユーラシア連合の代表者だ。
「性能確認だ何だと難癖をつけて、いつどこの部隊が生贄にされるか、わかったものではない!!」
「そういうことだ。そうやって『ANGEL-WEAPON』を隠匿し、こっそりと地球軍に渡して、プラントを全て宇宙の塵と化そうというのでは
ないのか? モルゲンレーテが極秘裏に地球軍のMSを開発していたように」
再びエザリアが牽制に出る。
「そもそも、ムルタ・アズラエル。地球軍産業理事などと言っているが、貴殿が反コーディネイターのテロ組織、ブルーコスモスのトップ
であることは周知の事実。貴殿にあれを渡したが最後、我々を消そうとするのは目に見えている。そんなことは断じて認めるわけにはゆかぬ!」
そしてその牽制の矛先は、当然のようにアズラエルへと向けられた。
彼はまた、やれやれと肩を竦める。
「嫌ですねェ。確かにボクはブルーコスモスの盟主をやってますけど、エルクラークはあくまでも科学の発達とビジネスの一環として
持っている組織ですよ。いってみればエルクラークは公、ブルーコスモスは私。そこはきっちり、けじめつけてるんですけどねェ。
ブルーコスモスが反対している遺伝子操作をエルクラークで研究していることからも、それは察して頂けると思ったんですけど?」
「ハッ。とても信じられんな」
だが、にやにやと笑うアズラエルの言葉を、エザリアは一刀両断。
「貴殿の言うところの公であるはずのエルクラークの子会社が、地球軍の新型機動兵器開発を極秘に請け負っておきながら、よくも
ぬけぬけと嘯けるものだ」
「子会社と言っても、ウチは出資してるだけで、実質モルゲンレーテはオーブとのパイプのほうが太いですからねェ。実際、ヘリオポリス
であんなもの作ってたなんて、ボクは知りませんでしたから。その件はオーブに言って下さい」
さりげなくウズミのほうへ矛先を逸らしたつもりだったのだが。
「ほう? 地球軍産業理事でもある貴殿に、その情報がなかったなどとは言わせぬぞ」
エザリアはあくまでアズラエルを標的に据え、それを変えるつもりは今はないようだ。
内心臍を噛みながら、やれやれと肩を竦めて見せる。
「そうそう、一つ訂正させて下さい、ジュール議員。ボクは、地球『連合』産業理事です。戦争は軍部にお任せしている身ですから、
トップシークレットの掛かった兵器開発情報なんてボクのところまでは回されて来ませんよ」
「貴様、まだ言うか!!」
「失礼、論点がずれているようですが」
エザリアの堪忍袋が完全にぶち切れる直前、再びクルーゼが口を開いた。
「話を要約すると、ここにいる全員が、キラ・ヤマトの身柄を欲している。そして、誰が彼女を所有することになっても残った者には
それぞれ都合が悪い。なぜなら、見えないところでいつ自分達の命が脅かされるかわからないから。……といったところですかな?」
「……と、いうことのようですな」
渋い顔で頷いたのは、アスハ元代表。
プラントに引き取られれば地球連合が、大西洋連合やユーラシア連合に引き取られればプラントが、エルクラークに引き取られれば両者が
無差別に、『ANGEL-WEAPON』の破壊に怯えることになってしまう。中立国オーブに引き取られたところで、それは同じだ。
あれだけの力をもつ破壊兵器が、どこで何をしているかわからなくなる。…それは変わらないのだから。
「私としても、この状況で彼女をいつまでもあの基地に留め置くわけには参りません。記録は消すことができても、目撃した人間達の
記憶を消して回るわけにはいきませんので」
「…クルーゼ隊長。何が言いたいのだ」
落ち付きを取り戻したエザリアは、胡乱なものを見る目つきでクルーゼを見据えた。
彼とてザフトの軍人なら、ザラ国防委員長の指示を受けている筈なのだ。何が何でも『ANGEL-WEAPON』の所有権を譲るな、と。それは
クライン議長を介さず自分にも打診されたことだ。なのに、このまま留め置くわけにはいかないなどと言い出すとは、一体どういうつもり
なのか。
当のクルーゼは、すっと仮面越しにモニターを全て見回した。
「…つまりキラ・ヤマトがどこで何をしているか、常に全員が把握できる状態であれば納得していただけるでしょう。その上で、そこへ
『天使の種』の担当研究者に出向いて頂き、アズラエル殿の言う性能確認を全員が把握できる状態で行う。同時進行で、最終的にどの
組織が『ANGEL-WEAPON』を所有するかの議論は引き続き行う。…現段階での妥協案としては、最も適当かと存じますが。皆様?」
「…そんな都合の良いところがあるというのかね」
眉間にシワを寄せた大西洋連合の代表者。だが、それを待っていたかのように、クルーゼの隣に三人の女性が現れた。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
………。
ああ、どうか後からボロが出ませんように……。
ダメダメじゃん海原。ぐふっ。