++「BRING ME TO LIFE」第二部・第二章(5)++

BRING ME TO LIFE

第二部第ニ章・黒い思惑
(5)









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「ふざけんなよ!!! なんなんだよ、こいつら!!」
「トール!!」
 モニターを殴りつけようとしたトールの拳を、咄嗟にサイが掴んだ。
「離せよサイ!! 畜生っ、こいつら」
「モニター殴ったって、お前が怪我するだけだろ!」
「トール! お願い、落ち付いて!!」
 ミリアリアにも制止されて、息を乱したトールは「くそっ」とサイの手を振り払った。

 やがてモニターの中では、現れた三人の女性に圧され、渋々クルーゼの案を通すといった形で話が決まった。
 キラの所有権を巡る次の会談の予定をさっさと決めて、通信会議は解散する。


「……………こういう連中と、戦っていける自信はある?」
 腕を組んで壁にもたれていたアイシャが、すっと子供達に歩み寄る。
「もう、ただキラちゃんをオーブに連れ戻せばいいっていう状況じゃなくなったことは、これでわかったわね」
「………」
「ああいう小狡い駆け引きばかりを仕掛けてくる連中と戦う気はある?」
「あるよ!!」
 即座に答えたのはトール。
「絶対キラをあんなヤツらに渡さねぇからな!!」
「うん」
「俺も、引く気ないですから」
 息巻くトールにミリアリアが頷き、サイもアイシャへ真っ直ぐに答えた。
「…よし。なら、これからあたし達がどう動くかだな」
 答えなど聞くまでもないとばかりに、カガリは次のステップへ話を進めようとする。
「あら。急に頼もしくなったじゃない。なんてこと言うんだってアズラエルに食って掛からなくてよかったの?」
「茶化してる場合か。…それでキラを守れるならそうするさ。……さっきの密談は、あいつらには気付かれないように傍受してたんだ。 あたしが乱入したらキラやお父様を返って窮地に追い込むことになる。…あたしにだって、それくらい分かるさ」
 即答された言葉に、アイシャはにっこりと微笑む。それが聞きたかった、とばかりに。
「キラの移動が決まったとなると、当然あたしたちもついて行くことになる。キラをオーブへ連れ帰るっていう、あたしたち平和大使の 目標は変わらないわけだからな」
「ちょっと待て。その前に、……どうする。カズイ」
「え、えっ!?」
 不意にフラガから声をかけられ、びくっと肩を震わせるカズイ。
「これからは、人の揚げ足とるのが得意な汚い大人ばかりを相手に回すことになる。はっきり言って、悪意があるないは置いといて、 お前さんは結構失言が多いからな」
「………」
 自覚はあったのか、それとも人からはっきり指摘されたことがあるのか。気まずく俯いて視線を逸らしてしまう。
「…こういう状況だ。平和大使を抜ける決断をしたって、誰もお前を責めやしねえよ」
「私は正直、あなたには本土へ戻ってもらいたいわ」
「おいおい」
 きっぱり告げるアイシャに渋い顔を向けるフラガだが、今までの彼の言動を考えると、強く非難する気になれないのも事実。
 そこへ、会議が終わって一旦暗くなったモニターが復活する。
『待たせたな。特別平和大使諸君』
「お父様!」
 背景を変えて映し出されたのは、ウズミ・ナラ・アスハ前代表。
 全員モニターに向き直り、きちっと姿勢を正す。
 通信会議を傍受していた時は切られていた画面上部のカメラが、オンラインランプを点灯させた。こちらの姿もアスハ前代表のモニター へ映し出されているはずだ。
『聞いてのとおりだ。…我々は、終戦と、ナチュラルとコーディネイターの和解へ向けて、更に困難な道をゆかねばならない。地球軍、 ザフト、エルクラーク。キラ・ヤマトの身柄は、これらのどの組織に渡しても、悲劇を招いてしまうだろう』
「そんなことはさせません。絶対に!」
 はっきりと言い切ったカガリ。
 その表情に、今までのカガリにはなかった何かを感じたのか、ウズミは一瞬父親の顔に戻り、微笑んだ。
『………うむ。…では、諸君らのこれからについてだが』
「勿論キラについていきます」
『そうだな。だが、同時に彼女を欲している三者への説得も行わなければならない』
 えっ、とカガリの口が開く。
『私の方からも極秘に交渉は行うが、彼らはオーブが『ANGEL-WEAPON』の力を得て第三勢力となる事を怖れている。その誤解を解き、 キラ・ヤマトの身柄をオーブに引き取れるよう働きかけるには、まだ若く、キラ君のことを直接知っている君達の声の方が強いだろう。 そこで、これを機に君達には二手に別れてもらう』
「二手、ですか」
 三者に対して二手なのか、と問うサイに、頷き返すウズミ。
『キラ君に同行し、キラ君を守りつつプラント側を説得するチーム。そして、地球連合軍に対して交渉へ出向くチームの二手だ。 エルクラークには正攻法は通用しないと見たほうがよかろう。そちらへは別に対策を用意してある』
「わかりました。では、わたしはキラに同行します」
「オレも!」
「私も一緒に行きます!」
「っておいこら、ちゃんと分かってるだろうな。みんなしてキラについてくわけにはいかないんだぞ」
 早速意志表示するカガリ、トール、ミリアリア。まさかこの調子で全員キラについていくと言いだすんじゃないかと、フラガが一旦 ストップをかけた。
「わかってますって。地球軍側には、俺行きます」
 こうなるような気がしたんだ、と言いたげな優しい表情で、サイが申し出る。
「俺のほうが、ああいうタイプの大人、慣れてるから」
「あ、確かにそうかもな。委員長体質がこんなとこで役に立ったじゃん。教授ん時みたいに言うこと聞いちまうなよ?」
「わかってるよ。平和大使になるって決めた時から、外交の勉強もしてるし。こっちは任せといて」
「だめよ」

 すっかり地球軍側の代表がサイで決定する流れを、突然乱した静かな声。

 今までずっと難しい顔で黙り込んでいた、フレイの声だった。

「だめよ。サイじゃだめ」
「…ちょっとフレイ」
 どういうつもりよ、と咎めるミリアリアに構わず、すっと顔を上げる。
「地球連合への交渉には、私が代表して出るわ」
「…え!?」
「お、おい」
「ちょ、ちょっとフレイっ、どういうつもりなんだよ!」
 情けない声で抗議するカズイを、キッと睨んで黙らせて。
「……オーブの特別平和大使の声より、アルスター家の遺児の声のほうが、あの人達は聞く耳持つもの。だから、私が先頭に立ったほうが いいでしょ」
「え…っ、フレイ…」
 まさか彼女がこんなことを言い出すとは夢にも思っていなかったサイ。いや、それはこの場にいる全員が同じだ。
「だから、ちゃんと教えなさいよ! どうやったらキラを取り戻せるのか! あの人達と対等に渡り合うのに必要なこと、ちゃんと 教えなさいよ、私に!!」
 今度は鋭い視線がサイに向けられる。
「…フレイ…」
「あたしっ、…私、あんなキラ知らない」
 激昂したかと思うと、今度は複雑な表情でふいっと俯いた。
「天使の種だとか、生体兵器だとか、そんなの知らないわ。私はただキラと一緒にいたいだけよ。パパを守れなかったって言うんなら、 キラがパパの代わりに私のそばにいるべきよ。キラはそうしないといけないの! …だけど、このままじゃキラが連れて行かれてしまう んでしょ。…だったら、私の使えるもの全部使ってでも、キラを連れ戻すの。そう決めたの」
 すっ、と顔を上げる。今度はモニターに向かって。
「アルスター家は代々有力な政治家の家系よ。父の思想はブルーコスモス寄りだったし、たった一人の遺児である私のことを、 地球連合は邪険に扱えないはずだわ」
 自分が今持っている唯一の力。それは、家の名前。アルスター家の肩書き。そして、故人である大西洋連合外務次官ジョージ・アルスター の愛娘であること。
 それをフルに活用できる場所は、地球連合の中。
 キラと一緒にプラントへ上がっても、この力はザフトに通用しない。
 だから、残る。
 キラを守るために。キラを手に入れるために。
『………』
 その、燃えるような瞳に、ウズミは彼女の決意を見出す。
『…そこまでの決意があるのなら、そちらは君に任せよう。フレイ・アルスター大使』
「……………ありがとうございます」
 殊勝に頭を下げるフレイを、別人を見るように見つめる一同。
「……よし。それじゃ、『エンデュミオンの鷹』の名前も、せいぜいフル活用させてもらいますか」
 ぽんとフレイとサイの肩を叩き、ニッと笑うフラガ。
「プラントのほうはオーブのお姫様と、砂漠の虎の元第二副官に頼んだぜ」
「あら、私をあてにされても困るわ」
 任せておいて、キラちゃんは必ず取り戻すわ。…と告げると誰もが信じていたアイシャの口から、突如薄情な言葉が飛び出した。
 驚く一堂に、アイシャはにっこりと微笑んで続ける。
「私は番外扱いにして頂戴。プラントには上がらずに、この基地に残るんだもの」

 ――――――――――モニターに映るウズミ以外の全員が、ぱっくりと口を開いたまま固まってしまった。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
フレイおんなぢから発動!!!
動機や目的はともかく、彼女もちゃんと成長してるんですよー。自分から何かを成そうとするくらい。
見習え、海原。………ぐはっ、しまった自分で自分にとどめ…………バタッ。


(復活)ちなみに海原が「エンデュミオンの鷹」を未だに「エンディミオンの鷹」だと微妙に思い込んでいるのは、
間違いなくセラムン効果による刷り込み現象です。