BRING ME TO LIFE
第二部第ニ章・黒い思惑
(7)
あんぐり。
皆、ぽっかりと口を半開きにして目を見開き、そのままフリーズ。
「そういうことだから、私は地上警護に回らせてもらうわ」
さらりと告げる彼女に、誰もはいそうですかそういうことならわかりましたと答えることができない。
「……………な……な」
「な?」
「………な、んで、そ……」
「そ?」
ぱくぱくと金魚になってしまうサイ。アイシャはクスクス笑いながら、そんなサイをからかうように切り返す。
「……なんだって、わざわざ………」
やっとフラガがまともに口を開いたが、それもまた言葉不足。
「あら、キラちゃんを守るために決まっているでしょう? 他になにがあるっていうの」
「そっちじゃない。…だから、つまり…」
「今まで『蒼穹の鬼神』のことを隠していたのか、ってこと?」
視線だけでそうそうそれ、と咎めるように告げる。
特殊な経緯で入隊したキラやサイ達が知らないのは無理もないが、当時から軍人として前線で戦ってきたフラガにとっては違う。
最初にマスドライバーを、しかもたったの一機で叩き潰した。地球軍にとっては屈辱的な敗戦を喫した相手、『蒼穹の鬼神』。
その名が地球軍の中では知られていないなどということは、決してない。
「…そうね。簡単に言えば、あんまり凄いことになっちゃったから当時の地上部隊上層部が泡食って隠した、というところかしら」
いや、あんまり凄いことにって、自分で言うか。
「そもそもどうして私のことを隠しおおせたかって言ったら、あれはその作戦に横から割り込んだ無登録の機体だったからなの。データ上
ではとっくの昔にスクラップになっている筈なのよ、あのプロトディンは」
「プ、プロト!? って、プロトタイプってことかよ!? どうなってんだ一体!」
「以上、おしまい」
にこっ、と魅力的に笑って、アイシャは一方的に話を閉じた。
「これはまた別の話よ。今はそれより、役割分担が決まったのだから、速やかに次の段階に進むべきだわ」
『うむ。その通りだ』
モニターの向こうで場の静まりを待っていたウズミが頷く。
『アルスター大使。そしてアーガイル大使、フラガ大使には、早急に一旦オーブ本土へ戻ってもらう。残る四名は』
「キラが移送される際、共にプラントへ」
『うむ』
「私はバルトフェルド隊長と合流して、地上から護衛します」
『…今までの助力、感謝する。サバーハ殿』
「あらウズミ様、これからも、ですわ。平和大使の任まで降りると申し上げた覚えはありませんもの」
微笑むアイシャと、力強く頷くカガリ達。
ただ一人、まだ迷っているカズイを除いて。
「びっくりした…」
一先ず部屋に戻ったキラは、ぺたんとベッドに座りながら呟いた。
「…ああ…俺もまさか、あのサバーハ大使が…」
「……………うん」
優しい言葉をかけてくれて、でも厳しいところもちゃんとあって。捕虜であった間も常に気遣ってくれた、お姉さんのような存在の
アイシャ。
けれど彼女は確かに軍人でもあったのだ。
その話をしている間、バルトフェルドはあまりいい顔をしていなかった。
何があったのだろう。
彼女の過去に、一体何が。
キラが思考に沈んでいると、不意にアスランの腕が伸びてきて。
「? アス……」
そのまま、力強く抱き締められた。
「…あ」
「……………」
お前も、俺達の子供も、俺が守る。
必ず守って見せる。
俺達は…お前は一人じゃない。みんながついてるんだ。
………そう言って、力づけてやるはずだった。
ぎゅ、っとキラの手がアスランの袖を掴んだ。
体が小刻みに震える。言葉を紡ごうとしても震えた歯がガチッとぶつかって、上手く喋れない。
「………ア…アスラン……僕……………僕」
「何も言うな。…言わなくていい」
「………」
強く、抱き締められて。
重なる二人の体。
だが。
響く鼓動は、ひとつ。
アスランから響く、その鼓動だけ。
二人はこの時初めて、キラが本当にもう『人間』ではなく、『別のもの』へと変化してしまったのだという現実を、身をもって痛烈に
思い知らされた。
キラは確かに生きている。
だが――――――――――――心臓が、脈打ってはいなかった。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
ちょっと長かったですが、第二章はここで終わりです。間奏を挟んで、宇宙へ脱出します。
………さて、脈が無いのに生きているとはこれいかに。
ゾンビじゃありません。(バイオハザード2観に行きたいですねぇ前作まだ観てないけど)
ヘイゼルに甦らされたわけでもありません。(by最リロガンロック)
脈動というポンプ活動で血を送り出す必要がないという設定になっています。
兵器になってしまったので、血液の役割も変化を起こしているというか。
血というより、循環液。ブレーキオイル…はまた違うか。循環液。うん、そんな感じ。
無茶苦茶なのは承知の上。それ言い出したらそもそもANGEL-WEAPONっていうモン自体が無茶苦茶なんだし。
アスキラかSFかサイキックファンタジーかよくわかんなくなってきた今日この頃。